「…最悪」
「俺は最高な気分だけど?」
実技の時間、対戦相手は完全にランダムに選ばれた相手だった。
くじという至って原始的な方法で。
席番のようなものがモニターに映し出されていて隣あった者が今日の対戦相手、そういうルールだ。
私は完全に油断していた。
くじを先に引いたのは私、遊城十代は私の番号を確認した後でくじを引いた。
まだ20枚はあった。
それでもこの男は狙って私の隣を引き当てたのだ。
偶然だったのかもしれない。
だがこの男の引きの強さは学園内でもトップクラスだ。
ただの偶然として片付けられるものではない。
「私とやったってつまんないと思うけど。
あんたはもっとやる気のある奴とやった方がやり甲斐があったんじゃない?」
「デュエルは誰とやったって楽しいけど今日は名前と戦ってみたかったんだ」
私はこの学園では稀な生徒だろう。
彼のようにデュエルキングを目指しているわけではない。
世間から見れば高すぎる目標もここの生徒としてなら何らおかしなことではない。
熱意を持って学んでいる、褒められたことだろう。
だが私は違う。
私はサイコロを振ったのだ。
そして1番最悪な目を出した。
それがここだ。
「私は誰とやったって同じ。でもお前とだけは本当に嫌だよ。最悪な気分」
留年なんてしたくない。
卒業さえしてしまえばあとはもう自由。
家に帰るつもりもない、ただ生きたいように生きる。
その為には真面目に勉学に励むしかない。
だから面倒だからと授業をサボる事も出来ない。
「それってつまり俺は特別ってこと?」
馬鹿な男だと思った。
何の確認しても無しに身体に穴を開け何の遠慮も無しに舌を噛み切るような女に何をもって懐いているのか。
この男の何がこうさせたのか。
信じられる仲間がいる、生きる喜びを知っている。
そんな男が一体私の何に吸い寄せられたのか。
「お前には何を言っても無駄だろうね」
デッキをデュエルディスクにセットした。
いっそ不戦敗でいいのに。
負けるのが嫌だからではない。
勝敗の決まっている勝負に使うエネルギーが無駄でしかないからだ。
この男の学力が本当のところどんなものかは測れない。
だがデュエルタクティクスも運も勝利への執着も比べるのが馬鹿らしくなる程私はこの男より劣っている。
そこに悔しいだとか惨めだとか、そんな風に思えたらきっと私はもっとこの学園に染まっていたのだ。
「ワンターンで終わらせられたら何かご褒美あげる」
気まぐれで口から出た言葉。
この対戦への面倒な気持ちが勝った。
「え、マジで!?」
馬鹿みたいに嬉しそうな顔。
「先攻後攻お前の勝率が高い方選んでいい。
お前のターンは一度きり、それが条件」
ここまでお膳立てしたのだ。
きっとこの男は私の出したハードルなど余裕で越えてくる。
こんな言い方まるで私がこの男を信じているかのようで嫌になるのだが。
全てはこれまでの実績による予測、仕方あるまい。
「へへっ、約束だかんなー!」
好戦的な笑顔が釈に触る、そんな風に思う程私はこの男を受け入れてしまっている。
やはり今でも後悔している。
時を巻き戻せたらとしたならきっと私はこっそりと持ち込んだタバコを全て処分するだろう。
あの日あんな場所に行かなければデュエルへの熱意がない私とこの男に接点など生まれる筈がないのだから。
「名前」
いや、それでは駄目だ。
戻すのであればそれはあの日サイコロを振ったあの時。
「俺がワンターンで勝てたらずっと一緒にいてくれ」
この男との契約は学園にいる間、それが前提。
「最悪な気分になりそう」
だからこのずっとは有限の時間。
さよならの時はそう遠くない。
きっとこのデュエルが失敗に終わったところでこの男は私に纏わりつくだろう。
想像しただけで身震いがおきそうだ。
「やっぱり俺は最高な気分だぜ!」
歪んだ笑み、この男のそれは本質だったのか目覚めさせたものだったのか、或いは植え付けてしまったものか。
それに罪悪感はない。
私は思い上がってなどいない。
私は断じて特別な人間などではないからだ。
きっとこの男はどう生きたところでどこかでこうなっていたのだ。
「さっさと終わらせて」
面倒で退屈な時間を埋めてくれるだろうか。
そんな期待を抱く程に私をじわじわと侵食するこの男。
酷い言葉をぶつけようが肉体的に痛めつけようが尻尾を振る男。
いっそ優しくすれば私に興味を無くすのだろうか。
無理だ。
私は優しさなんてものを持ち合わせていない。
持っていないものを相手に掛けられるわけがない。
「任せろ!...命令は絶対、ってやつだな」
気持ちが悪い。
まぁどうしても我慢が出来なくなれば逃げればいい。
デュエルが全てのこの狂った世界、学歴なんてものはたいして重要視されない。
だからここを中退した所でそう困ることはない。
私一人生きていくくらいどうにでもなる。
「ええ、命令よ。
お前は私に逆らう事は許されない。
私の機嫌をこれ以上悪くさせるならお前はもうきらない」
遊城十代の眼に火が灯った。
私がこの男を愛せるととするならばそれはその眼から何もかもが消えてなくなる瞬間、その時だけだろう。
この男にきっとそんな時は来ない。
だから私永遠にこの男を愛する時は来ない。
本当に無駄な時間だ。