「(なんでだろう、今日は凄く····)」
トーマスが艶やかに見える。
そう思った事を口にすれば彼はどんな表情を見せてくれるだろうか?
「なんだよ」
遠慮なしに見つめる私にトーマスはそう訊ねる。
口調は荒いが別に彼は怒ってはいない、居心地は悪そうではあるが。
「ねぇ、ほっぺたに触れてもいい?」
私のお願いになんなんだ一体というような顔をした。
だが一瞬悩みつつもトーマスは承諾の言葉をくれた。
「はぁ?····まぁ別に構わねぇけど」
「ありがとう」
了承を得たのでそっとトーマスの右頬に触れた。
反射的にトーマスが目を閉じたので眉上からある今はもう塞がっている傷跡を親指でなぞればトーマスはぴくりと反応した。
「····トーマス」
その反応に思わず傷跡に唇を寄せればトーマスは驚いて目が開けた。
恐ろしい程至近距離で合う目。
私よりも長い睫毛につり目気味の美しいバイオレットの瞳が私を映した。
そんな美しい瞳に映る私はまるで綺麗ではなかった事に泣きそうになった。
それは彼に邪な感情を持っている事への罪悪感から来る感情なのだろうか。
「ごめん、触れるとしか言わなかったのに」
途端に居たたまれなくなって私はすぐにトーマスから距離をとろうとした。
しかしそれは彼に腕を掴まれたことで叶わなかった。
「別に怒ってねぇよ、お前どうしたんだよ」
彼は私の手首を掴んで真っ直ぐ見つめてそう聞いた。
悲しい、お願いだからその目に私を映さないで。
そう願って目を硬く瞑った。
「俺を見ろ」
トーマスのその言葉にも私は恐ろしくて目を開けられない。
何故こんなにも怯えているのか分からない。
私は一体何に恐れを抱いているのだろうか。
「····なら俺も好きにさせてもらう」
彼が口にしたその言葉に反応して反射的に目を開ければ既に彼の顔は先程と同じ位置にいて私が動こうとする前に私の唇に彼の唇を重ねられた。
薄目で開かれた彼の瞳と目が合った。
私の唇に触れる彼の唇が楽しそうに弧を描く。
トーマスは慌てた私を見た後スッと目を閉じた。
それに合わせて私も同じように目を閉じる。
触れるだけのキス、数秒間そうしていた後彼はすっと身体を引いた。
「物足りないか?」
トーマスは先程と同じように口角を上げる。
その怪しい色気に私は呼吸さえ忘れてしまいそうになる。
「····もしもそうだと言ったらどうなるの?」
自らが発したその言葉に後悔した。
これでは期待していると言っていると同然だったから。
トーマスは心底楽しそうに笑っている。
「さぁな、やってみろよ」
私の額に自身の額を合わせた。
相変わらず彼の瞳の中には私がいる。
ああ、なんて醜いのだろう。
「····もっと、したい」
目を固く閉じ勇気を振り絞って正直にそう言葉にするもトーマスからの反応はない。
やはり言わなければ良かったと後悔した時彼はこう言った。
「ならそれを俺の目を見て言えよ」
どうしてトーマスは私の視線を求めるのだろうか。
怯えながらにゆっくりと目を開ければ再び視界に入るその美しい瞳が眩しくてやはりすぐにでも目を閉じてしまいたくなった。
それでも私を見て穏やかに笑うトーマスを見ればそれも出来なくてたまらず彼の肩に顔を埋めた。
彼は喉を震わせて笑っている。
恥ずかしくて仕方なくて今すぐにでも逃げ出したくなった。
けれども私より大きく美しい手に優しく頭を撫でられてしまったらもうそこから逃げ出そうなどという意思は消えてしまう。
「可愛いな、お前は」
トーマスはそう言って自身の肩に顔を埋めた私の後頭部に優しく唇を押しあてた。
普段は意地悪ばかりな彼の恐ろしい程に優しい甘さに溶けてしまいそうになる。
「もっとしたい」
だから私が溶けてしまう前に勇気を出して素直に言うの。
そうすれば優しい彼はやっぱり意地悪く笑って私のお願いを聞いてくれる。
「お前が満足するまでサービスしてやるよ」
そう言って再び緊張で震えていた私の唇に唇を合わせてトーマスは心底楽しそうに笑うの。
その頃にはもう彼の目に映る私の醜さ等どうでもよくなっていた
だってもう彼も私と同じ目をしていたから