「またフラれた」
名前が俺にそう言って泣きついてきた。
一体これで何度めだろうか。
いつも相手から告白されてそう時間が経たないうちに名前の方がフラれる。
その繰り返しだった。
「良い気味だな」
この一年で一体何人の男と付き合ったのか、想像もしたくない程名前の彼氏は入れ替わり立ち替わりしていた。
いつも事後報告でそれを聞かされる俺がどんな気持ちでいるかこいつは想像したことがあるのだろうか。
「そもそもなんでそんなに男が欲しいんだよ」
一番近くにいる俺の事は見向きもせずに別の男と寄り添おうとする名前に心底腹が立った。
だが苛立たしいことにそれを責める権利が俺にはない。
自分で言っていて本当に腹が立つ。
「だって、そうしないと私多分一生結婚できないと思うから」
だから手当たり次第男と付き合っているとでも言うのだろうか。
なんて馬鹿な女だろうと呆れかえる。
そんな馬鹿な女を想い続けている俺はもっと愚かなのも知っている。
「そういえばトーマスは彼女いるの?」
こちらの気持ちも知らずに能天気にそう訊ねた名前をぶん殴りたくなった。
勿論そんな事が出来るはずもないのだが。
「いねぇよ」
俺が好きなのはお前だからな、そう言ってしまえたらどんなに良いか。
大きくため息をつくも名前は俺の気持ちになんて気付く気配もない。
「····ならお願いがあるんだけど」
いつも俺の気持ちなんてお構い無しにずけずけとお願い事を言ってくる名前が珍しく遠慮がちにそう言った。
珍しい事もあるもんだと名前の言葉を待った。
しかしそのお願いは俺の予想を遥かに上回るような衝撃的すぎるお願いで、そのあまりにも受け入れがたい言葉に俺は絶句した。
「久しぶりに一緒にお風呂に入ってくれない?」
「····は?」
いや、待て、何か聞き間違えをしたとか、幻聴だったかもしれない。
あり得ないし意味が分からない。
そう思いこませようとする程に名前のお願いは衝撃的なものだった。
いや、きっとこれは俺の邪な感情が俺にそう勘違いさせたとしか思えない、そうだ、一度落ち着いてもう一度聞けばいいんだと自分を言い聞かせ、一度大きく深呼吸してから名前に訊ねた。
「悪い、よく聞こえなくて、俺の勘違いかもしれない、今なんて言った?」
「一緒にお風呂に入ってほしいって言ったの」
おかしい、俺がさっき聞いた言葉は聞き間違えではなかったようだ。
しかし益々意味が分からない。
こいつは自分が何を言っているか理解しているのだろうか。
確かに俺達は昔小学生にも満たない歳の頃一緒に風呂に入った事はある。
ベッドで一緒に眠った事も。
しかし今俺達はそれから10年以上歳を重ねて明確に男と女と言える身体にまで成長した。
名前は視線を向けるのに躊躇う程胸は大きくなったしそんな名前に俺はとっくの昔に性的興奮を覚えるようになった。
俺達が子供の頃とは違うという事などここ一年男と恋愛関係に至っていた名前だって理解しているだろう。
そんな俺達が、恋人同士でもない大人の男女が一緒に風呂に入る?
何を言っているんだ、こいつは。
「お願い、どうしても、···こんなことトーマスにしか頼めないから」
唖然として言葉を失っている俺に名前はそう続けた。
その理由が知りたいということくらい気付いているだろうに名前はその訳を話す気配はない。
ただこちらを不安げに見つめるだけだった。
いったい神は俺になんの試練を与えようとしているのかと途方にくれた。
寧ろこれは名前なりのお誘いなのだろうか。
考えれば考えるほど分からなくなる。
目の前にはすがるように俺を見つめる名前。
「····勘弁してくれよ····」
「トーマスにくっついてもいい?」
「········もう、好きにしてくれ······」
結局どうなったかというと俺は名前と風呂に入った。
入浴剤が入れられた乳白色のお湯が身体を隠してくれたおかげで名前の身体は見えない。
それでも普段は晒されていないうなじや肩がむき出しになっている姿はなんともイヤらしく見えて俺はまともに直視出来なかった。
ただでさえそんな状況であるにも関わらず名前はそう言って俺の足の間に身体を入れ俺をまるで座椅子のように扱い身体を寄せたのだ。
「お、お前、ほんと何がしてぇんだよ···」
俺はハニートラップでも仕掛けられているのだろうか。
そんな馬鹿な事を考えてしまう程イカれた状況だった。
俺の胸に名前の柔らかい肌が触れている、こんな状況で正常を保っていられる程俺は聖人ではない。
もういっそこのまま犯してしまおうか、そう考えれば俺のモノは完全に勃ちあがっていた。
「····良かった」
名前は安心したようにそう言葉を溢した。
名前が何に対してそう言っているのか分からない。
自身の身体に硬くなったソレが当たっている状態でなんて悠長な女だと呆れた。
名前はこちらに振り返って心底嬉しそうに笑った。
「私いつも女としては見れないって言われてフラれてたから、そんなにダメなのかなって不安になっちゃって」
つまりは俺が反応するかを見たくてこんなふざけた事をしたのだというのだろうか。
そいつらがそう言った理由はなんとなく分かる。
名前は黙っていれば育ちの良さそうな穏やかで可愛らしい見た目をしている。
でも実際の名前は小学生男子のような下ネタにゲラゲラ笑うし自分でも口にする。
彼氏が欲しいとしきりに言うわりには男にも女にも態度が変わらない。
所謂イメージと違った、という事なのだろう。
俺からすればその程度で名前に想いを伝える男達が憎くて仕方ないのだが。
「····なぁ、お前なんでそんなに今から結婚とか気にしてんだよ」
上っ面しか見ていない男と付き合わなくたって名前だったら中身を知っても好きになる男くらい現れるだろうしいずれ恋人くらい出来るだろう。
なぜ今こんな酔狂な事をするまで焦っているのかが俺には分からない。
「だって、一番近くにトーマスがいるんだよ?」
どういうことだ、俺が邪魔をしているとでも言いたいのだろうか。
まぁそれが出来ているのならこちらとしては嬉しい限りなのだが。
だが名前が口にした言葉は予想だにしないものだった。
「こんなにかっこいい幼なじみがいたら、トーマス以上に好きになれる人なんて出来る気がしないもん。
だからトーマスが恋人を作る前に私も彼氏作らなきゃなって」
「·····は?」
名前が言っている事が理解出来ず頭がクラクラしてきた。
「····つまりお前は、お、俺が···す、好きだから俺に彼女が出来ても寂しくないように他の男と付き合っていた、と?」
自分でもおかしな事を言っているという自覚はある。
自惚れていると分かっている、だが俺にはそう聞こえたのだ。
名前は俺のその推測に首を縦に振った。
「昨日フラれた人にね、その····えっちしようってとこまでいったんだけどね、途中でその人が元気なくなっちゃってその後フラれたの。
だから私そんなにダメなのかなって」
情報が纏まらない中名前にとんでも無いことを言われた。
その男は名前の身体を見たというのか?
その上で名前をフったと。
意味が分からないでもそれ以上に目の前の名前に腹が立ってきた。
「お前、こんな状況でそんな事言って俺がなにもしないとでも思っているのか?」
名前の腰を掴んで正面から抱き寄せた。
下腹部に硬くなったそれを押しあてるように抱けば名前はほんのり顔を赤く染める。
「だって、皆私達兄妹みたいだって言うから····トーマスは私の事妹としか見てないのかな、って····」
名前の言う皆とは一体誰を指しているのだろうか?
兄貴達か?
だとしたら俺の気持ちなんて知っている筈だからタチが悪すぎる。
「俺はお前の事妹だなんて思ったことねぇよ。
俺の事男として見てねぇのはテメェだろうが、いつもいつも俺を弄びやがって」
「っ」
むき出しの首筋に噛みついてやれば名前の身体が小さく跳ねた。
その反応に腹が立つ程欲情した。
「俺がお前をどう見ていたのか教えてやるよ」
噛んだそこを今度は舌でねっとりと舐めあげれば名前は俺に抱きついた。
柔らかい胸の感触がダイレクトに伝わってきた。
「なぁ、昨日お前をフったそいつにどこまで触られた?」
自分で確認しておきながらその内容にイラついた。
だが俺はどうにかそいつのつけた手垢を払拭したくて仕方なかった。
「えっと、ちょっとだけ胸、触られたかな?」
ここに別の男の手が触れたのかとイライラした。
名前の言葉を聞くがいなや俺は名前の胸を鷲掴みにした。
「ひゃぁっ」
ずっと触れたいと思っていたそこは想像よりずっと柔らかく手触りが良かった。
荒く揉んだ事でお湯が波打ち先端の綺麗な桃色がちらりと見えそれに俺のモノもどくんと痙攣のようなものを起こす。
この感触を知っている男が俺以外にもいるという事実に虫酸が走った。
「ま、待って、トーマス!」
名前はそう言って力いっぱい俺の胸を押し距離を取った。
まだ抵抗するというのだろうが。
名前は不安そうな目で俺を見つめる。
「····トーマス、私の事好きなの?」
「····ああ、そうだよ!なんで今まで気付かなかったんだよ!」
名前はそんなことはじめて聞いたと不満を口にする。
「子供の頃から言ってただろ」
名前を好きだと自覚した時から名前に向ける好意は隠さなかった。
何度も好きだと言ったし名前も俺を好きだと言っていた。
なのにここ最近の名前は俺の事なんて気にも止めずに次から次に男を作っていた。
「子供の時の事なんて、覚えてないだろうなって思ってたし、最近は言ってくれなかったし、鵜呑みにしちゃだめだって思ってたから···ごめんなさい」
名前はそう言ってしゅんとして頭を下げた。
確かに復讐の為に動き始めたのと同時期に名前と再会してから一度も思いを口にする事はなかった。
そんな事を出来る余裕もなかったししてはいけないと思っていた。
それでも以前より冷たくなった俺に昔と変わらず接してきてくれていた名前にどこか安心していた。
きっと名前も変わらず俺を好きでいてくれているのだと思っていた。
そんな矢先に名前に彼氏が出来たと本人から聞かされた。
裏切られた気持ちになるも数ヶ月もすれば名前はフラれたと自分に泣きついてきた。
それは何度も繰り返されてその度に俺の元に来た。
どうしたってここに帰ってくるのに他の男と付き合う名前が理解出来なかった。
「そうまでして俺を忘れなきゃいけないと思う程俺が好きか?」
そう訊ねれば名前はこれでもかという程顔を真っ赤に染めて頷いた。
そんな名前を見て、なんて無駄な回り道をしたのだろうかと後悔した。
俺さえ改めて名前にちゃんと告白していたらこの身体を誰にも見せずに触れさせずに済んだというのに。
「絶対に逃がさねぇからな、俺がどんな気持ちでお前の男の話を聞かされたと思ってやがる。
二度とそんな勘違い出来ないくらい抱いてやる」
唇に噛み付くようにキスをすれば驚きながらも再び名前は俺の背中に腕を回した。
舌をねじ込み貪るように口内を犯せば名前は驚いて舌を引っ込めようとしたがそれを許す筈もなく強引に絡めとってたっぷりと名前舌の感覚を味わった。
どれくらいそうしていただろうか。
名前の身体がぐったりとしてきた頃ようやく唇を離せば名前は疲れきって俺の肩に顔を伏せた。
「続きはベッドでしてやるよ」
今から行われる事が嬉しくて仕方ない俺は喉を鳴らして笑う。
そんな俺に名前は実に現実的な事を問いかけた。
「····トーマス、ゴム、持ってる?」
「········」
特定の恋人がいない自分がそんなものを常備している筈がない。
名前もまだ処女だ。
所持している筈がなかった。
名前を抱く以上何かあった時責任を取る覚悟くらい出来ている。
だが何よりも名前を大切にするという意思を持っているからこそそれは最低限のマナーだろう。
「上がったら買いに行ってくる。
····だから逃げんなよ」
なんとも格好がつかないがこればかりは仕方がない。
「なら私も一緒に行く!
トーマスとデートしたい!」
「近所のコンビニ行くだけだぞ」
それでもいいと笑う名前が可愛すぎて身悶えしそうになった。
ならばとにかく今は昂ったモノを抑えなければ。
こんな風にくっついていては収まるどころかどんどん元気になる一方だ。
とにかく風呂から出ようと立ち上がれば名前は俺のモノを見て目をぱちぱちとまばたきを繰り返した。
「····なんだよ」
「え、いや、トーマスのっておっきいなぁって」
こいつのこの天然っぷりはどうにかならないのか?
しかし俺は名前のその言葉にろくでもない予感が過った。
本当は名前の過去の男の話など聞きたくはないのだが。
「····お前を振った男はどんどん元気がなくなっていったと言っていたがもしかしてその前に名前が何か言ったんじゃないのか?」
この問いの答えを聞いて俺は心底その男に同情することになる。
「思ってたよりちっちゃくて可愛いねって言ったらもっとちっちゃくなっちゃった」
「····」
そいつの事を殺したい程ムカついていた筈なのに、今俺はそいつに飯くらい奢ってやっても良いとさえ思える程同情してしまった。
なんて残酷な女なのだろう。
だが名前のこのデリカシーの無さがあったおかげで名前の初めてを貰えるのだと思えば結果としては良かったのだが。
「····取り敢えずさっさとシャワー浴びてコンビニ行くぞ」
「はーい!」
それでもそんな話を聞いた後でも勃起がなかなか収まらなかった俺は、このデリカシーのない幼なじみに心底惚れているようだ