「ねぇユベル、ユベルは十代のどんな所が一番好きなの?」
十代が眠ってしまった後また眠気の来ない名前は眠る事のないユベルに問いかけた。
(愚問だね。僕は十代の全てを愛しているよ)
「だよね。うん、私もおんなじだ」
その言葉に同意すればお互い顔を見合わせて笑った。
(なぜだろうね、君が十代を愛していることも十代に君が愛されていることも憎くて仕方ない筈なのになぜか僕は君が嫌いにならない)
ユベルがその疑問を口にすれば名前は一瞬きょとんとした顔を見せた後慈愛すら感じられる表情でこう答えた。
「当然でしょう?私は十代と同じくらい貴方を愛しているし貴方は十代の次に私を愛しているもの」
その言葉を別の人間が言えばなんと自惚れた事を口にするのかと一笑するが名前ならば話は別だ。
名前の言葉は決して自惚れや勘違いではない。
当人達にもわからないが名前とユベルの魂の波長は驚く程合っていた。
それはユベルと融合した十代にも分かっている事だろう。
「ねぇ、ユベルは十代と身体も繋がれたいと思う?貴方が望むのであれば私の身体を使ってくれてもいいのよ」
そう提案するがユベルは首を横に振って否定した。
(確かに僕は深く十代を愛している。
だからと言って身体を繋いでそこに安らぎを求める事はない。
だって僕はそれよりもずっと強い絆で、魂を共有しているのだからね。
そもそも十代と繋がった時点で以前のような事はもう出来ないんだ)
そう言ったユベルの表情は心の底から幸せであるということをもの語っていた。
そんな満たされた彼女に名前は素直に羨ましいなと感じる。
「そうよね。私もユベルが羨ましいわ。
きっと私は十代よりも早く死んでいくわ。
十代と過ごせる時間は酷く短い事を知っているもの。」
そう言って眠る十代の頭を優しく撫でた。
その姿は我が子を愛しく思う母親のようだった。
(最近僕はその有限の時間にも価値を感じる事があるけどね。
それを教えてくれたのは名前、君の存在だよ。
君は有限の時間で生きているからこそ美しい)
名前はユベルのまるで告白のような甘い言葉に声を上げて笑いありがとうを伝えた。
「ユベルにそこまで言って貰える私は幸せね。十代に出会っていなければ貴方に恋をしていたかもしれないわ」
(愚問だね。十代がいなければ決して僕達が出会う事はなかったのだから)
十代に感謝しなければいけないねと二人で幸せを噛み締めた。
(そもそも気付いているかい?
君が十代に抱かれているという事は僕に抱かれているのと同じ事なんだよ)
ユベルがそう告げると名前は少し考えたあと、成る程と手を叩き納得した。
「だからこそ二人に愛されている私はこんなにも幸せなのね」
これが別の人だったなら二股をかけているのだと責められもしただろう。
しかしユベルの存在はそれとは全く別物だ。
誰が彼女を責める事が出来ようか。
そんな話で盛り上がっている時、名前のPDAが小さく振動し着信を知らせた。
「明日香との約束の時間だ。
十代はよく眠っているし起こさないで帰るね。
ユベル、お話に付き合ってくれてありがとう。
楽しかったよ」
(僕も楽しませてもらったよ。
君と話す時間は心地良く思うからね)
そう話すユベルに笑顔でありがとう、それではまたね、と手を振り名前は帰って行った。
(いい加減狸寝入りはやめたらどうだい?)
眠っていた筈の十代にそう声をかけるとスッと目を開けた。
魂を共有するユベルにとって十代の状態を把握する事など容易なものだった。
「···最近お前ら仲良すぎじゃねぇか?」
身体を起こしながらそう言う十代はどこか複雑そうだ。
(それは僕に対して?それとも名前に対しての嫉妬かい?)
恐らく両方だという事は分かっているが敢えてそれを口にすれば十代は不快な表情を見せた。
(君が名前を愛せば愛す程僕も彼女への愛が強くなるんだよ。
だからそんな無駄な事はやめた方がいい)
ユベルが十代にそう伝えれば困ったように頭をがしがしと掻いた。
「それが出来れば苦労しねぇよ」
勿論その答えが帰ってくることもユベルにはお見通しだった。
(そうだね、君は本当に馬鹿だからね)
心の中でうるせぇと不満をこぼす。
勿論そんな心の中でこぼした悪態すら全てユベルには伝わってしまう。
「俺の心(魂)を抜きにしてもユベル、お前は名前の事をどれだけ想っているんだ?」
十代がそう問えばユベルはフッと笑ってその疑問に答えた。
(それを聞かねば分からぬ程君は僕を理解していないのかい?)
その事実は分かってはいるがどうにも認めたくないものだったのだ。
十代はそれを改めて実感したことで大きくため息をついた。
「自分の魂の半分が恋敵だなんて笑えるぜ」
そう言って再び後ろに倒れ込んだ。
(それはお互い様だよ)
ユベルが人であったなら泥沼化して複雑な三角関係が成立していただろう。
しかし精霊かつ魂を十代と一体化させたユベルの存在がそれをなきものにした。
これからもその不思議な関係は続いていくのであろう。
十代は思う事はあるがもう考えてもキリがないといい加減諦めて受け入れる事を決めた。
(なんなら僕の力でもっと名前を君に夢中にしてあげようか?)
どうやら俺は相当ユベルに舐められているようだ。
その軽口に必要ないと突っぱねれば余裕のない男は嫌われるよと笑われた。
腹が立つことも納得いかない事も多々あるが俺達はこの歪な関係をなんやかんやこの生活を楽しんでいるのかもしれない、と自覚して十代は目を瞑り今度こそ眠りについた。
少しでも長く3人で幸せに過ごせる事を祈って