「よし、そうしよう」
最近名前は悩んでいた。
卒業後の事について。
就職の件は問題ない。
海馬コーポレーションの開発部に就職が決まっている。
問題ないどころか十分すぎるくらいだ。
悩んでいたのは十代との今後の関係性だ。
(きっと十代は卒業した後ここを離れるのだと思う)
それに伴い今後どうなるか。
(別れる?冗談じゃない。こんなに好きになれる相手一生見つけられるわけないし一人でいるのが嫌で妥協して誰かと付き合える程器用じゃない)
恋愛方面に超がつくほど無頓着だった十代をその気にしてここまで持っていくのにどれ程の労力を使ったか。
名前は様々な所から攻め込んでやっとこさ今の関係にこぎつけたのだ。
(何度も相手が十代でなければと考えたことがある)
腹黒い事を言っているが名前はけっして性悪ではない。
サバサバとした性格で友人の事を誰かがこそこそと悪意のある発言をしていれば取っ捕まえて正面から説教をしていたし(主にデュエルで)それを素直に謝罪されればその後すぐに慕われ友人になっていた。
万丈目の事を手のひらを返したようにバカにした人間の事も即締め上げた。
万丈目本人には余計な事を、と苦言の声が上がったかなんやかんや良い友人に収まっていた。
そしてそれが出来る程デュエルが強かった。
それこそ十代と並ぶ程に。
名前がその強さを覚醒させるきっかけとなったのは十代の入試デュエルだ。
入学前はせいぜい中の上程度のデュエリストだった。
入試デュエルで十代のプレイングに心を射ぬかれた名前は入学までの間ひたすら努力した。
可能な限り学び看板破りのような真似をして数多くの流派のデュエルを我が物にした。
そしてそれをひっさげてデュエルアカデミアに入学後、多を圧倒する揺らがない実力を身につけた名前に十代自らデュエルを申し込む所まできたのだ。
(勝たなければすぐに私の事など忘れてしまう。)
今までの人生で戦ってきたどのデュエルよりも本気だった。
しかし十代は強かった。
勝敗が決まった時のLP差はたった50だった。
それでも名前の負けは負けだった。
名前が泣いたのは物心がついてからこの時が初めてだった。
(終わってしまった)
そう思った。
恋愛とデュエルを同じと思うなんてバカげている笑われるかもしれない。
それでも十代に認めてもらうにはデュエルしかないのだと名前は察していたのだった。
だからこそこのデュエルの後十代からかけられた言葉に死んでもいいと思える程歓喜した。
「こんなに楽しいデュエルの後になくなよ、名字、いや、名前。俺らもう友達だよな。
これから何度だって名前の挑戦受けるぜ。その時また頑張れよ!
でもまぁ次も俺が勝つけどな!」
初めて十代に名前を呼んでもらえた。
自分を友と呼んでくれた。
それだけで名前は嬉しくて決壊したダムのように涙が溢れたのだった。
その涙を十代は袖口で荒々しく拭いて頭をわしゃわしゃと撫でた。
そしてそれなら毎週金曜はデュエルしようという約束まで取り付けてくれたのだ。
名前はその時思わず十代の胸に抱きついてしまった。
この時十代は、物凄くデュエルが好きな奴なんだなぁという感想だったらしい。
それから沢山の事がおきて沢山学んで沢山傷付いた十代は変わった。
大人になったと本人は言っていたし周りは冷たくなったと言っていたが私は違うと思った。
(傷つくことを怖がっている)
そんな気がした。
寧ろ私には弱くなった気すらした。
以前行っていた週末のデュエルを行わなくなっていた。
それでも私は十代の元に通った。
追い返されるかと思いながらドアをノックすれば普通開けてくれて、よう、と軽い挨拶。
部屋に上がれば特別何か話すでもなかった。
十代はぼーっとしている時間が多かったし私も同じようにするか読書などしていた。
「なぁ、名前はなんで俺の所に来るんだ?」
そんな時間が何日か続いたある日十代が名前にそう訊ねた。
その時名前はなぜそんなことを言ったのかわからなかった。
「十代が好きだからだよ」
今の十代に口にするつもりなどなかったのに何故か名前の口からその言葉が自然と出たのだった。
「え!!??」
自分で言った言葉に驚いた名前に思わず十代は笑った。
「自分で言っておいてなんでお前が驚いているんだ?」
久しぶりに見た十代の笑顔に名前は熱くなる目頭をぐっと堪えた。
「名前は俺と恋人になりたいって思ってんの?」
十代のそのストレートな質問にどう返事をしようか一瞬悩んだ。
しかし十代に嘘はつきたくなかった。
だからこそその問いに頷いた。
「ふーん、じゃあさ、俺とセックス出来んの?」
スッと十代の手が伸びてきてそのまま頬を撫でられた。
その手はそのまま首筋を撫で肩を伝い腕まで撫で上げた。
十代の目が変わっていた。
おそらくこれが融合した精霊の影響なのだろう。
十代の問い、これは対する答えは一つしかない。
「出来るよ、寧ろしたい」
まっすぐ目を見てそう答えれば十代は大袈裟な程笑った。
一通り笑い転げた後十代はこう口にした。
「いいぜ、じゃあ今から俺と、お前は恋人同士ってことで」
そう言ってそのまま押し倒された。
その行為は内心、今セックスをする為だけの言葉だろうと思いつつも自分の気持ちを伝えてダメだったのなら昔の十代はともかく今の十代が相手ならもう望みはないのだろうと考え最愛の人に抱かれるなんて最後の思い出としては最高だろうと考えその行為を受け入れた。
(あー、最初っから気持ちいいなんて十代は案外そっちの道でも食べていけそう)
十代に抱かれている間そんなことを考えていた。
それを情事の後十代に話せば
「お前以外抱くつもりなんてねぇよ」
自分の恋人になんてこと言うんだ、と呆れた顔でそう返された。
どうやら本当に私は十代の恋人になれたらしい、そう自覚すると襲ってきた羞恥心から真っ赤になった名前に十代が発情したことでもう1ラウンド開始されたのだった。
名前達が付き合ったのはほんの数ヶ月だ。
それでも名前の片思い期間は約三年。
なんとしても繋ぎ止めておきたい、それでも十代の意思は尊重したい、そしてある決心をした。
「十代ーー!!!」
「どうした?随分元気だな」
今はもう十代しかいないレッド寮に行き部屋の外から十代を呼ぶ。
自身の決心を伝える為に。
大きく深呼吸を数回したあともう一度大きく息を吸いその場に座り土下座した。
「私と結婚してください!!」
十代は名前の突然のプロポーズに目をぱちくりさせた。
困惑する十代を他所に名前は
言葉を続ける。
「分かってるよ!十代がこれからどこかに行っちゃうの!寂しくないと言ったら嘘になるけどそれを邪魔する気はないの!でもね、私も諦めたくないものがあるの!それが十代!貴方なの!
ほら、あれだよ、十代も色んな場所うろうろするなら住民票とか国籍とかも色々大変でしょ!その辺は私が十代の事扶養に入れるよ!
夫婦だったらややこしい手続きとか私ができるし可能な限り十代をサポートできる!
お金が厳しければ私が仕送りする!
3食めざしでも全然平気だからそっちの意味で不自由はさせないよ!
ムラムラした時はどんなプレイでも付き合う!
私は十代以外としないし清潔保つように努力するから病気の心配もしなくていいし十代が欲情できるように体型崩れないように努力する!
恩着せるわけじゃないの!
そう、推し!十代は推しに課金されてるって思ってくれたらいいから!
十代が他に好きな人が出来たら離婚届も私が絶対に提出する!
だからだから!どうか私と結婚してください!」
ノンブレスでここまで言い切った。
十代の表情はぽかんとしたままだった。
しかし名前の言葉を理解した十代は可笑しくなって肩を震わせた。
「取り敢えず土下座はやめろよ」
笑いを堪えながら名前を立ち上がらせて自室に招き入れた。
名前を座らせ自分も隣に座った。
「お前は本当に俺の事好きなんだな」
先程の事を思い出してまた十代が吹き出す。
そして数秒無音の時間が過ぎる。
(なぁユベル、俺はこいつなら大丈夫だと思う、良いか?)
(······この女が君と僕にとって害をなすとなったら即別れると約束してもらうよ)
(ああ、わかった)
「じゃあ結婚するか」
先程の名前のプロポーズに十代が了承の言葉を口にした。
今度は名前が驚きのあまり目をぱちくりさせた。
「けど金の事は気にしなくて良い。
飯もしっかり食え。
多少太ってもちゃんとお前に欲情するから無理はすんな。
ずっと傍に入れないしややこしい作業が苦手だからその辺フォローいれてもらえるのは助かる。
お前となら落ち着いたら子供作ってその子供とデュエルしてって未来も良いかもしれないなと思ってる。」
十代のその言葉にあの時と同じように涙がでた。
それを十代はあの時と同じように拭いた。
「名前は泣き虫だな」
違う、そんなのは十代の前だけだ、と内心反論した。
十代の撫でる手はあの時より優しかった。
「俺本当はずっと前から名前の事好きだったんだと思う」
十代の言葉に名前は更に泣いた。
(君は泣き止ませる気があるのかい?)
「えっ?」
その時、ユベルが十代に苦言を言った声が名前の耳にも届いた。
精霊を認識する能力のない名前に。
声のする方を見れば姿まで認識することが出来るようになっていたことに驚愕する。
それに喜びで震えた名前は勢い余ってユベルに抱きつこうとするが実体を持たないユベルにそんなことが出来る筈もなく床にダイブしそうになる所を十代に受け止められた。
「お前が飛び付くのは俺だけでいいよ」
そう言って背中をとんとんの撫でる十代に力いっぱい抱き付いて何度も何度も大好きだと伝えた。
卒業後予定通り入籍し十代は旅に出たが時間が出来る度に名前の元に帰り10年程経った頃子供も生まれ一年の半分は名前と共に過ごした。
十代そっくりな子供の誕生にユベルもデレデレとなった。