不機嫌な子猫

「トーマス、痛い」

「んー」

一体どうしたのだろうか。
どうにも今日はトーマスの様子がおかしい。
家に来るなりろくに口をきかないと思えば今は何も言わずに私の膝の上に向かい合う形で跨がって肩に噛みついている。
ソファーに座っている事もあるしそもそも華奢なトーマスに乗られていてもそれほど負荷はないから別に構わないのだが。
けれど私の肩に突き刺さっているトーマスの人より少し鋭利な犬歯は少し痛みを感じる。

「何かあった?」

「····別に」

トーマスは私といる時はおしゃべりと言う訳ではないが普段は私が何かを言えばきちんと応えてくれる。
いつもより口数が少なく素っ気ないところを見てもトーマスにとって何か面白くはない事があったのだろう。
けれどトーマスはそれを私に話すつもりがないらしい。
黙っていろと言わんばかりに私の肩にさらに歯が更に食い込んだのを感じた。

「いたたたた····ごめんごめん」

「ガキ相手にしてるみたいな風にしてんじゃねぇ」

この状態のトーマスが子供以外なんだと言うのだろうか?
トーマスを宥めるつもりで頭を撫でればそれがお気に召さなかったようで私に不満をぶつけられた。
まぁぷりぷりしているIVも可愛いのだから別にいいのだけれど。

「私に何かしてほしいことある?」

「·····」

肩に噛みついていたトーマスの歯が一瞬弛んだ。
でもそれはすぐに再び私の肉に食い込んだ。
黙っていた方ということだうか、分からない。
取り敢えずトーマスの機嫌をこれ以上悪くしないようにトーマスの腰に抱きついて大人しくしておいた。

「····なんで、お前はいつも····」

トーマスは私の肩から顔をあげ私を睨んだ。
非常に眼力のある彼に睨まれれば普通であれば多少恐怖を感じたかもしれない。
しかし今彼は私の膝の上にいるのだ。
それは大きな子供が癇癪を起こして拗ねているようにしか見えないので彼に対する恐怖心はない。

「私がなに?」

「·····」

トーマスは頬を少し赤くして私から目を逸らした。
性的に欲求不満なのだろうか。
しかし視線を落として確認するも彼のソコが硬くなっているわけではない。
トーマスは若い事もあってそうであればすぐにソコが反応を示すから。

「そういうデリカシーがないの、やめろ!」

「あーごめんごめん」

トーマスは私の目線の動きで今私が何を考えているのか察したようだ。
トーマスは妙な所が目敏い。

「ごめんねトーマス、私は言ってくれないとわかんない」

これは普段から彼に言われているのだが私はどうにも鈍いらしい。
どうして察するということが出来ないのかとよく怒られる。
それはトーマスに興味が無いというわけではけっしてないのだが。
でもトーマスはどうにもこう言わなくても全て分かってほしいという欲が強すぎてたまに困ってしまう。

「····ぜってぇ馬鹿にされそうだから言わねぇ」

「いや、しないよ」

というかこんなに子供のように甘えた姿以上に恥ずかしいことがあるのだろうか?
別にこうされていて嫌だとかやめてほしいとは思わない。
ただ彼のさじ加減がよく分からない。
だから私は彼の口からから彼にとっての正解を教えてもらう他無いのだ。

「ごめんね、私なんの事か分かんなくて。
でもそれって寂しいからトーマスの気持ち教えてほしい」

おそらく甘えたいという気持ちがないわけでは無いだろうと思ったのでそう言って頬に唇を寄せた。
トーマスはそれを避けようとも突き放そうともせずに私の背中に回した腕に力が入った。

本当にどうしたのだろうか。
どうすればトーマスの機嫌が取れるか考えていたその時だった、トーマスが口を開いたのは。

「···なんで連絡、入れてこないんだよ」

「え?····ああ、だってトーマス仕事だって言ってたから」

トーマスとは互いのスケジュールをある程度ざっくりと共有している。
トーマスの仕事の拘束時間が日によってまちまちなので予定が立てづらいのでそうしておいた方が会いやすいからだ。

「···それでも!····お前は俺に会えなくて寂しいとか、そういうの、ないのかよ!」

「いや、そんなことないけど···え?なに、それが原因?」

「わ、悪かったなぁ!」

トーマスは顔を真っ赤にして私を睨み付けたあと再び目を逸らした。
私が連絡を取ろうとしなかった事が気に入らなくて拗ねていた?
なんということだろう、なんて人なんだろう、彼はどれだけ

「トーマス私の事本当に大好きなんだね」

「なっ!!??う、うるせぇ!!
名前は俺の事好きじゃねぇんだろ!!」

どうしてそうなるのだろうか。
連絡を入れない事が彼を好いていないことになるのだろうか。
それをしなかったのは今週は私も忙しかったのとトーマスもスケジュールが詰まっていたのを知っていたので余計な気を使わせないようにと思ってのことだったのだが。

「私トーマスのこと大好きだけど、本当にそう思ってる?」

拗ねてそっぽを向いたトーマスの顔を無理やりこちらに向けてじっと見つめた。
彼は動揺しているようで目を泳がせている。
それがまどろっこしくてそのまま優しく唇を奪えば彼はひゅっと息を飲んだ。

「っ···」

「ごめんね、忙しそうだったし邪魔になるかと思ってた。
これからはちょくちょく入れるようにするから許してくれる?」

ちゅっちゅっと優しく彼の頬にやおでこ、鼻先に唇を寄せれば不機嫌に吊り上げっていた彼の眉尻が下がっていき頬の赤みは更に増していった。

「べ、べつに嫌々してもらわなくてっ、いい!」

完全に拗ねている。
とても可愛いのだがここでそれを言ってしまえば彼の機嫌を損ねるかもしれない。
正直それは面倒だと思ったのでそれを指摘するのはやめておいた。

「嫌々じゃないよ、トーマス。
トーマスの事大好きだからトーマスがそう言ってくれるの嬉しいよ」

「······う、嘘だったら、許さねぇからなっ!」

トーマスはそう言って先程まで噛んでいた私の肩をペロペロと舐め始めた。
ハッキリいって完全に警戒していた野生動物を手懐けたようにしか思えない。

「嘘なわけないでしょ、だーいすきだよ、トーマス」

「······〜、痛くして、悪かった····」

トーマスは私に抱きついたまま謝った。
恥ずかしさからか顔は伏せたままだった。

「大丈夫だよ、ちょっと気持ちよかったし、ね」

「え」

そう口にすればトーマスはすぐに顔を上げた。
本当に現金な子だと思う。

「トーマスも噛んであげようか?」

「なっ、え、い、いや···」

トーマスは分かりやすい程狼狽えている。
本当に可愛い子だ。
明らかにその行為に興味を示しているところがまた。

「少し屈んで?」

「た?、あっ、おい、名前!」

トーマスは私の言葉に動揺しつつも軽く引っ張れば素直に屈んた。
だからそのまま彼のシャツのボタンを少し外して彼の肩を露にした。

「痛すぎたら言ってね?」

「なっっ!!??」

そして彼がしたのと同じように私もトーマスの肩に噛み付いた。
トーマスは大袈裟な程驚きの声をあげた。
まぁそれも想像通りだったのだが。
彼がしたのと同じように何度かがぶがぶと彼の肌に歯を立てた後トーマスの肌に薄くついた歯形に舌を這わせればトーマスは身体を震えさせた。

再び目線を下に下げれば今度こそソコは大きくなっていた。

「ご飯の前にいちゃいちゃしよっか?」

トーマスの耳元で精一杯甘い声でそう誘えばトーマスは力いっぱい私に抱き付いてきた。
トーマスのスイッチは完全に入ったようだ。

「他の所も沢山噛んであげるね」

そう言って手始めにと言わんばかりにそのまま彼の耳朶に歯を立てた。

「っあっっ!!」

トーマスのその反応に思わず舌舐めずりをした。
既にすっかり出来上がってしまっている彼は私を求めてその熱の籠った視線を真っ直ぐに私にぶつける。


ああ、なんて····


私の可愛い可愛い恋人はけっして無垢な子供などではなかったようだ