白く染まれ

「今年は雪が降るかもしれないね」

テレビで週間天気が発表されていた。
その日は、今年のクリスマスは0℃を下回るらしい。

「寒くてかなわないから勘弁してほしい」

俺も名前も寒さに強くはない。
お互い夏でも半袖を着ない程に。
名前に至ってはこの時期は空調なしではベッドから出てくる事すら出来ない。

「冬服なんかは楽しくて大好きなんだけれどね」

「そんなに足丸出しで何言ってんだ」

名前はゆったりとしたケーブル編みのニットにショートパンツをはいていた。
そこから伸びる足は惜しみ無く素肌晒していた。

「部屋の中は暖かいから良いの」

名前はそう言って先程飲み終えて既に中身が空になっていたたカップをシンクへと運んだ。
丁寧にカップを洗っている名前の背を見た。

俺より背が低く肩幅もなければ力もない、俺に対してなんの警戒もしていない無防備な名前。
ほんの少し力を込めれば簡単にねじ伏せられるような酷く弱い生き物。

なのにどうしてだろうか。


「どうしたの?」

「別に」

「すぐ終わるからね」

後ろから名前を抱きしめた。
抱き付いたという表現の方が適切かもしれない。
俺は名前の小さな頼りない背中を見ていると何故かこうしたくて堪らなくなる。

名前はそんな俺をからかう事もなければ咎める事もしない。

カップを洗い終えた名前は手をタオルで拭くと、おまたせと言って腹に回されていた俺の手に自身の手を重ねた。

そこで俺は名前を抱きしめていた腕を弛めた。
名前は穏やかの表情を俺に向け手をとって再び先程まで座っていたソファーに連れて行った。

「甘えるのと甘えられるのどっちが良い?」

「···両方」

「ん、じゃあ先に好きな方どうぞ」

そう言われたので俺はソファーに座って名前を膝の上に横向きに座らせた。
腰を抱き胸に顔を埋めると名前はくすぐったい、と笑いながら俺の頭を優しく撫でた。

「これって甘えてるの?甘やかされてるの?」

名前は俺の背に腕を回してぎゅっと抱き付いてそう訊ねた。
俺は甘えているつもりだったのだが名前はこうされることが嬉しいようだ。

「別にどっちでもいいだろ」

甘えているということを敢えて口にするのも気恥ずかしかったからそう言ってそのまま唇を合わせれば名前は拒む事なく目を閉じ俺を受け入れた。

「もっとしたい」

軽く唇をあてるだけのそれでは物足りなかったようで名前はストレートな言葉でそうおねだりしてきた。

その気持ちは俺も同じだったので再び名前の唇にキスをした。
角度を変え何度も何度も唇を合わせた。

「やっぱり私が甘やかされちゃったみたい」

名前はそう言って頬を赤く染めた。
先程より名前の身体が温かくなっているように思う。

「雪、沢山積もっちゃえばいいのにね」

名前がそう言って窓の外を見た。
俺も同じようにそちらに目を向ければいつの間にか雪が振りだしていたことを知った。

「寒がりのくせに何言ってんだよ」

そう俺が言えば名前は苦笑いを浮かべながら言った。

「吹雪になって雪が沢山降っちゃえばトーマス帰れないかな、って」

そして今度は名前が俺にキスを一つ。
名前のこういう所が本当にタチが悪いと思う。

「···素直に泊まってって言えよ」

「ん····」

名前は俺に力いっぱい抱き付いた。
なんて可愛い女だろうかと思った。

「違うよ、ずっと吹雪いてずっと一緒にいられたらなって思ったの」

「まぁ稼がねぇと一緒にいられないからな」

俺の現実的な言葉に名前は笑う。

「まぁ私もトーマスのグッズ買わなきゃいけないからお仕事頑張りますよ」

そう言われて少し複雑な気持ちになった。

「····取り敢えず俺のポスター大量に寝室に貼るのやめないか」

「それは無理」

リビングには人を入れる事もありそういったものは全て寝室に飾られていた。
夜寝る時はまだいいのだが朝起きて一番に壁に貼られた自分の顔を視界に入れた時なんとも言えない気持ちになるのだ。

「だってトーマスのファンが持ってるもの私が持ってないなんてなんか癪だしせっかくなら飾りたいじゃない」

「····お前は俺のファンとは違うだろ」

俺はファンに手なんて出さない、そう言って名前の太ももを撫でた。
相変わらずさわり心地の良い太ももだとおもった。

「ん、トーマス私のこと大好きだもんね」

名前は自分でそう言って少し照れたような表情を見せて言った。

「トーマスの手がね、そうやって私の肌に触れるのが気持ちいいから」

だからタイツはいてない、そう続ける。
俺はいつだって名前の言葉一つに心を乱される。

「やっぱり今日は私が甘えてもいい?」

名前はとびきり甘い口調でそうおねだりした。
俺は黙って名前をそのまま抱き上げ寝室へと向かう。

名前は俺の首にぎゅっと抱き付いて首筋に唇をあてた。

つい先程までは甘えたくて仕方なかった筈なのに今では名前を甘やかしたくて仕方なくなっていた。

名前をベッドに降ろし俺自身も隣に寝転んで足を絡めて名前を抱きしめた。


そして再び唇を合わせる頃には先程不満を述べていた壁に貼られたポスターの事などすっかり忘れてしまっていた。

外はどんどん白く染まっていく。

これは本当にクリスマスの頃にはかなりの積雪になるかもしれないと思った。


本当に帰れなくなればいいのに、そんな馬鹿げた事を本気で願いながら俺は名前と肌を合わせた