絵本は卒業した

「····」

「あの····ご、ごめん」

お互いの間になんとも気まずい空気が漂っている。
この空気を作り出した原因は私だ。

「···そんなに嫌か?」

「ち、違う、···けど」

きっかけはトーマスだった。
私達が付き合い初めてから約半年程経った。
私は平日仕事をしていてトーマスは職業柄平日よりも休日に仕事が入る事が多かった。
だから付き合い初めて半年とは言いつつもまともにデート出来た回数は両手で数えられてしまう程だった。

「俺はもっと名前とイチャイチャしてぇ」

「あっ、う、うん」

トーマスの視線が私に突き刺さってそれが痛い。
外見や職業、家柄を含め私が今後ここまで恵まれた男性とお付き合いすることはないだろう。
寧ろなぜこんな人が私を好きになってくれたのかが分からない。

それでも出会った頃から大切に大切に扱われてきた。
優しくて甘くてそんなものに包まれ続けた私が彼に惹かれるのは必然的で、気付けば彼を好きになっていた。

「まだ帰したくない」

そんなトーマスから告白されて恋人同士となった。
付き合い初めてからもトーマスはずっと優しかった。
会えない時間も隙間時間を見つけて電話をくれた。
ほんの数分の為に私の元に足を運んでくれた事が何度もある。

いつだって私の気持ちを最優先に考えて行動してくれていたトーマスが初めて私に強く自分の意思を主張した。

「はっきり言ってもう限界なんだよ」

トーマスはそう言って私の手をとって指先に唇を寄せた。
その姿は恐ろしく様になっていてあまりの美しさに目が眩んだ。

「俺はお前を抱きたい」

「っ····」

恋愛経験が殆どない私にもトーマスが私を帰したくないと言った言葉の意味を理解していた。

それでもあえて言葉を濁さずトーマスが発したその言葉に身体中の血液が沸騰しているかのように感じて身体が熱くなぅた。

私達はまだそういった行為に至ったことはない。

トーマスは私の腰に手を回し私を抱き寄せた。

「なぁ····名前····」

「ひっ···」

耳元で囁かれる甘ったるいトーマスの声に思わず声が漏れた。
反射的に後ろにのけ反りそうになるも頭の後ろに添えられていた腕が私が逃げる事を許さなかった。

「ホテルが緊張するなら俺の家でも名前の家でも、どこでもいい」

「っ、や、やめっ···!」

トーマスの舌が耳を這いずった。
そしてその歯が耳朶を優しく噛んだ。

「今日は逃がさねぇ」

トーマスにこんなに強く何かを要求された事は初めての事だった。
いつもいつも優しくて、甘くて、女の子皆が憧れるような理想の王子様みたいな人だった。

「俺を拒むなよ」

この人は本当に同じ人なのだろうか?
トーマスはこんな目をしていただろうか。 
私を見つめる目が熱くて、それがとても痛くて胸が苦しい。

「···拒むつもりなんて、」

苦しくて視線を逸らして否定の言葉を口にしようとするもその言葉はトーマスの唇によって最後まで伝える事は出来なかった。

噛みつくように乱暴に押しあてられた唇に頭が真っ白になった。

強い視線、乱暴なキスに私は、私はどうしようもなく胸がときめいてしまった。

「っ、とぉっ···んぅっ···」

それでもなんとか落ち着かせようと言葉を紡ごうとするもトーマスはそれをさせないと言わんばかりに私の頭強く抑えつけた舌を押し込んだ。

全身の筋肉が強張った。
それでも続けられるその行為に次第に身体から力が抜けていきふらつきそうになった頃ようやくトーマスはそれをやめて両手を腰に回して強く私を抱き締め肩に顔を埋めた。

「·····と、トーマス、?」

「····俺ばっかり、お前の事好きで····ああ、もうムカつく」

これが本当のトーマスなのだろうか?
これが彼の本心なのだろうか?

トーマスはちっとも王子様なんかではなかった。
それでも私の胸はドキドキしっぱなしだった。
おそるおそる背に手を回せばトーマスが私の肩から顔を上げた。

赤くなったトーマスの顔を見てなんともたまらない感情が爆発した。

「····あ、のね········私、その、····経験なくて····だけど·····」

トーマスが私を見る目が変わった。
先程とは比べものにならない程それはギラついて見えた。





「·····私も帰りたく、ない」

絞り出した言葉にトーマスの心臓が大きく鳴った。
私はトーマスが今どんな顔をしているのか見たくて仕方なかったけれど上げようとした顔はトーマスの胸に押し付けられてしまいそれは叶わなかった。




その日初めて経験したそれはおとぎ話やドラマの1シーンとは全然違っていた


ずっと痛くてずっと辛くて、でもそれがとても気持ちよかった