「IVも胸の大きい人が好き?」
「·····はぁ?」
名前がぽつりと一人言のように呟いた言葉に俺は聞き間違えかと思い名前を見た。
しかしそれをすぐに後悔した。
目線の先にいた名前は自身の胸に手をあてていてその仕草を見てすぐに先程の言葉が聞き間違えではなかったのだと察してしまった。
「····も、ってなんだよ」
「一般論?」
名前は悲しげに自分の胸を触ってため息をついた。
俺はいたたまれなくなって視線を逸らした。
「私もう18なのに、大きくなってくれなくて」
「〜お前女だろ!もう少し恥じらいの気持ちもてよ!」
「IVにしかこんな話しないよ」
名前にとって俺は一体どういう立ち位置にいるのだろうか。
名前を異性として好意を向けている俺としては非常に複雑な気持ちになる。
「あれって本当なのかな?」
「····なんだよ、あれっ、···いや、待て、言わなくていい!」
俺がそれに気付いてしまったことは幸運だったのか不幸だったのか、だが気付かなかったところで結果が変わったわけでもないしどちらでもないのだろう。
「男の人に胸を揉んでもらうと大きくなるってやつ」
「言わなくていいって言っただろ!!」
言うなと言ったにも関わらず名前は俺の気持ちなんてお構い無しにそれを言葉にした。
俺は名前に異性だと認識されていないのだろうか。
「ねぇ、IV」
「うるさい黙れ!頼むからっ!」
こんなの俺じゃなくたって今から名前が言おうとしてる言葉を想像することは容易いだろう。
俺はそれを聞きたくなくて両手で耳を塞いで自分が聞きたくないという意思を持っている事を分かりやすくアピールした。
それを見て名前は俺の顔を見つめ少し悲しそうに一言呟いた。
「····は?」
それだけ言うと名前は俺に背を向けてしまった。
「····おい、今、なんて·····」
名前にそう問いかけるも名前はこちらを振り返ろうとしなければ質問に答えることもしなかった。
先程名前が呟いた短い言葉、それは特別な能力を持っているわけではない俺でさえ理解出来てしまうような短い単語だった。
だがそれが、その予測が合っているのか分からない。
もしかしたら俺にとって都合が良いように脳が解釈した言葉に過ぎないのかもしれない。
「······なぁ、俺は、····わるい、お前の話聞きたくないだなんて言って」
ちゃんと聞くから、そう言って名前の肩を掴んで強引に此方を向かせればすぐに分かった。
俺の予想は当たっていたことに。
「·····そんな顔するんだな」
「····私だってそりゃあ、人間だもの」
名前の頬は真っ赤に染まってした。
それを指摘してやればその顔は更に赤く染まった。
「····IVのこと、好きなの」
笑えるくらい赤くなった顔で名前は俺に再びその言葉をくれた。
先程は音として聞く事が出来なかったその言葉に胸が締め付けられた。
その心地よい締め付けに顔がにやけてしまう。
「なんで笑ってるの」
名前は俺恨めしげの目を向ける。
俺の反応が気に入らなかったようだ。
だが俺の気持ちも少しは理解してほしい。
手応えを感じなかった想い人から好意を告げられたのだ。
緩む顔を抑えきれる筈がない。
「いや、····嬉しくてつい、な」
俺はそう言って名前を抱きしめた。
名前は驚いて間抜けな声をもらすも少し悩んだ後俺の背中に手を回した。
「····IVの気持ちもちゃんと言って」
「ああ、分かってる。
俺もお前と同じだ、名前が好きだ」
躊躇することなくそう伝えれば名前の心臓が大きく鳴ったのを触れあっている身体が俺に知らせた。
そして徐々に早くなっていく心音にやはり俺は嬉しくて笑ってしまう。
「·····私の胸ちっちゃいままかもしれないけどそれでもいい?」
「お前·····まぁお前に空気を読めとか無理な話だよな」
想いが通じあったばかりだというのになんとも情緒のない会話にずっこけてしまいそうになった。
だがそんな名前に惚れてしまったのだ。
この天然っぷりに癒され助けられたことも何度もある。
これは名前の個性にすぎないのだろう。
「別に気にしねぇよ」
そもそもない名前が気にするほどない訳無いわけではないことを俺は今身をもって実感している。
胸にあたるそれは弾力を感じている。
「IVが責任持っておっきくしてね」
「····まぁ保障は出来ねぇけどならなくても責任もって大切にしてやるから」
私はもう少し大きくしたい、なんて名前は不満げに呟いた。
告白には照れていたのにこんな話は恥ずかしげもなく話せるのだから名前はやはりよく分からない。
「とりあえず1日5分から始めない?」
「ダイエットじゃねぇんだぞ。
·····別に構わねぇけどそれだけですまねぇからな、それでもいいならやってやるよ」
健全な男がそれで終われる筈がない、それを理解しろと伝えれば名前は首を傾げた。
まさか俺が言っていることの意味を理解していないのだろうか。
呆れかけたその瞬間
「私はIVとえっちしたいよ」
名前は大きな爆弾を落としていった。
その威力は過去最高レベルの威力を持っていた。
「だからね、胸ちっさくて物足りないかもしれないけど、私IVを満足させられるのうに頑張るから、捨てないでね?」
俺は名前といると長生き出来ないかもしれない、その時そんな風に思った。
「えっちなDVD見て勉強してるんだけど何しろ実践はないからちゃんと出来るか分からないけど、ちゃんと出来てるかIVが教えてね」
俺とする事を想定して知識を得ているだなんて、なんだろう、こう、····ああ、なんて愛しい女だろうか。
「あ、そうだ。
この前IVが聞いてきた私の今度の誕生日プレゼント育乳ブラお願いしようかな」
「····いくらなんでももっと他の物があるだろう!?
付き合い初めて最初の誕生日だぞ!!」
初めてのプレゼントに下着が欲しいだなんてぶっ飛びすぎている。
だがそれを指摘すれば名前は悲しそうに自分で買うには値段が厳しいと訴えてきた。
「······分かった、買ってやるから、だから他にも欲しいもの考えとけ」
さすがにいきなり下着を送るという事に抵抗があった俺は名前にそう言った。
名前はさすがに二つも貰えない、と訴えたが俺が強くそれを強要したので渋々その要求を飲んだ。
「あと俺の事本名の方で呼べ」
「···とーます?」
名前には本名を教えていた。
だが出会った時から俺はIVで周りもみなIVと呼んでいたので名前も呼び名を変えなかった。
俺自身もIVという名に愛着を持っている事もあったのでそれをやめさせる事はしなかった。
だが状況が変わった。
想いが通じあった恋人にはやはり本当の名で呼ばれたいと思った。
「あはは····慣れないね、でも呼んでるうちにこっちがしっくりくるようになるんだろうね、トーマス」
「ああ、じきに慣れるだろ」
その名は大切な両親から貰った最初の贈り物だ。
大切な人からはその名で呼んでもらいたい。
密かに持っていた願望が一つ叶ったことが俺は嬉しく堪らなくなった。
「いっぱいデートしようね」
「ああ」
「デュエルミスしても怒らないでね」
「とりあえずちゃんとカードテキストを読め」
「私にもファンサービスしてね」
「特別扱いしてやるよ」
「いっぱいえっちしようね」
「······その言葉に、後悔するなよ」
この日の俺は結ばれた歓びに浮かれていた
だから予測なんて立てられなかったのだ
名前がとんでもない才能を持っていたことを
俺が死ぬまで名前に翻弄されるのだということを理解したのはもう少し後の話だ