推しからの供給に溺れる

「あ〜あ、翔君はいいよね〜〜」

そう言って名前さんは僕の肩に腕を回してきた。

「何がっすか?」

その言葉の意味を問う。
まぁ分かっているのだけれど。

「寮でも学校でも十代とずーっと一緒にいられるじゃん」

名前さんはアニキの熱狂的なファンだ。
僕でさえたまに引いてしまう程に。

「同じ部屋っすからね」

「私もレッド寮に住みたいー!」

このやり取りも何度目だろうか。

「無理っすよ、名前さん女の子じゃないっすか」

「そんな当たり前の事言わないでよね」

名前さんは子供のような駄々に正論で返せば両腕で間接技を決めようとしてくる。

「あとくっつきすぎっすよ!」

「翔君だって十代とくっつきすぎじゃん!あ〜なんか翔君から十代の匂いがする気がする」

なんて変態くさい言葉だろうか。
それでも僕からすればこの多感な年頃に異性にここまで密着されることは非情に気恥ずかしい。
名前さんはそれに気付いていないけれど。

「ちょっ、やめてくださいっす!あとほんとに色々ヤバいっすから!」

「そんなに生意気な態度とるならセクハラしちゃうぞ」

いったいこれ以上何をするというのだろうか。

「健全な高校生男子にくっついてるだけでもうしてるようなもんじゃないすか」

「もっと凄い事しちゃうぞ〜?」

もはやあきらかに僕をからかう事を楽しんでいる名前さんにきっぱりと文句を言ってやろうと言葉を放とうとした時僕の言葉を遮る人物が現れた。

「ちょっと名前さん!ほんとそろそろいい加減に、」

「ふ〜ん、じゃあ俺にしてくれよ」

アニキだ。
正直もっと早く現れてほしかった。

「あ、アニキ!」

「じゅ、十代!」

アニキの登場に途端に慌てる名前さん。

「ほーら、俺になら何してもいいぜ?」

「う」

笑顔だ両手を広げて名前さんを誘うアニキ。
もっとも僕にはアニキが全然笑っているようになんて見えなかったけど。

「ちょっと名前さん!なんで僕の後ろに隠れるんすか!」

「や、だ、だって!!」

アニキの登場により先程の事が嘘のように名前さんは女の子へと変わる。
レッド寮に来たいとまで言っていた名前さんは今僕の背中に必死に隠れようとする。

「俺じゃ嫌なのか?」

アニキは名前さんを覗き込んでそう訊ねる。

「そんなわけないじゃないっすか。
そもそも名前さんはアニキの」

「あっ、翔君!ばか!!」

その馬鹿げた質問に僕が否定の言葉を述べようとする名前さんは急いで僕の口をふさいだ。

「むぐっ、ちょっ、何するんすか!!」

「だ、だって!」

正直ずっと僕の首に柔らかいものがあたっていてそれが凄く気になる。
お年頃の僕から言わせてもらえば非情に危うい。

「だってなんなんすか!」

強く抵抗して名前さんを振り払えばもじもじとして頬を赤らめた。

「······推しがイケメンすぎて尊い」

「·······」

やはり名前さんはあほなんだろうなと思う。

「名前さんはほんとちょっと、いやかなり頭のネジが足りてないみたいっすね」

「どういう意味だ?翔」

「名前さんは趣味が悪いってことっすよ」

確かにアニキに人を惹き付ける魅力があるのは分かる。
好意の種類は違うが僕や剣山君がいい例だ。

「なんだそれ、どういう意味だよ」

「そのまんまの意味っすよ」

アニキは確かに頼りになる良いアニキだと思うけど僕が女の子だったら多分そんな目でアニキを見れない。
多分もっと普通の意味で優しい人を好きになる。

「取り敢えず悪意があるのは理解した。
名前、ほら」

「俺にはしてくんねぇの?」

理解はしているけど改善する気なんて全くないだろうアニキは名前さんをけしかける。

「〜」

「ほら」 

アニキは躊躇う名前さんにお構い無しに名前さんを抱き締めた。
その行動に名前さんは悲鳴をあげる。

「ぎゃああああああああ!!!」

「はははっ、そんなに嬉しいのか?」

アニキはなんの躊躇もなく名前さんの胸に手をあけた。

「すげー心臓早えな。そんなんじゃ長生き出来ないぜ?」

いや、全部アニキのせいじゃないっすかと内心呆れる。
というか白昼堂々女子の身体を平然触るアニキもヤバい。

「なぁ名前、翔にどんなセクハラしようとしたんだよ?」

「な、なにもしてない!!」

アニキのその問いも寧ろセクハラだという質問に名前さんは首を左右に振って全力で否定した。
いや、まぁ確かにある意味僕にとっては役得でしかないからセクハラとは言えないのだけれど。

「じゃあ俺にだったら?」

「そんなことしないです!すみませんでした!!!」

そんなおそれ多い事は出来ない、と全力で否定する。
名前さんにとって僕はいったい何なんだろう。

「じゃあ俺がしてもいい?」

「······」

ああ、アニキにスイッチが入った。
これ以上ここにいた所でとばっちりをくらうだけだ。

「アニキ、僕剣山君に用があるんで」

「おう、ゆっくりしてこいよ!」

巻き込まれたくない僕は早々にそこを離脱する。
アニキはとても楽しそうだ。
これから名前さんをいじめるんだろう。
もっとも名前さんにとっては兄貴に何をされた所でご褒美にしかならないのだが。

「さあ、何して遊ぼうか?」

今にも意識が飛びそうな名前さんにアニキは容赦がなかった。
異常にアニキを崇拝する名前さんはどんな目に合うのだろうか。



というか本当にいい加減付き合えばいいのに。