「ねぇ、トーマス、私のこと好き?」
名前が俺にそう訊ねるのは決まって名前が沈んでいる時だ。
「ああ、好きだ」
俺はいつもと変わらず即答する。
名前はそんな俺を光のない目でじっと見つめる。
「嘘つき」
「嘘なんてついてない」
毎度繰り返される問答に普通であれば嫌気が差すのが普通かもしれない。
それでも俺がそう思い至ることは決してなかった。
「いったい私のどこが好きだっていうの?
この質問自体が面倒な女でしょう」
名前は何度も同じ言葉を繰り返す。
だから俺も同じようにそれを繰り返す。
「俺はお前の面倒な所が好きなのかもしれない」
その言葉に嘘はない、だがそれが真実とも言えない。
名前は実に面倒な女だ。
今の今まで笑って話していたと思えば途端に自暴自棄になって自らを傷付ける、それはそれは愚かな女だ。
「面倒なお前をこんなに好きな俺のことをお前は信じられないか?」
「信じられない」
名前は即答する。
そう答えることを俺は知っていた。
「なら俺が嫌いか?」
名前は答えない。
名前が俺を嫌いになんてなれる筈がないんだ。
名前は人が信じられないと嘆くくせに一人になることに酷く怯えている。
笑えるくらい弱く抱きしめたくなるほど愛しい。
「お前が俺を嫌っていても俺はずっとお前が好きだよ、名前」
お前は人なんて信じられないままでいい。
永遠に他人に期待して裏切られて傷付いて、そして俺にすがればいい。
俺は面倒なお前を心から愛しているし絶対に手離しはしない。
「何があろうと俺はお前の傍にいる、好きだ、名前」
歪んだお前を愛している。
歪んだ俺を恐れているお前の弱さを愛している。
「····こんな私でごめんなさい」
どうか嫌わないでと俺にすがる名前の泣き顔はとても美しい。
俺はそれにどうしようもなく興奮してしまう。
今すぐに獣のように交じりあいたい。
「俺はどんな名前だって愛し続けるって言っただろ?
お前は何も考える必要なんてない、何も見るな、お前が目に映すものは俺だけでいい」
お前のその目はとても美しい。
だがそれが俺以外の物を映す為に機能しているというのならそんなものなくなってしまえばいい。
だが俺はその目が好きだ。
だからそれを傷付けるような事はしたくない。
その為にも俺はお前に魔法をかけてやろう。
「ずっとここにいればいい、そうすれば名前は傷付かない、俺と結婚して二人だけで永遠に共に生きよう」
婚姻という鎖、それはなんと優しく重い呪縛だろうか。
墓に一緒に入ろうと言っているのだ。
その鎖は死してなお切れる事はない、強い強い愛の呪いだ。
「お前は何も考えなくていい、お前はただ頷けばいい」
俺の言葉に涙を流す名前を力一杯抱き締めた。
痛い程の抱擁は今の名前には最良の好意だという事を俺は知っている。
名前は泣きながら俺の胸に顔を埋めて小さく首を縦に振った。
この瞬間この弱く脆い命は俺のものになったのだ。
もう俺の興奮状態は我慢の限界を迎えていた。
「···名前、愛し合おう」
唇を寄せればそこは涙でしょっぱく感じられた。
気が済むまで交じりあったら二人で婚姻届を出しにいこう。
これできっと明日から名前はずっと笑っていられる。
弱く愛しい名前はもういないかもしれない。
名前には俺がずっと傍にいるのだから。
俺だけが傍にいる、名前にとってこんなに幸せな事はきっと他にはあり得ない
俺にとってもきっと