恋愛方程式

恋愛というものは本来実際に想いが通じて交際がスタートしました、そうなった瞬間互いの力関係は平等である、それが暗黙のルールだろう。
そうは言いながらも惚れた弱みというやつだろうか、結局のところ先に好きになったり告白した側の方が立場が弱い。
そういうものなのだ。
おうだと信じていた。

だがそれに例外はいくらでもあるのだと俺は知ったのだ。

「···いつまでやってんだよ」

「もうちょっとでノルマ終わるから」

俺達の関係は名前の猛攻に最終的に俺が折れた形で始まった。
名前の愛情表現はそれはもう熱烈だった。
尽くすというには可愛げのない、それは手足のように、それは良い言い方をしすぎたかもしれない。
まるで俺が赤ん坊かのように世話を焼いて毎日のように甘い愛の言葉を囁いていた。

それを見ていた父さんが「ボクはあの子好きだよ、うん。まぁ無理強いをするつもりはないけどね」なんて言い出した時は頭を抱えた。
あの時の父さんは明らかに面白がっていたのだ。
最初はキレて怒鳴りつけることもあった。
それでも折れずに粘った名前。
もう抵抗するのもめんどくさくなった時いっそ気の利きすぎるメイドか尻尾を振りまくる飼い犬だと思おうと諦めたのがいけなかった。
そのせいで俺は名前に情を持ってしまったのだろう。

「んなのいつでもやれんだろ」

「これはイベントだから」

半ばなし崩しのような形で俺を手に入れた名前。
だがこいつは変わった。
あれほど俺だけを見て尻尾を振っていた名前は今俺がすぐ隣にいるにもかかわら俺に見向きもしないでスマホをいじっている。

吊り上げた魚には餌をやらないとでも言うのだろうか。

「5分以内で終わらせろ、5分後ルーターの電源落とす」

「大丈夫、あと一戦で終わるから」

名前は目線をスマホに向けたままそう返事をした。
俺は大きなため息をついて寝転がって名前の膝に頭を勝手に乗せた。
それでも名前の目線は変わらない。

「あと1分だから」

イライラして名前の胸を下から鷲掴みにした所で表情一つ変えもせずに俺の手を払った。
可愛げのない犬だと苛立ちながらも名前の腹に顔を埋めれば、あと30秒、と牽制される。
本当に腹が立つ。

「よし、ノルマ達成!」

名前はそう言ってやっとスマホを手放した。

「ごめんね、お待たせトーマス!」

調子が良い奴だ。
名前は俺に軽く謝ると俺の顔を両手で包んでよしよしと撫でてきた。

「今回のイベントでトーマス手に入るからさ、どうしても達成する必要があったの」

「ああ····チッ、くだらねぇな」

マネージャーに聞いてはいた。
簡易版のようなデュエルゲームのキャラクターに俺をモデルとしたキャラが追加されることになった事を。
ゲームの類いをしない俺は適当に流して聞いていたので忘れていたのだが。

「ご本人様が目の前にいるってのにお前はそっちの方が重要だってのか」

「だって、皆が持ってるトーマスを私が手に入れていないなんて、そんなの嫌じゃない?」

だからごめんね、と頭をわしわしと撫でられた。
これでは俺の方が犬のようだ。

「今度同じことしやがったら許さねぇ」

「ごめんごめん、もうしないよ。
だから機嫌なおして?」

名前の手が俺の腹を撫でる。
そのなで肩がどうにもおかしい。

「おい、な、なに、っっ!!」

何を思ったのか名前は俺の手をとり手のひらをぺろりと舐めた。

「え?シたいのかなって思ったのだけれど、違った?」

名前はちゅぅ、っと音を立てて俺の指に吸い付いている。

「さっき胸触ったからさ、そういう気分的なのかなって思ったんだけど」

名前は指と指の間に舌を這わせていく。
その感覚に背筋がぞくりとして鳥肌が立った。

「そ、····」

「こうされるの嫌?初めて?
んー、でもここも立ってるし、ね?」

Tシャツの上から胸の突起を人差し指で擦られた。
思わず声を漏らしてしまった事が悔しくて堪らない。

「いっぱい愛してあげるから、ね?」

名前はあきらかにわざとちゅぱちゅぱと音を立てながら俺の指を弄んでいる。
これは100倍美化した言葉だ、俺を好きだと尻尾を振っていた頃のこいつは今覚えば健気で可愛げがあった。
なのに、なのにどうしてこいつは。

「トーマス、かわいい」

名前は俺の頭を浮かせて俺の上にかぶさった。

「可愛いね、本当に」

「んむっ···」

そして口を塞がれた。
それは名前の唇なんかじゃない。
名前は俺の口に自身指を2本突っ込んだのだ。

「お願い、トーマス」

「、むぐっ」

いっそ噛み付いてやろうかと思った。
だが名前は既に空いた方の手で俺のTシャツを捲っていた。
噛みつけば同じようにそこに噛みつかれることが想像出来た。

「んっ···トーマス上手」

「んぐっ···ふ···」

名前がさっき俺にしたのと同じように名前の指を舐めてやった。
名前も多少感じているようで目がとろんとしてきている。
そしてお返しと言わんばかりに俺の胸の先端に吸い付いた。

「トーマスのおっぱい、ほんと可愛いよね」

一方で捏ねられつねられ弾かれて、一方は吸って舐めては甘噛みされて。
口を半分名前の手で塞がれているようなものなこともあって上手く息が出来ない。
こんなに身体が熱いのはきっとそのせいだ。

「トーマス舐めるの上手だもんね、私も上手に出来てる?」

名前はやっと俺の口から手を引いた。
俺の唾液でべとべとになった指からそれが伝って俺自身の顎から首に滴り落ちた。
最高に気分が悪い。
だが俺悔しいがただの男でしかない。
思考回路は至ってシンプルに出来ていた。

「ありがとう、トーマス」

名前はお礼を言って唾液まみれの指を舐めた。
下半身が苦しい、目の前で行われてるその情景そこが硬くなった。
それは名前の尻に押し付けられている。

「元気いっぱいだね」

名前は下に移動して俺のベルトを外し下着ごと一気にズボンをずり下ろした。
俺のものは仰向けでいるせいもあるが反り返って腹についていた。

「可愛いね」

名前が俺のものに口を付けようとした直前、俺は名前の腕を掴んでそれを静止させた。

「···名前も脱いで、こっち、跨がれよ」

やられっぱなしはキャラじゃない。
今はこんなに意気揚々と俺を弄んでいる名前だって俺に攻められている時はだらしなく感じているのだ。
俺だけ醜態を晒す気等更々ない。

「俺は舐めるのが上手いんだろ?
早くしろよ」

こう言えば名前はきっと羞恥心で顔を赤らめるだろう、そう期待して名前を見た。
それは羞恥心、というよりは困ったような顔をしていた。

そして爆弾を落とされる。

「ごめん、私今日出来ない日だから。
トーマスだけ気持ちよくなってもらおうかなって」

「······は?」

その爆弾に俺の頭が真っ白になった。

「トーマス普段そういう時以外にふざけて胸を揉んだりしないじゃない?
だからたまってるのかなって、ならトーマスだけでもって思ったんだけれど」


普段の俺は自分が思っている以上に紳士だったらしい。
確かに思い返せばそういうおふざけをしたことが記憶にない。

「えっと···いい?」

名前はあまりの事態にげんなりしている俺のことなんて気にする様子もない。
俺のものを掴んで続きを促している。
こんな事態になっても萎えていないのは俺が若い証拠なのだろうか。

「······次、絶対抱くからな···」

「うん、楽しみにしてるね」

名前は嬉しそうに目を細めて笑った。
無邪気とも言えるその表情、そこに重なる付き合う前の名前の姿。

同じ···そう、同じ人間なのだ。

俺は名前と出会って知った。
女は変わる、良くも悪くも。
そして変わる要因になったものは俺自身だ。
その要因は俺が想像以上に名前にはまってしまった、それに尽きるだろう。

そしてそれが要因で変わった名前を愛しく思っている。
それも当然だ、俺を愛したからこそ名前は変わったのだ。

だからこそ惚れられた俺の方が立場が低いというのは必然なのだ。

それは今日はまだキスをしていないことに不満を抱いている俺自身が一番理解している。