食肉植物

「見てるこっちが胸焼けしそうだ」

そう口にした彼の顔をは分かりやすく引き攣っていた。
私が食べていたパンケーキ、それの何倍もの量のホイップクリームはもう殆ど平らげてしまっていた。
皿に残ったクリームを余すことなく食べやすいよう一口サイズに切ったパンケーキで拭って食べ、残りのパンケーキには追加でたっぷりとシロップをかけた。
それはもう喉が焼けるかと思う程の甘さ、そんなパンケーキに私の眉間にも皺が寄ってしまった。

「大丈夫、食べている私も胸焼けおこしかけてるから」

甘いものは好き。
だがそうであったとしても限度はある。
ここまでいけば殆ど砂糖を食べているようなもの、さすがにもう味を楽しむ余裕は無い。

「じゃあなんでそんなにかけたんだよ」

呆れた彼からのもっともな指摘。
これでも私は自分が愚かな行為をしているという自覚がある。
それでもこの馬鹿げた行為にも意味はあった。
そこに私の希望があったのだ。

「甘いものを食べたら私も甘くなれるのかな、って」

彼は益々意味がわからない、といった表情で紅茶を口にした。
私も同じようにカップを手に取った。
喉に流し込まれたそれは甘すぎる口内をリセットさせてくれるものではなかった。
それも当然だ、この紅茶にも砂糖がたっぷりと溶けているのだから。

「お前は砂糖菓子にでもなりてぇのか?
そんなことやってたら早死にするぞ」

1週間分の糖分を摂ったのではないだろうかという程の甘い甘いデザート。
こんな事を続けていればいずれ身体を壊すだろう、彼の指摘は間違っていない。
くだらない目論見だった。
それでも私はこんなにくだらない事を考える程に求めていたのだ。

「待っているの」

甘い香りに誘われて貴方が私を求めていれないか、なんて。

「何をだよ」

花の蜜を求めるミツバチのように、貴方が私を求めてくれたらいいのにと。

「きっとこんな回りくどいやり方じゃ貴方には伝わらないんだろうね」

私の言葉の意味が分からない貴方は一体何のことだ、と若干不機嫌そうな顔をした。
妙な所は鋭いのに一部の事にはてんで鈍いのだから困ってしまう。
最もこれに関しては私自身迷走していたという自覚がある。
そもそも向いていなかったのだ。
ならどうするべきか?決まっている。

「もっと貴方を知りたいの」

貴方の全てが知りたい、私の全てを知ってほしい。
彼の手をそっと握る。
指と指を絡めてジッと彼を見つめた。
彼は少し目を泳がせた後気まずくなったのか私から視線を外してしまった。

「これかはうちに来ない?」

目を逸らしながらも彼は私の手を振り払うような事はしなかった。
繋がれた手が汗ばんできた。
これは私のものなのか、それとも彼のものなのか。
きっと両方だろう。

「なんの準備もしてねぇ、けど」

「コンビニ寄ればいいよ。
大抵のものは売ってるんだから」

彼は私の手を解いてポットに残っていた殆ど冷めてしまった紅茶をカップに注いで一気に飲み干した。
私もぐじゅぐじゅのパンケーキを片付けていく。
舌が麻痺してしまったのかもう味が分からない。
これからもっと甘いものを食べられることになったのだ。
きっと私の身体はもう目の前のパンケーキなんて求めていない。
求められてみたかった。
でも可愛くおねだり、なんて私にはどうしていいか分からなかった。
だから蜜をたっぷりかけて誘惑した。
だがそんな事で伝わる筈が無かった。

「(ああ、なんて可愛いのだろう)」

私が花にだなんて、我ながら愚かな目論見だった。
私は根っからの捕食者だったのだ。
人工的な甘さなんて眩むくらい目の前に座る男は甘さを帯びていた。
でもきっとそれはどんなに甘くたって胸焼けしたりなんてしないのだろう。