押しては返す

「トーマスってこういうのが好きだったんだ」

調べ物をしようとしたが昨日スマホの充電を忘れていたせいで電池が残り僅かとなっていた。
だから私はスリープモードになっていた彼のパソコンを拝借することにした。

「うーん、まぁ男の人ってこんなもんかな?」

謝って履歴メニューを開いてしまった私はいけないと思いながらもそれを見てしまった。
有名なアダルトサイト、トップページには彼へのおすすめ動画が表示されている。
これは過去に彼が観たジャンルや嗜好から選出されたもののはずだ。

「性的嗜好と現実は違うって言うけどトーマスはこういうことしたいんだろうか?」

動画を開いて見ない事には詳細は分からないがタイトルでその動画の内容は大方検討がついた。
どちらかというと女性優位のものが多かった。
私はふう、とため息をついて開いていたページを閉じてたった今の履歴だけ消去してまたパソコンをスリープ状態にしておいた。

「あ、結局調べるの忘れた」

本来の目的を忘れ彼のデリケートな部分のみを知ってしまった。
それになんだか申し訳なくなるもあんなサイトを観るなら履歴の残らないようなするかパソコンにパスワードを設定してくれ、なんて恨言。
最も私の前で大っぴらに観ていたわけではない分どう考えても勝手に観てしまった私に非があるのだけれど。





「待たせたな」

トーマスは私の為にお茶の用意をしてくれていた。
添えられている洋菓子は見た目はシンプルだがきっと私が普段手を出せないような価格帯のお店のものだろう。
いつものことだ。

「ありがとう」

当然のように行われるもてなし、いつも彼は私に優しい。
それはセックスでも同じ。
その行為はいつだって私優先だった。

「(正直意外だった)」

付き合う前の彼はわりと感情的で結構子供なとこらがあったから。
だからガサツなところがあるかもしれないって思いながらも彼を好きだという気持ちが上回りある程度覚悟していたのだ。

「(雑、ではないけれどなんとなく物足りないって)」

そう感じてしまうのは贅沢なのだろうか。

隣に座る彼の手に自身の手を重ねた。
指と指の間に私の指を滑り込ませて。

「... 名前?」

彼は動揺しているのが私の名を呼ぶ声が少し上擦った。
そしてもう片方の手に握られていたカップをソーサーの上に置いた。

私は彼の肩に頭を乗せてもう片方の手も彼の腕に絡みついた。
両腕で抱き着く形だ。

「トーマス」

目一杯熱を帯びさせた声、正直私は自ら彼を誘ったことが今まで一度も無かったのでこれが成立しているのかよく分かっていない。

「いつもありがとう」

耳元でお礼を言ってそのまま耳朶にリップ音を立ててキスをすればトーマスは私の腕を振り解いて身体をのけぞらせた。
おそらくこれは嫌で拒絶したのではないということは彼の顔を見ればすぐにわかった。

なんてうぶな反応をするのだろうか。
そういう趣味は無かった筈だ、だが今は好奇心に満ちている。

「...ねぇ、シたい」

のけぞった彼に再び近付いてそのまま彼をソファーに優しく押した。
彼は簡単に倒れ込んでしまった。
動揺しながらもきっと期待しているのだと言う事はすぐに分かった。

「ダメ?」

ダメ、なんて事は絶対にないと分かりながらも敢えて口にした。
彼の観ていた動画はどれもそういうものばかりだったから。

それでもいつもとはまるで違う私に彼は動揺しているらしい。
まるで経験のない人のような反応、想定外の出来事が起こると彼はテンパってしまうらしい。
また一つ可愛らしいところを知れた。

「好き」

言葉はシンプルに、そもそも私だってこんな事は初めてのことだから。
言葉責め、とか彼は好きなのだろうか。
現状の彼を見る限りきっと好きなのだと思う。

拒絶しない彼の唇を塞いだ。
やはり彼は拒まない。
少しして彼の手が私の背中に回った。
私の胸がざわざわした。

「(こういうの好きなのかもしれない)」

見様見真似ではあるがゆっくり、ねっとりと口内を荒らしていく。
彼も私のソレに応じている。

「(他人の舌なんて舐めて舐められてどうしてこんなに気持ちいいんだろう)」

ちゅうっと彼の舌を吸った、漏れたのはそれはもう甘い吐息。
それだけの事なのに私のソコがじんじんと熱を持ち始めた事に気が付いた。

「気持ちいいね」

そう言って唇を塞いだまま彼のソレに手を触れた。
布越しに軽く触れただけだというのに彼の腰はびくりと揺れて、触れたソコは当然のように硬くなっていた。

「服脱がせるね」

わざとソコにあたるように馬乗りになって彼のシャツのボタンに手をかけた。
一つずつゆっくりと外して全て外し終えた、けれどこの体勢では完全に取り払うことは出来なくて。
私彼の腕を掴んで起き上がるよう促した。
そしてそれに抗う様子もなく起き上がった。
私が彼の膝の上、向かい合わせに抱き合って座っている。
大きめとはいえソファーの上では少し体勢が悪かった。
でも彼の方はそんなことを気にしている様子もない。
私は彼の身体からシャツを抜き取った。
そしてそのまま中に来ていた白いインナーも取り払う。

少し濃いめの肌色、こんなに明るい場所で見るのは初めてかもしれない。
私とは全然違う贅肉一つない骨張った男の人の身体。
触れてみれば少し汗ばんでいた。
緊張しているのかもしれない。
彼が普段私にするように首筋に唇を寄せた。
跡が残らぬよう優しく吸って舌を這わせた。
頭上からはくぐもった声、背に回された腕に力が入る。

「かわいい」

きっとこの言葉を彼は喜ばない。
それでもつい口から溢れたその言葉。
気分を害してしまっただろうかと少し心配になって見上げた彼にそんな様子はなかった。
安心したと同時に彼は私の服を脱がせ始めた。
今日はワンピースを着ていた為子供を抱き抱えるように自身の方へと抱き寄せてそのままがばり、と。
キャミソールも取り払われ残るものは下着のみとなった所で今度は私が彼に押し倒されてしまった。

「...見ただろ、俺のパソコンの履歴...」

眉間に皺を寄せた顔が私を見下ろした。
それでも本気で怒っている様子はない。
赤く染まった頬がなんとも愛らしい。

「...ごめんなさい」

首筋に腕を回して彼にぎゅうっと抱き付けば彼はため息を一つ溢して同じようにに私に抱き着いた。

「興味があるのも嘘じゃねぇけど俺はやっぱこっちのが好きだ」

彼は身体を少し起こして私を見下ろしながらそう言って少し意地悪な笑顔。

普段は朧げだったその顔が今日ははっきりと見えた。
いつとこんな顔をしていたのだろうか、そん考えれば身体は更に確かな熱を帯びて。

「私も好き」

物足りないと感じていた理由はこれだったのだろうか。
今私は先程よりずっとずっとドキドキしていて。

「...ベッド行くぞ」

彼の淹れてくれた紅茶はとっくに冷めてしまっているだろう。
大好きなお菓子の存在もこの時には既に頭から消えていた。
彼が淹れてくれたのだ、冷えた紅茶もきっと美味しい。
これが終わった頃にはきっと暑くて喉が渇いている筈だから。

お茶の時間はもう少し遅らせる事にした。