私の恋人はプロデュエリストだ。
対戦成績も良ければ見た目も良く上っ面ではあるが紳士的な対応を徹底している事もありファンからの受けも良い。
よって大会やデュエルイベントに限らずテレビ番組への出演など多忙を極めている。
[今から行く]
よって会える日は限られている。
それでも空き時間ができると直近ではあるがそう言って連絡を入れ私の家へと足を運ぶ。
有名人ということもあり外でデートの類いというものは殆どした事がない。
マスコミに騒がれては迷惑がかかると思い、デートの際一度胸も潰してインナーで身体の厚みを作りこみウィッグを被りシークレットシューズで身長を底上げするというなかなか気合いの入った男装をしたことがある。
待ち合わせ場所で私を見たトーマスは絶句していた。
食事中も落ち着かない様子で会話もなんだかギクシャクして早々に家に帰る事を提案され帰った瞬間衣類をひん剥かれベッドの中でもう男装はやめろと懇願された。
あまりにも気合いの入った私の姿に自分が男を口説いている錯覚を覚え頭が混乱したらしい。
その時の事は私にとってはまぁ良い思い出だ。
彼は可能な限り私に尽くしてくれている、大切にしてくれている。
それをよく理解している。
「おかえりなさい、お疲れ様」
メールを貰ってから30分程してトーマスは私の家についた。
最近殆ど電話のやり取りも出来ない程多忙を極めていた彼の顔には若干疲労感が滲み出ていた。
「あーー怠かった」
そう言ってトーマスは靴も脱がずに出迎えた私の腰に腕を回し肩に顔を埋めた。
成る程、本当にお疲れなようだ。
「テレビも見たけど大変だったみたいだね」
トーマスの頭をいいこいいこと撫でれば腰に回された腕に更にぎゅうぎゅうと抱き締められた。
「腹へったし眠いし身体だるい」
「今日は泊まれるの?」
トーマスは顔を伏せたまま返事をしなかった。
成る程、どうやらまたとんぼ返りで次の現場に向かわねばならないようだ。
見るからに疲れた彼をまた見送らねばならないのはなんとも心が痛む。
取り敢えず可能な限り休ませたい。
「取り敢えず早く上がって座るなり仮眠取るなりしなよ、なんか胃に優しいもの作るから」
そう言うとようやく彼は私から離れて靴を脱いで玄関を上がった。
そして私の言い付け通りにソファーに寝転がった。
これはいつもの事でベッドに入ってしまうと本気で眠ってしまって起きられないからとの事だ。
しっかり身体を休めてほしい私としては不本意だが、かと言って寝る寝ないの言い合いになり彼が休息に当てられる時間を少しでも削るような事をしたくはない。
「一時間半後に起こしてくれ」
そう言った直後一瞬で眠ってしまった彼に布団をかける。
私は不謹慎ながらにこの役目を与えられている事をほんの少し嬉しく思ってしまう。
とは言っても彼の指定した起床時間から計算するにここにいられるのは二時間半というところだ。
いつも仮眠をとったとしても出発一時間前には起きて私とコミュニケーションをとる時間を作ってくれている。
私の為に時間を割いて無理をさせていることが辛い時もあった。
一時期隈が目立つ程睡眠不足が目立っていた時トーマスの言葉を無視して私の判断でギリギリまで起こさなかった時の彼の機嫌の悪さは酷かった。
随分と荒い言葉で不満をぶちまけられいってらっしゃいも言わせてもらえずに出ていってしまった。
その日あった公式デュエル戦では勝ちはしたものの彼らしくないプレイングミスも目についた。
あの後仲直りをした時に彼は私にこう言ってくれた。
『わかっただろ、俺にとっては色んな意味でお前と過ごす時間が必要な時間なんだよ。
だから余計な気回してんな。』
少なくとも私にはここまで言われて彼の言葉に反論できる程の負けん気がなかった。
私にとっては彼からの愛の告白のようなものにしか感じられない。
だから私は彼が望む事を聞き入れ、その分丸1日休暇が取れるようになった日はしっかりと休んでもらうことにした。
「さて、何を作ろうか」
少しやつれて見えたからあまり油っこいものや濃いものは良くないだろう。
しかし体力がつくものを食べさせたい。そうなると和食の方が良いだろう。
仕事や生活環境がそうしたのか慣れ親しんだ相手の前ではそれなりに我が儘な態度をとるトーマスだが意外と好き嫌いは少ない。
洋食で育ったであろう彼だが基本的に和食派な私が作る日本食も大抵のものは美味しく平らげてくれる。
だから私の独断で献立は決められるのは助かっている。
今日は鶏と茸たっぷりの玉子雑炊にしよう。
それにきんぴらや酢だこ、ほうれん草のお浸しやトマトのナムルあたりをつければ彼の身体を少しでも労る事が出来るだろうか?
きっとこの後眠れないであろう彼の胃に負担をかけないものをとなるとどうにも作り甲斐がないものになってしまうのもまた悔しい。
「せめて少し良いだしをとろう。」
トーマスの為にネットで買っておいた普段の3倍以上する値段の鰹節を棚から取り出して調理にとりかかる。
連絡を貰った時点で鍋には既に水が張ってそこに昆布もつけておいた。
この水も軟水の少し良いミネラルウォーターを使ってみた。
沸騰した昆布だしに鰹節が広がりそれを濾せばとても綺麗な色のついただしが出来た。
私が彼にしてあげられる事は微々たるものでしかない。
だからこそ私に出来る範囲では精一杯やっていきたい。
「(全部自己満足でしかないけどね)」
「あれ、起きてたの?」
温めていた鍋をとめそろそろ起こそうかとリビングの扉を開け私が声をかけようとした瞬間トーマスの目が開いた。
その表情はまだ眠たげでボーっとしているがしっかり此方を見据えている。
「····匂いにつられたんだろうな。
腹が減って起きた」
起き上がり欠伸をしながら大きく背伸びをした。
あんなに疲れた様子だったのに匂いで起きてしまうあたりもしかしたら今日は何も食べていなかったのかもしれない。
「そっかごめんね、今用意するから。」
急いで先に作っておいた副菜を小鉢に盛りリビングのテーブルに置き鍋ごと雑炊を運んだ。
私が鍋を持っていくと彼はテーブルの引き出しから鍋敷きを取り出しテーブルに置いてくれたのでそこに鍋を置いた。
彼の箸や小皿もそこに収納されているのを知っているのでそれらも自分で取り出した。
お茶碗に雑炊をよそって彼の前に差し出せばお行儀よくいただきますを言って私の食事に手をつけた。
「·····あーーなんかこう胃に染みる感じがする」
しみじみとそう言った彼の様子を見ればどうやら今日の食事は正解だったようだ。
どんどん彼の胃の中にそれらは収まっていく。
眠くなる事を危惧してお米控えめの具沢山な雑炊は気に入ってもらえたらしく二回おかわりをしたことで鍋の中は空になった。
副菜も全て食べ終えた彼にお茶を差し出すとそれも一気に飲み干した。
普段は紅茶を飲む事が多い彼が日本茶を口にしている光景もなかなか見られるものではないだろう。
それもまた嬉しい。
「紅茶も飲む?」
食器も全て下げた後彼にそう訊ねたが彼は頭を横に振り再び先程眠っていたソファーに座って横をぽすぽすと叩いた。
隣に来いという事だろう。
私は素直にそこに座ろうとするも彼に腕を掴まれ引っ張られたことでそれは叶わなかった。
バランスを崩した私は彼の膝の上に横向きで座る体制になってしまった。
「疲れてるんだから隣に座った方が良いんじゃない?」
「うっせー。
いいから黙って抱かれてろ。」
彼は私を抱き締めながらそう言った。
世間的に見ても華奢な方なのに私を抱き締める腕がしっかりとした男の人の腕をしている事にまたしてもときめいてしまう。
私は会う度に彼に恋をしている気がする。
嬉しくて彼の首に腕を回してぎゅーっとすれば彼は私の頬に唇を軽く押し当てた。
だから私は少し彼から離れて顔を見る。
すると今度は唇にキスをくれた。
何度も何度も優しいバードキスをくれる。
そしてその後必ず項垂れてため息をつくのだ。
「クソッ、もっとくどいのやりたいのにそれをやったら色々我慢出来る気がしねぇ」
項垂れる理由は彼の下半身の事情だ。
勿論濃厚なキスをすれば私だって彼を求めてしまいそうになるからそこはお互い様なのだが。
「今度の休日楽しみにしてるね」
そう言って今度は私からトーマスにキスをすれば彼は恨めしそうな目で私を見た。
「·····てめぇ、煽るだけ煽りやがって。
おい名前!覚悟してろよ!」
そう言ってもう一度キスをした後私の首元に噛み付いた。
そうこうしている間に時間終了を知らせるアラームが鳴ってしまった。
「大変だと思うけど本当に身体気をつけてね。
痩せた気がするから食事も何かしろ食べてね。」
靴を穿き出発準備をする彼にそう言うも彼は言葉を詰まらせる。
「どうしたの?」
彼は私の方振り返った後気まずそうに再び目線を外してこう言った。
「外で食うやつは苦手なものが結構あって、·····お前の作る飯みたいに美味くねぇからあんま食う気しないんだよ」
「····」
彼の言った言葉を彼の現状を知る私が呑気に喜んではいけないとはわかっている。
でもそんなこと可能だろうか?
こんな嬉しいことはあるのだろうか。
顔に熱が集まるのを感じる。
それを言った本人の頬も少し赤く染まっていることから同じように照れているのがわかる。
たまらなくなって今度は私方からトーマスに抱き付いてキスをすると彼は少し動揺しつつも私を受け止めてくれた。
そして赤い顔のまま私を睨んでドアに手をかけながら捨て台詞をはいた。
「次会う時寝られると思うなよ!」
私にとってはなかなかにハードな話なのだがそれを口にしたトーマスの顔は赤いままだったのでそれが可愛く見えたからつい顔はにやけてしまう。
「わかった、沢山寝ておくね。
······いってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」
彼に閉められたドアに鍵をかけるとなんだか寂しい気持ちになった。
やっぱりどこかで寂しさは感じてしまう。
それでも彼と過ごす時間は数時間とは言え幸せな時間だった。
それを忘れない内お風呂を済ませすぐには眠れる自信はなかったがその日は早めにベッドに入る。
今度会う時は彼のどんな所に恋をするのだろうか、そんな幸せな瞬間を思い描きながら目を閉じた。