静かな部屋にインターホンの音が響いた。
それを鳴らした相手は分かっている。
知らされていた到着時刻ぴったりだった。
念のため覗き穴から客人を確認する。
やはりそれはトーマスだった。
「いらっしゃい」
鍵を開け扉を開けるとトーマスは私の顔をじっと見て一言言った。
「お前ちょっと焼けたか?」
「あ、うん、やっぱり分かっちゃう?」
日焼け止めはしっかり塗っていたが今年のあまりの暑さにそれも追い付かずトーマスの言うように少し焼けてしまったのだ。
「別に目立つ程じゃねぇけど気がついたから聞いただけだ」
トーマスは玄関に入り後ろ手でドアを閉め鍵をかけ靴を脱いで部屋へと上がる。
そしていつものように私に軽いキスをしてリビングへと移動した。
「毎日暑いけどトーマスは大丈夫?」
冷蔵庫で冷やしていた水出し紅茶を二人分グラスに注いでそれを持ってトーマスが座るソファーへと私も腰をおろした。
テーブルに置いたグラスの中で氷がカラリと音を立てる。
窓の外は雲ひとつない青空が広がっていて蝉の声が忙しなく響いている。
今日も外は真夏日だ。
「俺は基本屋内でのイベントが多いからな。
そこまで体力がねぇわけでもないから大丈夫だ。
俺の事より名前の方こそ大丈夫か?」
そう言ってトーマスは私の腰に手を回してぐいっと私を更に自分の元に引き寄せ抱き締めた。
そのまま頬にリップ音をたててキスをする。
とてつもなく甘く幸せな時間に幸福感で心が満たされていく。
「私は大丈夫。
寧ろ暑いからこそ海は気持ち良かったしね。」
しかし私のその一言でトーマスの眉間に皺が寄った。
「は?海?いや、俺聞いてねぇ。
その言い方するって事は海に入ったってことだよな?」
私を抱き締める腕に力がこもる。
そう、この事はトーマスには話していなかったのだ。
トーマスが遠方へと仕事で泊まり掛けで出ている際に前日に小鳥ちゃんから遊馬君達と海に行くから一緒に行こうとお誘いが入ったのだ。
少し悩んだがまだ彼女達が中学生という事もあったので保護者枠として参加しようと思い至ってご一緒させてもらったのだ。
もっともらしく言っているがなんやかんやこの暑さに参ってしまっていたので泳ぎたくなって参加を決めた事は大きな声では言えないのだが。
「小鳥ちゃん達からお誘いがあってね、ほら、子供達だけだと心配かなって。
突然決まって言うの忘れちゃってて、ごめんね?」
そんな風に文句を言われた事など一度もないがトーマスが仕事をしている間に私は遊んでいたという事に罪悪感を抱かなくてはないので謝罪の言葉を口にする。
トーマスの眉間には皺が寄ったままだ。
やはりトーマスも参加したかったということだろう。
「.....他に誰がいたんだ?」
トーマスの口から出たのはそんな質問だった。
そうか、もしかしたらトーマスも凌牙君と遊びたかったのかもしれない。
「小鳥ちゃん、遊馬君と真月君、璃緒ちゃんに凌牙君。あとカイト君にハルト君もいたよ」
「ほぼ全員じゃねぇか!?
てか凌牙の野郎もいたのかよ!」
私の回答を聞いてトーマスはそう声を荒げた。
やはり気にしていたのは凌牙君の事だった。
「ごめん、やっぱりトーマスも凌牙君達と遊びたかったよね。
その、私だけ、....ごめん」
「馬鹿野郎!!そんなんじゃねぇよ!
、いや、まてよ」
トーマスは否定の言葉を口にした後何かを思いついたらしく私をソファーに押し倒しておもむろに私の着ていたワンピースを勢いよくめくり上げた。
「ちょっ!!?と、トーマス?」
トーマスは私の身体を見て一瞬固まった後先程よりも深く眉間に皺を寄せわなわなと震えだした。
「ど、どうしたの?」
おそるおそるそう訊ねるとトーマスはギロリと私を睨んでこう怒鳴った。
「テメェなんでビキニ着てんだよ!!?」
「へ?」
予想だにしなかったクレームに私は間の抜けた声をあげてしまった。
確かに私が着ていた水着はビキニタイプではあったがなぜそれを?と考えたが、自分のお腹が焼けている事を見てトーマスが予測出来たのだろうと理解した。
「あ?いや、うん、なんかごめん。
あ、さすがに恥ずかしいからその、手、離してほしいな?」
めくり上げられたワンピースの裾を元に戻そうと下に引っ張ろうとするもトーマスはその手を離そうとしない。
寧ろ私の言葉がトーマスの怒りを買ってしまった。
「お前はその恥ずかしい格好で凌牙達の前に出たんだろうが!!」
「え、いや、下着じゃないからね?」
同じようなものだとトーマスは吼える。
まぁ確かに下着までとはいかないが水着の露出度は似たようなものかもしれない。
「俺は名前の水着姿見た事ねぇのに」
そう言ってトーマスは忌々しそうな表情で焼けていない胸の谷間を指でなぞった。
そう言われて見ればトーマスとは海はおろかプールにさえ行った事がない事に気付いた。
「......ごめんね。
今度一緒にプール行く?」
「.......名前の水着は見てぇけど他の奴に見せたくねぇ」
胸元に顔を寄せ焼けていないそこに唇を寄せている。
何度か強く吸い付かれたチクリと痛んだ。
おそらくそこには痕が残されてしまっているのだろう。
そしてここでまた一つトーマスへの罪悪感を抱く事になってしまった。
この状況でそれを黙っているわけにはいかない。
私は一つ深呼吸をしてからトーマスにそれを伝えた。
「....あのね、ごめん、さ来週プールに行く約束もしてるの。
今度はミハエルも一緒に。」
私の言葉にトーマスは胸に顔を埋めたまま固まった。
正直のところトーマスにそこまで嫌な思いをさせてまでの参加は私としてもいただけない。
これは小鳥ちゃん達には悪いか予定をキャンセルさせてもらった方がいいかもしれないと思いそれを言葉にする。
「あのね、まだ時間があるからトーマスが嫌だって言うなら今回はキャンセルしようか?」
そう伝えるとトーマスは顔をあげた。
しかしその表情は不満気だった。
数秒その顔のまま私をじっと見た後ゆっくりと口を開いた。
「......さ来週のいつ?」
「え、あ、うん、木曜日だけど」
私の答えを聞いてトーマスはDパッドを取り出して何かを確認し始めた。
そしてそれを見てニヤリと笑みを浮かべた。
「いや、それなら俺も行く」
どうやらトーマスが確認していたのは仕事のスケジュールだったようだ。
つまりトーマスはその日休みだったということなのだろう。
「え、でも、その、いいの、かな?」
「そんだけ人数いんなら今更俺が増えたところで大丈夫だろ。
俺から遊馬に言っとく。」
そういうやいなやトーマスは遊馬君に参加の意思を伝えるメールを送信した。
そのメールに対する返信はすぐに返ってきた。
勿論了承したと言う事と他にも参加者が増えたという内容だった。
今回は随分大所帯になりそうだ。
「.....てことでだ。」
トーマスは先程とはうって変わって上機嫌な顔になった。
トーマスがこの顔をしている時自分はろくな目にあったことがないので身体が後退りかけたがそれはトーマスの腕で阻まれた。
「取り敢えず俺に黙って凌牙達に水着姿晒した事の罰は受けてもらわねぇとな。」
そう言ってめくりあげられたワンピースを完全に脱がされてしまった。
まぁ一連の流れとこれまでの経験から大体こうなることの予想は出来ていたのだが。
私もトーマスに嫌な思いをさせてしまったことを自覚したので抵抗の意思は殆どなかった。
「日焼け跡がこんなにエロいなんて思わなかったぜ。」
背中に手を回しブラのホックも外されてしまった。
水着によって隠されて焼けていないそこに唇を寄せられ執拗に吸われそこに沢山のキスマークをつけられていく。
「さ来週には消えちまうだろうから前日にまた付けてやるよ。
水着で隠れる場所にだけな。」
それって凄くやらしくないか?とトーマスは笑う。
私はまぁ見えない位置のみにならいいかととくに拒否の言葉は口にしなかった。
新しい遊びを見つけてトーマスの機嫌は寧ろ良くなったようだ。
もっとも当日遊び終わってシャワーを浴び着替える時に璃緒ちゃんや小鳥ちゃんに見られる事になってしまいとてつもなく恥ずかしい思いをするはめになる事になるなんてこの時予測すらしていなかった。
今年の暑さはまだまだ続きそうだ。
紅茶の入ったグラスは大粒の汗をかき中に入った氷は殆ど溶けてしまった。
それを飲む頃には完全にぬるくなってしまっているのだろう。