「トーマス、ちょっと暑いよ」
今日は甘えたモードなのかトーマスは私を太ももの間に座らせて後ろから抱きしめる体勢のまま離してくれない。
今日は少し涼しくて良い風が吹いていたのでエアコンを付けずに窓を開けていた。
それでも快適な気温だったのだがこうしていてはそれは適応されない。
もう汗が滲む程度に暑い。
触れている面積が広い分体温もそうだしそれに加え首筋にトーマスの息があたるものだからそれがさらに暑さを増幅させる。
「少しくらい我慢しろよ」
トーマスはそう言うと更に抱きしめる腕に力が入る。
逃げないようにということだろうか。
そういえばヤンチャな性格をしていたが座っている際は昔からよくクッションやお気に入りの人形を抱いていた気がする。
何かを抱いている方が落ち着くのかもしれない。
「クッションとか買おうか?」
身体を捻り後ろを振り返ってそう訊ねればトーマスは私の問いにわけが分からない、という顔をした。
「何か抱いてないと手持ちぶさたなんでしょう?子どもの頃からそうだったもんね」
私がそう言うとトーマスは不貞腐れたような顔をする。
彼にとっては恥ずかしい癖だったのだろうか?
それとも自覚していなかったのだろうか。
「あの時は····こうしてお前を抱き締める事が出来なかったから」
「えっ······あ···そ、そっか」
トーマスの意外な言葉を聞いて驚いてスムーズに言葉が出なくてなんとも言えない反応をしてしまった。
そんな私のリアクションを見てトーマスは私が引いたとおもったのか居心地の悪そうな顔をしている。
「悪かったな、だせぇガキで」
そんな風に拗ねながらもお腹に回された腕の力は弱まる事もなく私を離そうとしない。
先程とは違う意味で更に暑くなってきた。
「そんなこと思ってないけど、予想してなかった事だったからびっくりしただけなの、ごめんね」
お腹にある手に上から重ねて握ればトーマスが私の項にキスをした。
「····とにかく今は名前がいるからいらねぇから」
「うん、わかった」
そんな殺し文句を言われてしまったらもう多少の暑さなど我慢せざるおえなくなってしまった。
しかしどうしたものだろうか、することがないのは少し退屈だ。
そう思い手元にあったリモコンでテレビの電源を入れた。
適当にチャンネルを回していく。
「あ」
いくつかチャンネルを変えていくとテレビにトーマスが表示されたのだ。
正直気にはなるのだが本人を前にして見るのはどうなのだろうかと思いおそるおそる後ろを振り向くがトーマスは無関心な顔をしていた。
気を悪くしているのでないなら良いかと判断してその番組を見る事にした。
どうやらその番組はプロとしてのIVの活躍をまとめたものらしく紹介映像を流した後、一般人にIVをどう思うかインタビューしているようだ。
『IVさんに憧れてギミパペデッキを使ってみたが上手く回せなかった』
それを聞いて確かになぁと納得してしまう。
基本的に男性の回答はデュエルに関する事が殆どだった。
一方女性が気にする所はやはりその整った外見に対するものが殆どだった。
『すっっごいイケメン!!!しかも穏やかで紳士でお付き合いしてみたいです!』
『顔だけじゃなくて声もよくてスタイルも良いからアイドルみたいにかわいい!』
それを聞きながら苦笑いしてしまった。
プロとしてのIVはまだ猫を被ったままなのだ。
その方がビジネスとしては都合がいいらしい。
しかし
「多分素のトーマスもそれはそれで人気出ちゃうんだろうなぁ」
ぽつりと一人言のように呟けばトーマスはその言葉に反応する。
「なんだよそれ」
「んー、多分ギャップ萌え?とか、男らしくてかっこいい、とか言われそうだなって」
紳士的なトーマスが突然男らしく荒っぽい所を見せればそれはそれで受けるのだと思う。
もっともこれはトーマスの見た目の良さがあるからこそなのだが。
「お前は俺の事そう思ってんのか?」
「あ、え、えっと」
トーマスにそう訊ねられてどう答えようかと少し悩んだ。
なんというかトーマスがかっこいいのは分かっているのだ。
だがどうしても私の中の昔のトーマスのイメージが消えなくてどちらかといえば
「ごめん、トーマスのことどちらかと言えば、可愛い、なって思って、ます」
なんとなくトーマスが可愛い可愛いと言われる事を喜ぶ方ではないと分かっているのだがそこで適当な事を言った所で、私は上手く本音は隠しきれない事を自覚しているのでそう正直に答えた。
勿論私がそう言ったことに対するトーマス反応が怖くて後ろを振り返って今のトーマスの顔を確認することは出来ない。
「俺の本性知ってて可愛いなんてお前ほんと趣味悪いよな」
トーマスがそう言って肩におでこをぐりぐりと押し付けてきた。
どうやら気を悪くしていないようだ。
照れているのだろうか、そういう所が可愛いのだが。
「でもちゃんとかっこいいとも思っているからね」
そう口にすればトーマスは私のお腹に回していた腕を外した。
「今すげぇお前とキスしたくなったからこっち向け」
「あ、は、はい」
そう言われて立ち上がりトーマスの隣に座ろうとすればトーマスに腕を捕まれて乱暴に膝の上に横向きに座らされた。
「あぶな、」
全て言い終わる前に片手でまた腰を固定されもう片方の手で頭を押さえられ唇を塞がれてしまった。
そのキスはただお互いの唇を合わせただけのものな筈なのになぜだか深く深く愛しあっているようなキスに思え、身体の中心まで幸福が溜まっていくようなキスに思えた。
たっぷりと、下手をすれば数分間触れるだけのキスを何度も続けていた気がする。
トーマスの浴びせるようなキスが終わった頃にはもう身体の力が抜けなんだかふわふわとした高揚感に満たされていた。
気持ち良さのあまり無意識で閉じていた目をゆっくりと開けばトーマスの綺麗なバイオレットな瞳と視線が合った。
なんだか照れてしまって視線を外せばトーマスは喉を鳴らして笑った。
「名前の方が何倍も可愛いけどな」
トーマスのその言葉に恥ずかしくなる程体温が上がって再び首筋や背中に不快な汗が伝っていき、喉は渇きを訴える。
「まぁ寧ろやらしいって方が正しいかもな」
そう言って頬に一度キスをして私の頭を撫でた。
「飲み物持ってきてやるからちょっと待ってろ」
トーマスはそう言って今度こそ私のをソファーに座らせて冷蔵庫に入っているお茶を取り出し二人分グラスに注いでいる。
ただそれだけの事をしているだけなのに今はトーマスがかっこよく見える。
かっこいいトーマスも可愛いトーマスも今この瞬間は私だけのものなのだと思えば心拍数が上がった。
テレビの中ではIVがファンサービス企画で一般人とデュエルを行っている。
昔とは違う、ナンバーズ集めを行っていた時とは違うデュエルでファンを魅了している。
私も魅了されてしまっているのだ。
トーマス·アークライトに。
「ほら」
暑さと妙な緊張感で喉がカラカラになってしまった私は差し出されたグラスを受け取るとそこに注がれたお茶を一気に飲み干した。
「もう一杯飲むか?」
トーマスにそう訊ねられ、首を縦に振れば私の手からグラスを取りあげ再び液体を注いでいく。
果たして私の熱はそれで収まるだろうか?