その日仕事が押していた。
本来の予定より約三時間というところだろうか。
その日は名前とデートの予定も立てていた事もありその予定を変更せざるおえなくなったその現状に、余計気分が悪くなっていた。
だが俺は世間からは紳士的なデュエリストというイメージで通っている。
だからその鬱憤を表に出すことなど出来ない、それがまた苛つきを増幅させていく。
そんな時dパッドが通信を知らせる。
送り主は想像が出来る。
(お仕事ご苦労様。大変だとは思うけれど頑張ってね、終わったら沢山甘えてくれたら嬉しいな。)
俺の全ては名前で構成されていると言っても過言ではない。
デュエルですら名前には及ばない。
名前から届いたメールに幾分か心が軽くなった俺は本当に単純な人間性なのだろう。
「IVさん、お待たせしました!よろしくお願いします!」
準備が出来た事を知らせに来たスタッフに笑顔で対応して控え室を出た。
とにかく今はとっととこの仕事を終わらせて少しでも早く名前に会いにいこう。
「お疲れさまでした!IVさん、今日は本当に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、たまにはそういうこともありますよ。
あなた方もお疲れ様でした。
私はお先に失礼させていただきますね」
ぺこぺこと頭を下げるスタッフに愛想良く社交辞令を言って現場を後にした。
急いで名前に仕事が終ったとメールを送ればすぐに返信が来た。
近くにいるから自分も途中まで出る、と。
俺自身が早く会いたいという気持ちもあったので中間地点の場所を指定してそこへの道を急いだ。
下手にタクシーを使うよりも足を使った方が早いと判断して待ち合わせ場所へと走る。
だが俺はこの時の判断を数分もしないうちに後悔することになる。
「あの、IV様、ですよね?」
信号待ちをしていた時誰かに声をかけられた。
十中八九ファンなのだろう、女は俺を見て目を輝かせている。
内心舌打ちをしつつも早々にこの状況を処理して立ち去ろうと笑顔で愛想よく対応すればその女は何を思ったか俺の胸に飛び込んできた。
「あの、私、本当にIV様が好きで、ずっと憧れていて、····だから私をIV様の恋人にしてもらえませんか?」
目を潤ませて女は俺にそう言った。
その言葉に俺の腰を掴む手を乱暴に払いのけてしまいたくなる程苛ついたがそれをぐっと我慢して女の肩を持って俺から引き剥がそうとするも女は離れようとしない。
「申し訳ございません、お気持ちはとても嬉しいです。
ですが私は今誰かとお付き合いする気はありません。
今はデュエルが恋人なのです。」
なんて無駄な時間なのだろうか、苛立ちは増していく。
早く、早く、数分でも時間が惜しい。名前に会いたいと思っているのなぜ俺はこんな女に時間を費やしているのだろうか。
「絶対にIV様のお邪魔になる事はしません!IV様の望む事でしたなんだってします!だから、お願いします!!」
そう言うのであれば今すぐ俺の前から消えてくれ、そう口に出来ればどんなに楽だろうか。
この無駄な時間をどう切り上げようか頭を悩ませる。
「申し訳ありません、貴方のような素敵なお方は私などよりもっと良い人がいますよ」
なぜこんな女にリップサービスをしなくてはいけないのだろうか、頼むから早く俺を解放してくれ。
そう込めて少し強く女の肩を押した。
「私はIV様が良いんです!!·····お願いっ!!」
女はそう言うとあろうことか俺の首もとを掴んで強引に引き寄せぶつけるように唇にキスをした。
「っ落ち着いてください、申し訳ありません、私はやはり貴方とはお付き合いできません」
口調は丁寧に、だが軽蔑をこれほどかという程の視線をぶつけてやれば女は目にいっぱいに涙を浮かべ逃げるように俺の前から走り去っていった。
泣かせてしまったなどという罪悪感は湧かなかった。
ただただ不快だった。
女が背を向けた瞬間力いっぱい自身の唇を袖口で拭った。
気持ち悪い、吐き気がする。
早く、早く名前に会いたい、無かった事にしたい、そう願って信号を確認する。
そして俺の思考は停止した。
「····名前····?」
道路を挟んで向こう側にいたのは名前だった。
顔がよく見えなかったので目を細めてじっと名前を見た。
その表情はまさに無、恐れさえ感じる程に名前から感情が消えていた。
こんなになんの表情もない名前を見たのは初めてのことだった。
それに背筋が凍る。
青に変わった信号を確認し急いで名前の元に走った。
心臓がばくばくと五月蝿い、だが今はそんなの事は関係ない。
「名前!!」
すぐ側まで近付いて声をかけるも名前は俺の顔をじっと見て何も言わない。
何から話そうか、きっと名前は先程の出来事を見ていたのだろう。
誤解されているかもしれない、否定しなければ、でもそれ以上に名前に触れたくて、先程の感触を打ち消したくて名前を抱きしめようとして肩に触れた。
「触らないで」
名前はそう言った。
初めて彼女の口からでた俺を拒む言葉に身体が硬直した。
「少し無防備すぎるんじゃない?
····ごめん、今日は帰る」
名前は先程俺があの女にしたように俺を突き放した。
俯いていて今は顔は見えない。
否定しなければ、何か言わなければ、そう思っているのに俺は名前に拒絶されたという事実に馬鹿みたいにショックを受けて言葉に詰まってしまったのだ。
そうこうしている間に名前は俺の元から去っていく。
怖いのに、まるで枷をつけらかのように身体が動かなくなって俺はその場に立ち尽くした。
なぜあんな言い方をしてしまったのだろうか。
それをすぐに後悔した。
謝らなければいけない、それを分かっているのに私は逃げ出してしまった。
本当は分かっている。
トーマスは私を裏切るような人ではない。
何を話していたのか、あの女性とどんな関係なのかは分からない。
でもきっとトーマスが悪いわけではないのだろう。
それでも胸が痛くてしかたがなかった。
あの女性に触れた手に同じように触れられた事にとてつもなく不快感を感じてしまった。
払いのけた瞬間のトーマスの傷付いた顔が頭から離れない。
嫌われてしまったかもしれない。
痛む胸を誤魔化すようにその場にしゃがみこんだ。
「····ごめんなさい、トーマス」
そこに居もしないトーマスに謝った。
それは消して届かない、ただ私の罪悪感を和らげる為だけのなんのに意味もない行為だ。
「あれ、名前、こんなところでどうしたの?」
そんな時誰かに声をかけられた。
驚いて顔をあげるとそこにいたのはトロンさんだった。
「····ふふ、今日の君はまるで子供の頃のような顔をしているね、なんだかとても懐かしいよ」
トロンさんはそう言って私の頭を撫でた。
「ねぇ、今日はクリスもミハエルも居ないんだ。
久しぶりに僕と二人でお茶しようか」
トロンさんはそう言って私の目尻にハンカチを当てた。
そこで私が今泣いていた事に気が付いた。
トロンさんはトーマスの名前を出さなかった。
お見通しなのだろうか。
トーマスによく似た目が優しく私に笑いかける。
トロンさんは躊躇する私の手をとって早く行こうと言わんばかりに笑う。
私はそのままトロンさんに着いていくことにした。
「今日はカモミールにしたよ。
名前の心が少しは楽になるといいんだけれど」
「あ、ありがとうございます」
家に着くなり私はお客様だからとソファーに座らせられてしまった。
そしてトロンさんがその場を離れてから数分程して再び現れたトロンさんが私に紅茶とお茶菓子を出してくれた。
カップを受け取り一口、口に含めばなんだか随分心が軽くなった気がした。
気がついていなかったが喉もカラカラになっていたようだ。
「美味しいです、本当にありがとうございます」
その一杯の紅茶で驚く程胸が満たされた気がした。
お礼を口にすればトロンさんも笑って紅茶を口にする。
「僕は君とこうしてお話が出来るのは楽しいからね、いつでも来てくれて構わないんだよ」
姿は子供になってしまったけれどやはりトロンさんはあの頃と変わらず優しいお父さんだ。
仕事が忙しくなかなか父に遊んでもらえなかった私にとってトロンさんは私の第二の父のようだった。
一時期は本当に大好きで父を通り越して恋のような感情さえ持っていた。
私の初恋はトロンさんだったと思っている。
「これはね、トーマスが買ってきてくれたんだ。
最近はクリスやミハエルは僕が甘い物をとりすぎだと注意してきたから控えてはいたんだけどね、そうしていたらたまにトーマスが仕事で遠出した時なんかにお土産にお菓子を買ってきてくれるようになったんだよ。
クリス達もそのくらいなら駄目だとは言わないからね」
トロンさんはそう言ってお菓子を口に運ぶ。
その表情はとても幸せそうだ。
私も同じようにそれを口にする。
口の中で優しく溶けていくそれはとても甘い、まさにトーマスのようだと思った。
トーマスはきっと兄弟の中で一番お父さんを慕っているだろう。
トロンさんの為にお菓子を選んでいるトーマスを想像すれば自然と笑みが溢れた。
「ようやく笑ってくれたね、僕は君の笑顔がとても好きだから嬉しいよ」
「ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
心が落ち着いたところでトロンさんに謝罪を入れた。
トロンさんはいいんだよ、と首を横に振る。
「さて、聞いてもいいのかな。
君にあんな顔をさせていたのはトーマスなのかな?」
トロンさんにずばりそう訊ねられドキリと心臓が鳴った。
返答に悩むもトロンさんは言葉を続ける。
「僕に気を使わなくてもいいんだよ。
勿論言いたくなければ無理強いはしない、でも話すことで楽になる事もあるからね」
カラになったカップに再び紅茶を注ぎながらトロンさんはそう続けた。
この人には本当に一生敵う気がしない、そう常々思った。
私の恥ずかしい嫉妬心をトーマスの父であるトロンさんに話すのは少し躊躇いがあったけれどついその言葉に甘えて私の気持ちをぶつけた。
「成る程ね、まぁトーマスが浮気なんて有り得ないだろうけど少し弛んでたのはいただけないねぇ」
トロンさんはそう言った。
私自身もトーマスが浮気をしただなんて思っていなかった。
それにも関わらずそれを許せない気持ちを抱いてしまったのは自分の自信の無さからだ。
「トーマスは身内の前でしか素の本来のトーマスを出しません、だから強く拒絶出来なかった事は分かってはいるんです。
····でも、それが分かっていても流せなかったんです」
理屈では分かっていた、それでも心がそれを納得しなかった。
私はまだまだ子供なのだと実感した。
「まぁおそらくトーマスのファンにでも強引に迫られたんだろうね。
····トーマスがあんな風に演じなければいけなくなったのは元を辿れば僕が原因だ。
名前には嫌な思いをさせてしまったね、ごめん」
トロンさんは私に頭を下げた。
詳細は聞いていない、でもトーマスが極東エリアのチャンピオンになった時の経緯は知っている、その大体の理由も。
でもだからといってその事をトロンさんが私に謝る必要など少しもない。
トーマスはデュエルが大好きだ。
きっとプロとしての仕事も今では楽しんでやっていると思うし彼にとっては天職だと思う。
「私が謝ってもらうことなんて一つもありません、どうか頭を上げてください」
私がそう口にすればトロンさんは苦笑いを浮かべる。
「君はなんでも許そうとするよね。
きっとトーマスとも今まで喧嘩らしい喧嘩をしたことがないんじゃない?」
トロンさんにそう言われて記憶を遡った。
言われてみれば確かに私達は喧嘩と呼べるものはしたことがないかもしれない。
「勿論仲直りの経験もない、だから君は不安で泣いていたのではないかな?」
そう言われて府に落ちた。
私はトーマスが他の女性とキスをしていたことに勿論ショックを受けた。
それでもその後考えた事はこれからの事だった。
なんと言って謝れば傷付けたトーマスに許してもらえるだろうか、そればかりが気になっていた。
「別に君が謝る必要なんてないんだよ。
君はもっと怒っていいし君が許すまでトーマスは謝ればいい。
トーマスは昔と変わらず君に甘えているだけだからね」
そうなのだろうか?
だからトーマスは私をすがるように見て私に抱き付こうとしたのだろうか。
トーマスがなんの遠慮もなく甘えられるとは私だけだった。
私はそれが嬉しかった。
なのに私はそれを拒絶してしまった。
「トーマスから既に聞いているけれどトーマスが18になったら君達は夫婦になるんだよね?
なら良い機会だったんじゃないかな、すれ違いも。
僕も妻の事は沢山怒らせたしその度に仲直りをして本当に幸せな時を過ごしてきたよ。
だから君達も沢山喧嘩してその度に仲直りをすればいい。
僕は君達どちらの味方でもあるからちゃんと話も聞いてあげる」
どうしてトロンさんは私にもこんなに優しくしてくれるのだろうか。
心がどんどん暖かくなっていく。
私の疑問を口にせずともトロンさんは答える。
「当然でしょ。
だって君は僕の娘になるんだしね」
私を優しく抱き締めるトロンさんは私より小さい筈なのに昔と変わらず大きく見えた。
「君が泣いていると僕も悲しいからね、いっぱい悲しんだ後は沢山笑うんだよ」
「っ、はいっ!」
私に出来る限りの笑顔ではっきりと返事をすればトロンさんも再び笑った。
そんな時だった、トロンさんのdパッドの通知音が鳴ったのは。
「おや、トーマスからだね。
今から家に帰ってもいいかって確認がきたよ。
もしかして君がここにいること知っているのかな?」
送り主はトーマスだったようだ。
自分の家に帰るにしては妙な確認だ。
おそらく私がここにいることも確認済みなのだろう。
「····私のdパッドの位置情報、トーマスの端末からでも確認出来るんです。
だから多分·····」
それを口にすればトロンさんは唖然とした顔を見せる。
「····ねぇ、僕がこういう事を言うのもなんだれど君は本当にトーマスで良いの?」
トロンさんは複雑そうな顔をしながら私にそう訊ねた。
それに対する答えに迷いはない。
「はい、トーマス以外有り得ません。
誰よりも愛しています」
私の思いをはっきり言葉にすればトロンさんは呆れたように笑う。
「君達は全然違う風に見えて似た者同士だよね。
トーマス、帰ってきたのなら早く入ってきなさい」
トロンさんはそう言って扉の方に声を掛けた。
すると少ししてからおそるおそるという感じで廊下に繋がるドアが開かれた。
どうやら本当に近くまで帰ってきていたようだ。
「おかえりトーマス、さぁ、何か言う事は?」
トロンさんが怖い程の笑顔をトーマスに向けている。
それに顔をひきつらせながらも私の側までやってきて頭を下げた。
「悪かった、一番傷付いたのは名前なのに、俺自分の事ばっかで····ごめん。
あの時ファンだっていう女に告白されて、やんわり拒絶したら、そのまま····
本当にごめん」
私に謝るトーマスはまるで子犬のようだった。
悪い事をして叱られるのを怯えているような、その姿にたまらず抱き締めたくなった。
ちらりと横目でトロンさんを見ようとすればいつのもにかそこから居なくなっていた。
気を使ってくれたのだろう。
私はトーマスを抱き締めた。
「ごめんなさい、私やきもち妬いちゃったの、信じてなかったわけではないけれど不安で、トーマスを傷付けてしまった、本当にごめんなさい」
トーマスの頭を優しく撫でればトーマスは私の背中腕を回して力いっぱい抱き締め返した。
肩に顔を押し付けて何度もごめんなさいと謝った。
やっぱり私はトーマスが心の底から愛しい。
心の靄はとっくに晴れていた。
その日父さんの提案で名前はそのまま俺の家に泊まる事になった。
クリス達が帰ってきてからの夕食の時間俺は父さんや父さんから話を聞いたクリス達からチクチクと嫌味のような説教を受けることになるも俺は全て自分の過失だと自覚があったので何も言い返せなかった。
ただ黙ってそれに耐えていれば父さんが冗談めかして
「あまり彼女を傷付けるのであれば名前を君のお母さんにしてあげてもいいよ?」
そう言われて俺は手に持っていたフォークを落としてしまった。
名前は父さんの冗談だとわかっているようで苦笑いを浮かべながらも俺をフォローする言葉を口にした。
本当に優しすぎると思う。
そしてその優しさに甘える俺はやはりガキなんだと思う。
名前は父さんとどんな話をしたんだろうか。
それも気になりもしたがなんとなく聞けなかった。
なんとも女々しい話だ。
あんなに態度の変わった名前が数時間後には元に戻っていた。
それは父さんのおかげなんだろう。
父親にまで嫉妬するだなんてどうかしている。
でも俺は父さんに勝てる日は一生来ないのではないかと思ってしまう程に父さんには頭が上がらないのだ。
「トーマス、お風呂お先に失礼しました」
夕食を終え先に風呂に入っていた名前が部屋に戻ってきた。
本音を言えば一緒に入りたかったのだが家族もいるから駄目だと断られてしまって俺も流石に今日はそれ以上我が儘は言えなかった。
いつもとは違い俺の服を着て出てきた名前にドキッとした。
邪な感情を振り払うように頭を振り俺も続いて風呂に入った。
煩悩が消えるのを待とうと湯船に浸かったら逆上せてしまいフラフラしながら部屋に戻って来た俺に名前は急いで水を飲ませ内輪で扇いでくれた。
「大丈夫?無理しちゃダメだよ」
俺に話しかける声が優しい。
我慢しようと思っていてもどうしても甘えたくなってしまう。
「膝枕してほしい」
たまらずおねだりしてみれば名前は二つ返事で了承してくれた。
子供の頃からしてもらっていたそれはとても安心出来た。
今では俺だけの特権だ。
「熱引いてきたね、良かった」
頬に触れる名前の手が気持ちいい。
その手に自分の手を重ねれば名前は穏やかに笑う。
なんて幸せな時間だろうか。
キスしたい、そう思うも名前はどうだろうかと考える。
探るように名前をじっと見れば俺の気持ちが伝わったのだろうか。
身体を屈めて俺のおでこに唇をあててきた。
「····名前」
唇にしてはいけないだろうか。
そう考えていれば名前の方から答えをくれた。
「トーマスからしてほしいな」
その言葉を聞いてすぐに起き上がった。
そして名前の手を握り優しく自身の唇を名前の唇に合わせた。
なんて気持ちが良いのだろうか。
相手が名前だというだけでこんなにも違うのかと感動すら覚える。
角度を変えながら触れるだけのキスを続ける。
そのまま食べてしまいたくなる感情を抑えながらもじっくりと。
「トーマス····大丈夫?」
名前もそのキスに酔ったのか俺に甘えるように抱き付いてきた。
その大丈夫が何を含んでいたのか理解した俺は堪らなくなって名前を抱き締める。
「····いいのか?」
それが合っているかを確かめるように訊ねれば返事代わりに名前の方からキスをくれた。
それを合図にそのまま名前を優しくベッドに押し倒した。
下着をつけていない胸が揺れる。
それを見てごくりと生唾を呑み込んだ。
再び唇を合わせれば名前も求めるように俺の首に腕を回した。
そのまま今度は深いキスをしながら片手を服の中に進入させ肌の上を滑らせた。
そして柔な胸に触れれば名前が肩を揺らした。
薄目で名前を見れば頬を赤く染めている。
何度も行われている行為に未だにこういった初な反応を見せる名前が本当に愛しい。
「可愛いな、本当に」
頬や額、耳、首筋に余すことなくキスをすれば名前は完全に出来上がってしまった。
とろけた表情を見せる無防備な姿に俺もどんどん欲情していく。
「····もっと触って?」
滅多にない名前からのおねだりに理性が飛びそうになった。
そのおねだりに答える為に名前の服を脱がせた。
焦らす余裕もなかったのですべて剥いで丸裸にしてしまった。
早く名前を感じたかった俺もそれに続いて自身の服を脱ぎ捨てた。
そしてそのまま覆い被さり名前の胸に吸い付いた。
どうしてそうしたくなるのかはわからない。
だが名前の胸は、身体は俺に安心感のようなものをくれる。
勿論欲情もするのだが、いつまでもこうしていたいと思う程に安心してしまうのだ。
そうしていると名前は俺の頭を撫でてくれた。
本音を言ってしまえば、俺は名前に母親のようなものを重ねている部分が少なからずあるのだろう。
子供のように母に甘えたいという感情を持っている事を自覚している。
そんな自分が恥ずかしくなって吹っ切るように先端を甘噛みすれば名前から甘い吐息がもれた。
名前は母親なんかじゃない、こんなにも女なのだ。
そしてそんな名前の甘美な声を合図に名前のソコに手を滑りこませればやはりソコはもう十分に潤っていた。
中を探らずともくちゅりと音を鳴らす淫らなソコに再び生唾を飲み込んだ。
「いつもより早いな」
潤ったソコにそのまま指を入れれば名前の腰が揺れる。
そのまま敏感な部分を刺激してやればどんどん甘美な声をあげていく。
「トー··マス、早く、早く欲しい、の」
本当に珍しい、酔っていた時を除いて名前にこんなにはっきりと求められたことは初めてかもしれない。
たまらなくなってとっくに硬くなっていたソレを名前の入り口に押し当てた。
名前の顔を見ながらそのままぐいっとソレを押し込めば名前はソレに小さく震えながら感じている。
いつも以上に俺を締め付けているように感じる。
それはまるで俺を離さないと縛りつけているように思えて嬉しかった。
全て挿入し終わった後、より触れていたいと思いそのまま名前の背中に手を回し抱き起こし俺の膝の上で向かい合う体勢になった。
名前がぴったりと俺に抱き付いてきたので俺もしっかりと抱き締めてキスをする。
名前もそれに答え自ら舌を口内に進入させてきた。
それに同調して俺のモノを締め付けるソコに刺激され、名前の腰を掴んでやわやわと動かせば名前は声をもらす。
どちらのものかわからない唾液が二人の間から溢れた。
「んぅっ····トーマス、すき····」
とろけきった顔で何度も俺を好きだと言葉にする名前に俺の理性は殆ど残っていなかった。
今日くらい優しくしたいと思っていた俺の理性など名前のたった一言であっさりと消し飛んでしまい俺は再び名前をベッドに押し倒して強く中を突き上げた。
名前はただただその快楽に溺れて俺の名前を何度も何度も呼んだ。
ああ、本当に名前は俺が好きで俺は名前の事が本当に大好きなのだと改めて実感する。
そんな風に抱き合っていればそう時間は経たないうちに強く、痛い程までに抱き合ったまま二人して達してしまった。
快楽を我慢しきれなかった名前の爪が俺の背中に食い込んだ。
俺を離さないと言わんばかりのそれが痛みさえも快楽に感じさせた。
傷付けてごめん、許してくれてありがとう、言葉にしなければいけないことが山程ある。
自分を否定する言葉だとしても怯えずにもっと名前の本音が知りたい、そう思った。
疲れて眠ってしまった名前を起こさないようにそっと頬に触れた。
愛しいその存在に想いを言葉にしたくなった。
でもそれを言葉にするのは名前が起きている時だと踏みとどまり出そうになった言葉をそのまま飲み込んだ。
きっと名前はもう全く怒ってなどいないのだろうけど、それでも俺のせいで傷付いた事はなかったことにならないから。
朝になったらありったけの愛の言葉を名前に注ぎたい