その言葉の愛しさ

まだ季節は秋になったばかりだというのになぜそのように感じたのかは分からない。
今の今まで眠っていた俺は普段であればまだそんな風に感じる事はないのに妙な肌寒さを感じて目を覚ました。

しかし意識がしっかりとしてくればそんな事は全くない、寧ろ心地良い気温だと理解した。
では何故そのように感じたのだろうか。

「あ」

そこで思い出した。
昨日は名前が隣にいた事を。
そして今はそこに名前の姿がないことにも。

そうか、昨日はあったぬくもりが無くなった事が原因だったのか、そうぼんやりと考えていたがそれからすぐに完全に脳が目覚めベッドから飛び起きた。

「は?いや、どこ行ったんだよ!」

ここは俺の実家だ。
名前がそこを好き勝手に歩き回るような事をするイメージがまるでない。

「ま、まさか、帰ったのか!?」

慌てて部屋を出てリビングへと行きドアを少し開ければ俺の心配をよそに名前が兄貴と和やかに話をしている声が聞こえてきた。

そのまま勢いよくドアを開け放てば俺を見て名前は顔を赤くして兄貴は眉間にシワを寄せた。

俺が邪魔だったとでも言うのだろうか。
名前の反応が気に入らなくて文句の1つでも言おうと口を開きかけたその時名前が俺の元へダッシュで駆け寄ってきた。

「と、トーマス!部屋に戻って!!」

そう言って俺の身体を押して強引にリビングから追い出した。
俺はわけが分からないまま名前に部屋へと連行されようとしている。

「そんなに俺に知られたら困る事でもしてたのかよ!?」

それに腹が立ってそう不満をぶつければ名前は俺を見て更に顔を赤くする。
本当にそうなのかとショックを受けるも名前の口からでた予想外の言葉に俺は硬直した。


「貴方今自分がどんな格好をしているか分かっているの!!??」

滅多に声を荒げない名前のその言葉に俺は自分の身体を見た。



俺は全裸だった



「······ほら、早く部屋に戻って服を着ましょう」

名前は俺の背中を押して部屋へと連れていく。
しっかりと服を着た女が全裸の男を押して歩いている。
第三者の目からみればこれ程滑稽な風景もそうそうないだろう。




「····名前、その、わ、悪かった」

服を着て落ち着いたところで名前に謝罪の言葉をかければ苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

「もういいけれど、その、なんていうかいくらクリスでも私が泊まった後当然のように裸でいたの知られたら、····色々バレバレなの恥ずかしいから、気を付けてね」

「兄貴だって男だからそのくらい理解してんだろ」

「そういう問題じゃないの!」

名前は恥ずかしそうに顔を赤くしてそう言った。
不謹慎とは思いつつも昨晩俺を執拗に求めていた姿を思い出してムラっとした。

「····変な事考えてるでしょう」

「別に考えてねぇよ」

なぜバレたのだろうか。
名前は俺をじろりと睨んだ。
けれどその頬はまだ赤みを帯びたままでその視線に凄みは感じられなかった。

「名前、ここ座れよ」

とんとんと膝を叩いて名前を誘えば困ったような表情で俺を見た。

「···今日はもう変な事しないでね?」

そう言って少し躊躇しつつも俺の膝の上に座った。
俺は後ろから名前を抱き締める。

「兄貴と何話してたんだよ」

「貴方の話しかしてないよ、トーマス」

だから安心して、と言わんばかりお腹に回された俺の手に名前は自身の手を重ねた。
別に本気で疑ったわけではない。
それでも不安にはなる。
兄貴と名前は同い年ということもあり昔から俺の分からない話を二人でしていたから。

「それでも俺は名前が俺以外の男と知らない所で二人っきりになるの気に入らねぇんだよ」

「男って···トーマスの家族じゃない」

名前はそう言って呆れ顔だ。
名前は分かっていないのだ、俺がどれ程名前を愛しているのか。

「ムカつくものはムカつくんだよ」

「····昨日のトーマスの方がよっぽどだったけどね」

「うっ····」

それを言われてしまえば俺は何も言えなくなって言葉を詰まらせた。
不意討ちだったとは言え完全に俺の失態だと責任は感じている。。
そんな言葉を使いたくはないが名前以外の女とキスをしてしまったのもまた事実だ。
名前を傷付けてしまったことは事実なので言い訳の言葉を並べたくもない。

「···冗談だよ、もう怒ってないから。
意地悪言ってごめんね?」

名前は身体を捻って俺の方を向き俺の頭を撫でた。
これは仕方のない事だが名前は今でも俺を弟扱いする時がある。
決して嫌ではない。
嫌ではないのだが時々無性に悔しく思う時がある。

「ガキ扱いすんな」

だからそう言って名前の唇を塞いだ。
名前は一瞬驚きつつも俺の後ろ首に腕を回して俺を受け入れた。
数秒間名前の唇を味わった所で惜しみながらも唇を離した。

「ああああ、このまま抱きてぇ」

素直に思った事を言葉にすれば名前は笑った。

「でも駄目なの分かってるでしょう?」

俺が今本気で名前を抱こうとしていないのを分かっているようで余裕な表情を見せる名前。
その顔を見て本気で抱き崩してしまいたくなった。

「次会う時1日中セックスしたい」

「····ばか!」

煩悩をオブラートに包む事もせずに言葉にすれば名前に叩かれた。
でも知っている。
いざ当日俺がそれを望めば名前は俺のおねだりを聞いてくれる事を。
まぁさすがにそこまで無茶な事をする気はないのだが。
あわよくばという気持ちは持っている。

「····トーマスが起きてから皆で朝ごはんにしようって事にしていたから、そろそろ皆の所に行きましょう?」

名前はそう俺を促した。
そう言われて自分が腹が減っている事に気が付いた。

「行くからもう一回キスしたい」

「はいはい」

そう伝えれば今度は名前の方から俺にキスをくれた。
それは初めての事ではないのに妙に幸せな事に思えた。

「おはよう、トーマス」

「おはよう、名前」

もう少しすればこの挨拶を毎日交わせる日が来るのかと思えば胸が弾んだ。
朝はおはよう、出掛ける時はいってきます、家に帰ればただいま。
夜が来ればおやすみなさい、それが二人の間で日常になる。
それをこんなにも幸せだと思える相手と俺は結婚出来るのだ。


大切に大切にしたい
俺が与えられる愛情を全て注ぎ込んで

もうあんな風に泣かせたりなんか絶対にしないと心に強く誓った