冬のイベント

·1014

「体育の日だからえっちしよう」

直球すぎる名前の言葉に俺は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
名前は自分が言っている事がイコールで繋がらない事に気付いていないらしい。
言っている本人は至って真剣な顔をしていた。

「体操服持ってきたの」

名前はそう言って紙袋を差し出した。
それを取り出せばよくあるタイプの白のTシャツとラインの入ったショートパンツが入っていた。

当然のようにそれは2着用意されていて1着はサイズ的にもデザイン的にも男物だ。
まず間違いなく俺用のものなのだろう。

「色んなシチュエーション楽しめるホテル見つけたの、体育倉庫とか」

名前は期待に満ちた目で俺を見つめる。

「だめ?」

俺の答えなんて分かりきっているだろうに。
名前は俺の言葉を待っている。

「····今日夜冷えるから上着用意しとけよ」

「ありがとう!!」

この後普段とは違うシチュエーションにいつもより興奮してしまい互いにがっつくようにセックスしたのは言うまでもない。
最近どんどん自分が馬鹿になっている気がする。
だがそれもまた幸せに感じてしまっている。



·1111

「トーマスもこういうの興味あったんだね」

コンビニでたまたま見かけた謳い文句に菓子業者の戦略の乗るのは癪だと思いつつもその時それを全力で楽しめそうな名前の顔が浮かんだ俺は気付けばそれを買っていた。
好みが分からなかったので適当に数種類購入したそれを袋ごと名前に差し出した。
名前は笑ってそれを受け取った。

「私はアーモンドが一番好き」

名前はそう言って袋の中に入っていた一番好きだというアーモンドポッキーの箱をを取り出した。
封を開け中のビニールからそれを一本取り出した。

「私とすると勿論それだけじゃ済まなくなるけど良い?」

名前はそう言って俺にポッキーを差し出した。
勿論そんなことは俺だって承知していた。
寧ろそれを狙って買ったにすぎない。

「でもまぁポッキー食べながらのキスって口のなかごちゃごちゃしちゃうから食べ終わってからしようね」

「····」

名前の言葉に眉間にシワが寄る。
遠回しに俺以外とそういうことをした事があると宣言されたのと同じだから当然だ。

今俺としか関係が無いことは理解しているし信じている。
だが感情のコントロールはそうシンプルなものではない。

そんな小さなもやもやを抱いたまも差し出されたポッキーを口に咥えた。
逆側から名前も食べ進める。

俺も同じように食べ進めた。
もやもやを処理出来なかった俺は先程の名前の言葉を無視して名前の口内をそのまま荒らした。
身体を後ろに反らそうとする名前を押さえ付けてそのまま遠慮かく名前の口内を掻き回した。
咀嚼されたそれは確かに気分の良いものではないかもしれない。
だが俺は名前となら悪くはないと思った。

それを舌で絡めとって飲み込んだ。
唇を離せば呆けたような顔で名前が俺を見た。

「····どうしよう····トーマスとするのは
悪くなかった」

そう言って今度は名前が自分でポッキーを咥えた。
先程と同じように俺はそれを食べ進める。
今度は名前の舌が俺の口内を荒らした。 
口の中にあったものは全て絡めとられていって後には甘さだけが残った。

「ふふ、なんだか美味しくなってきちゃった」


俺達はお似合いのカップルなのだろう。



·1123

「今日は勤労感謝の日だからトーマスを甘やかしてあげる」

名前はそう言って俺の肩を揉んだ。
肩凝りの自覚はなかったのだが名前の指が肩に食い込む度に気持ちよくて声が出そうになるからそれなりに凝っていたのだろう。

「名前だって働いてるだろ」

寧ろデスクワークをしている名前の方が身体が凝っているのではないかと訊ねるも仕事終わりに整体に行っているから大丈夫だと返された。
寧ろそれが必要な程疲れているのだからやはり名前の方が疲れが蓄積されているのではないか?とは思ったが後ろを振り向けば楽しそうに俺の肩をマッサージしていたから素直にそれを受け入れることにした。

十分に身体をほぐされれば身体が物凄く軽く感じられて驚いた。
名前は次に紅茶を入れに行った。
付き合い始めた当初珈琲派の名前は俺の為の紅茶の入れ方を練習してくれたらしい。
今では慣れた手付きでそれをこなしている。
林檎がたっぷりと入ったアップルパイと共に紅茶を出された。

「久しぶりに作ったからどうだろう」

フォークで一口サイズにそれを掬って口元に差し出される。
それをそのまま口にする。
仄かにシナモンの風味と林檎の甘味、何層にもなるパイ生地のサクサクとした食感が実に楽しい。

「美味い、紅茶も合ってる」

甘いアップルパイにダージリンセカンドフラッシュの相性は抜群だった。

「良かった」

名前自身もそれを口に運ぶ。
美味しく出来ていると微笑んだ。

「トーマス、付いてる」

俺の口元にパイの欠片が付いていたらしくそれを名前は指でとって自身の口に運んだ。
そこで違和感を覚えた。
普段の名前ならば間違いなくここぞとばかりに自身の舌でそれを絡めとっといただろうに、と。

そんな事を考えながら名前を見れば視線がぶつかった。
そして名前は笑う。

「今日は休ませてあげるからえっちな事しないから安心してね」

俺は考えた、どうすれば名前に厭らしい事をしてもらえるだろうか、と。

まぁ簡単な話だ。
俺がシたいと言えばいいだけなのだ。
だが俺を休ませたいと思ってくれた名前の配慮は考慮したい。

色々考えてみるも俺の我慢なんてまともに働く筈がなかった。

「名前が身体で癒してくれてもいいんだが」

名前の肩を抱きそう言葉にすれば名前は一瞬ぽかんとした顔をしたがすぐに柔らかく笑った。

「今日はね、良いお風呂の日でもあるんだって。
だからこれ食べ終わったら一緒にお風呂入ろうか」

いっぱい癒せるように頑張るね、そう言って名前はケーキを口に運ぶ。
俺も同じようにケーキを頬張る。
パイ生地の中にたっぷりと入った砂糖で煮詰められた甘いりんごとどこか大人びた刺激的な香りを放つシナモンはまるで名前のようだと思った。

普段はそれなりにしっかりとした理性を着ているがそれを一枚一枚剥がしていけば中には甘ったるくて仕方ないそれが俺を誘惑する。
時に甘く時に辛くいつだってそれは優しく刺激的で。

「そうそう、今日良い兄の日でもあるらしいから今日はお兄ちゃんって呼んであげようか?」

いたずらっ子丸出しな表情でそう提案される。
俺は名前の言った胸焼けがしそうな程甘いお兄ちゃんという呼び名にとてつもなく興奮してしまった。

この日は名前のおかげで実に充実した1日を過ごせた。