「十代ー、いるー?」
レッド寮の彼の自室をノックするも返事がない。
ドアノブを回すと鍵はかかっていないらしくドアは簡単に開いた。
そのままドアを開ければ玄関に彼の靴はあった。
部屋を覗けばベッドに人影が見える。
どうやら眠っているようだ。
勝手知ったると言わんばかりに部屋に上がりベッドに近付くも十代は目を覚ます気配がない。
不用心にも程があると呆れながらも相変わらず彼らしいと笑ってしまった。
まだ幼さが残る彼の寝顔に思わず笑みが零れる。
健康的で綺麗な肌をしたその頬を軽く摘まめば眠っていた十代は軽く眉間にシワを寄せた。
「なんだよ、名前。
もう授業終わったのか?」
眠りを妨げられた事に少し苛立ちながらも十代は起き上がりストレッチをするようにぐいっと伸ばしながら大きな欠伸を一つ。
二度寝するつもりはないようだ。
「ううん、私もサボり」
「悪い奴だなー」
自分自身の事は捨て置いてそう言った十代に私もつられて笑う。
「デュエルするか?」
「んー、今はいい」
私は何をしにここに来たのだろうか?
少なくともデュエルがしたくて来たわけではなかった。
ただなんとなく十代に会いにきただけだ。
「じゃあこっちか?」
「違うなー」
十代が自分の隣をぽんぽんと叩いた。
その意味を理解してしまえる関係の私はそれにも違うと首を横に振る。
「なんとなく会いたくなっただけだよ」
「なんだよそれ、まぁいいけどさ」
曖昧な言葉を口にする私に十代はそれ以上深く追及することはしない。
それが逆の立場だったとしても私もきっと彼にそのような事はしない。
ただ会いたくなっただけ、それは私達の関係性が違えばロマンチックな響きに聞こえたかもしれない。
良く言えば夫婦のような、悪く言えば互いに興味がない、私達の関係性はそうだった。
私達はとても気が合った。
でもそれでいて恋愛関係に発展しなかったのは互いに持つその感情が原因なのかもしれない。
私達はいつからだか明確には覚えていないがなぜか無条件で互いを信頼するようになっていた。
だからこそ相手の行動に口を出さない。
それは他人から見れば無関心にさえ見えたかもしれない。
はじめはその感情に上手く名前を付けられなくてなんとなく興味本位で身体を重ねて見ればぎこちなくとも互いの体温の心地よさに一時の幸福は得た。
だがそこに何も熱は感じなかったのだ。
ただムラムラしたから、暇だったから、そんな人から見ればだらしのない理由で何度も身体を重ねるも一時の心地よさは感じてもそこに新たな感情が芽生える事はなかった。
「そういや名前オベリスクブルーの奴に告白されたらしいじゃん」
「なんで知ってるのかなー」
どこで聞いたのか私に起こった出来事を知っていた十代が私を冷やかすように言ってきた。
実際の所私なんかより十代の方がよっぽどモテる。
告白出来ずとも彼に憧れる女の子は複数いるのだ。
そんな彼女達を可愛らしく思う事はあっても嫉妬する事はない。
おそらくそれは十代も同じなのだろう。
そう、それが答えなのだろう。
「付き合うのか?」
「わかんない」
私に告白してくれた人とは挨拶程度の関係だったが少し話しただけでなんとなく優しそうな雰囲気は伝わってくるし見た目も悪くなかった。
私が恋人が欲しくて堪らない人間だったとしたら取り敢えずお試しで交際を考えても良い人なのだろうとは思う。
「まぁ悪い奴だったら俺がデュエルでとっちめてやるからいつでも言えよ」
十代は普段と変わらぬ笑顔でそう言った。
十代は私に恋人が出来る事に嫉妬したりなどしない。
私はそんな十代が好きだった。
だけどこの好きが熱を持っていない事を知っている。
あくまでも彼は私にとってのヒーローでしかなかった。
「大丈夫、その時は私がとっちめるから」
けれど私はヒロインではないから何かがあったとしても彼の背中に隠れるのは癪だった。
可愛げがないとも思う。
でも私だって彼と同じようにヒーローになりたいのだ。
だがそんな自分がわりと好きだった。
「なんだよ、名前だけずりーの」
もはや彼は自分がデュエルをしたいだけなのだろう。
それが分かっていてもけして不快に感じる事はない。
寧ろ彼らしくて良いとさえ思える。
「十代は彼女作らないの?」
「考えた事ねぇけどまぁ縁があればいつか出来るかもな、想像出来ねぇけど」
きっと作ろうと思えばすぐにでも出来るのだと思う。
それに嫉妬はしないが十代と付き合う事になる女の子はきっと苦労することになるだろうということが容易に想像出来てその女の子には少し同情はしてしまう。
「私はまだいいかな、恋愛とかよくわからないかもしれない」
「だよなー」
そう口にすれば十代もうんうんと首を縦に振って同意の意思を示した。
私達は多分精神年齢が近いのだろう。
「でも老後まで一人だったら寂しいだろうからいつかは彼氏ほしいな」
「そんな先の事俺には想像できねぇけどじいさんになってもデュエル楽しめてたらいいなとは思うな」
十代はきっとそうあると思う。
そうあってほしいとも思う。
「まぁお互い恋人も結婚もしなかったら俺たち二人で同居して名前が死ぬまで俺が名前のデュエルの相手してやっから」
お互い相手がいなければ結婚しようと言わない所が十代らしい。
私だってそれを望んでいないのを理解しているのだろう。
「私が先に逝くの前提で言わないでよね、その時は私が十代の事看取ってあげるよ」
だから私も軽口でそう返す。
そんな未来もそれはそれで楽しそうだと心から思えるのだ。
この学園に来てそんな相手と出会えた事に喜びを覚える。
「ぜってー俺のが長生きすっから」
「十代は生い先短い生き方しそうだから私の方が長生きしますー」
意味なんてないくだらない言い争いをした。
そんな毎日がとても充実している。
「ならデュエルで勝負だな!」
「途中からこうなると思ってた」
十代が意気揚々とデュエルディスクを手に取った。
この勝負に勝ったからといって何が決まるのかという話なのだがデュエルバカ二人にそんな事は関係ない。
ただデュエルしたくなったからデュエルをする、それだけだ。
「負けた方が明日のドローパン奢りね」
「乗った!3つだからなー!!」
私達は決して揺るがない
そう誓える程互いにとってかけがえのないものを手にいれた
何をしていたって何処にいようと私達はこれからも唯一無二の親友だ