合わない視線

「ああっ、····ん、そこ気持ちいい」

そんなのとっくに知ってる。
名前の身体で知らない所なんてない。
それ程身体を合わせているのに心はずっと遠い。

「こっち向けよ」

それが寂しくて強く抱き締めて唇を合わせれば名前の方から舌を割り入れてきた。
いっそこの舌を噛みきって食べてしまいたいとすら思う。
絶対にそんなことは出来ないのだけれど。

溢れる唾液を勿体ないと言わんばかりに慌てて舐めとればそんな俺を見て名前は笑う。

「IVって本当にキスが好きね」

その言葉に否定はしない。
でも俺は名前が好きだからキスしたいんだ。
名前は俺とキスするのもセックスするのも好きな癖に俺の事は愛してくれない。
俺はこんなに名前を愛しているのに。

「ねぇ、そろそろちょうだい?」

こんなに厭らしく俺の身体に触れるのに名前は俺を愛してくれない。

それでも名前に求められれば俺はそれに従ってしまう。
本来なら特別でない人間が踏みいる事の出来ないソコに侵入する。

「んぅっ···今日いつもより硬い気がする」

硬すぎると痛いと聞くこともあるがどうなのだろうか。
何度も何度も交わっているのに微妙な変化に気付いてもらえた事が嬉しい。
でもふと嫌な考えが浮かんだ。
もしかしたら俺以外の奴のモノと勘違いしているのではないのかと。

「····なぁ、名前は俺以外ともこうして寝ているのか?」

なぜ聞いてしまったのかとすぐに後悔した。
もしもそんな相手がいれば名前は正直にいると答えてしまうだろう。
想像上の相手に嫉妬から名前の太股を掴んだ手に力がこもる。

「いないよ、今はIVとしかシてない」

名前の否定の言葉に握る手から力が抜ける。
名前は俺を見て笑った。

「心配しなくてもIVを人と比べるような事しないよ」

名前は何も分かってない。
俺はセックスを比べられることに怯えているわけではない。
いたかもしれない誰かと俺の名前を想う気持ちを比べられる事が怖いのだ。

もっとも名前がこんなこと他の誰かともしているのならその誰かを殺したい程憎むだろうが。

「ねぇ、お願い。続きシて?」

そんな俺の気持ちを知りながらも応えるつもりのない名前はセックスの続きを要求してきた。
俺はいつもと変わらずひたすら名前が気持ちよくなることだけを考えて動く。

「あんっ···IVぉっ、···気持ちい、いっ」

無防備に蕩けた顔で感じる名前が愛しくて憎くて気が狂いそうだ。

こんなに俺に感じているのに俺を愛してくれない名前が嫌いだ。

腹が立って覆い被さって華奢な肩に噛みついてやれば中がきゅっと締め付けた。

腹が立っているのに名前がそうされるのが好きな事を知ってそれをやっている自分が嫌いだ。

俺の首に腕を回しまるで愛でるように優しく俺の頭を撫でる手が嫌いだ。

「IV、すきよ」

俺の好きとは違う好きを平然と口にする名前が嫌いだ。

そんな偽りの言葉に胸がざわついてしまう自分が嫌いだ。

「·····俺は愛してる」

噛みつくような乱暴なキスも名前は拒まない。

名前は俺とそんなことをするのが嫌いではないから。

俺の事を嫌っていないから突き放してなどくれない。

どんなに愛を言葉にしても身体を重ねても名前は俺の想いに応えてくれない。

『もし別れちゃったら二度とIVとこうして出来なくなっちゃうじゃない』

俺はずっと名前を愛しているというのに名前はいつか俺が名前を嫌いになる事を当たり前のように言うんだ。

なんで俺の気持ちを信じてくれない、なにを恐れている、お願いだからそれを俺に教えてくれ。

「トーマスは本当に私の事がすきなのね」

俺の告白にもいつもと変わらぬ顔でそう口にする。
知っているくせに、分かっている癖に名前は俺を突き放す事も受け入れる事もしてくれない。

ただただセックスをするだけだ。

「愛してる、なぁ、俺ずっと、ずっとお前の事愛してるって誓うから、だから」

名前はただただ微笑んでいる。
俺のすがるような言葉はそのまま空間に溶けてまた消えてしまう。

「私もね、IVの事はすきよ、だからセックスしてる。····それでいいじゃない」

酷いなんて残酷な女だ。
俺をすきだというのに結局恋人にはしてくれない。
だから今後仮に名前が他の誰かと同じ事をしても俺には怒る権利をくれないんだ。

悔しさをぶつけようと乱暴にしてやろうと行為を続けても俺はやっぱり名前の良い所を突いてしまう。
そしてそれに名前は感じている。

今日もゴムの中にどろどろとした感情を吐き出した。
いっそその苛立ちを名前に直接注ぎ込めたらいいのに。

俺の子供を孕んでしまえばいい、そう考えもした。
だがきっと名前はそんな事で俺を愛するようにはなってくれないと分かっている。

きっともう二度と俺の前に姿を現すことはしないだろう。

「····ねぇ、もう一回、イイ?」

少し荒い息遣いで名前がそう聞いた。
俺はどろどろとした感情の詰まったそれをゴミ箱に放り込んでもう一度名前に覆い被さった。

「断るわけねぇだろ」

今日も俺は名前から離れなれない。
報われたいという気持ちを捨てることも出来ずに俺は名前と交わり続ける。