気まぐれな猫

昼休み自身の恋人である名前を探して十代は校内を歩いていた。

気紛れで自由な名前はこちらの思惑も気にすることもなくPDAも持たず誰にも行き先を告げることもせずにふらふらどこかに消えることは珍しくなかった。

朝一緒に登校したあと教室に鞄だけ置いて放課後まで戻ることがない日もあった。
交際当初たまたま十代が名前に急ぎの用があった時校内を探し回ってやっと名前を見つけ、捕まえて何をしていたのかと問い詰めれば名前は悪びれた様子もなく眠くて寝て起きたら今だった、と答えた。

名前の放浪癖を知らずに休み時間毎に探しまわった事にイラつきを感じるもその対象の名前は髪や制服に葉っぱをつけたまま依然として眠そうに欠伸をしていた。
名前のなんとも間抜けな姿に十代は毒気を抜かれてしいそれ以降はその放浪癖に特別怒りを覚えることもなくなった。

十代自身もかなり自由な人間ではあったのだが名前はそんな十代以上に自由気ままに毎日を過ごしていた。
名前の友人達も名前の行動を把握する者はいなかった。

そんな名前はまるで猫のようだ、十代はよくそう感じていた。













「名前、なにしてんだ?」

十代は昼休みに校舎裏でしゃがみ込む名前を見つけて近づいて声をかけた。
しかし名前はこちらを振り返る事もなく何かを見ていた。

「なんだよ、なんかあったのか?」

そう言って名前の横に十代も同じようにしゃがみ、名前が何を見ていたのか同じ方へと視線を向けた。

視線の先にいたのは二匹の猫だった。


「……なんでそんなの見てんだ?」

「うーん」

名前が見ていたのはその二匹が交尾している様子だった。
理由を訊ねるも明確な言葉は返ってこなかった。


「なら欲求不満か?」

「足りてる」

こちらも見ずに名前はそれを否定した。

二匹の猫はこちらを気にせず一心不乱に交尾を続けていた。

それを黙って見学しているという異様な光景に十代の心境は複雑だった。

少ししてより猫が大きな声で鳴いた。
そしてその猫達はすぐに姿を消してしまった。












「似てるなと思って」

先程まで黙ってソレを見ていた彼女は言った。

「なにが?」

「十代が猫に」

猫がいなくなったその空間を捉えたまま名前は言葉を続けた。

十代から言わせてもらえば名前のほうが猫のようだと考えるもまだ何か言おうとする名前の言葉を待った。

「いろんな意味でね」

「どんな?」

「今見てたでしょ?」

そう聞き返して名前は十代と目を合わせた。

「…猫の交尾ってさ、雌が逃げられないように雄が首に噛みついて後ろからするでしょ?」

「…そうなのか?」

その言葉に名前が言いたい事になんとなく思い当たる節がある十代はほんの少し気まずそうな表情をみせた。

「まぁ理由はそれだけじゃないけどさ」

そんな十代を見て面白そうに彼女は笑った。

「つーか名前の方がよっぽど猫っぽいけどな」

そんな名前に少しイラついた十代はそう言いかえすも、よく言われると気の緩んだ表情を見せる。

そうしていると先程まで交尾に励みいつのまにか消えていた雌猫が名前の足下再びに近づき甘えるようにすり寄ってきた。

「彼女とは仲良しなんだよね」

そう言い自身にすり寄る猫を抱き上げてその猫の頭を撫でた。


「でもね、私とこの子とじゃ絶対的に違うところが一つあるよ」

そのまま地面に座りその猫を膝に乗せ優しい手付きで体を撫でながら続ける。

「…なんだよ」


名前は十代の手に自身の手を絡め指の間を擦るように動かした。

「………教えてくれねぇの?」

黙ったままひたすら自身の指をなぞる名前を急かすように名前の手を握ればそれに応えるように彼女もぎゅっと力を入れ握り返した。


「私は十代から逃げようとしない」


「……しょっちゅう探しまわってんだけど」

その答えに不満げに返すも名前は笑った。

「私がいなくても十代は見つけてくれるでしょ。そもそも私は逃げてなんていないよ」

そんな名前の言葉に屁理屈にもほどがあるだろうと十代は思ったがそれを口には出さなかった。

「でも十代がえっちのときすがるように抱きついて甘えるように噛みつくところも大好き」

「っ、昼間っからなに言ってんだよ」

名前の身も蓋もない言葉に半ば照れ隠しでそう返すも名前にも十代の思惑などバレバレなことなど言うまでもない。

名前はいつものしまりのない笑顔を見せこう続ける。

「あ、別にバック嫌いだから止めろって意味の嫌味じゃないからね」

「ばか、やめろっ」

そんな軽口を言って名前は笑った。
十代は今日も猫のように自由な名前に振り回される。


そんな事をしている間に昼休み終了を告げ次の授業の準備を急かす予鈴が鳴った。

「…ほら、もう行くぞ」

それに伴い地面に完全に座り込んでいた名前の腕をとり引き上げようとすれば膝に乗っていた猫は軽い足取りで体から降り何処かへ走り去っていった。

それを目線で追いながら立ち上がり走り去る猫の背に小さく手を振った。

「遅れるぞ」

そのまま彼女の手を握り校舎に向かい足を動かせば数歩進んだ時点で名前は足を止めた。

「次もサボんのか?」

「ううん」

もしやと思いそう訊ねるも否定の言葉が返ってきた。
まだ名前が興味を示すものがあるのだろうかと周りを見渡すもなにも思い当たるものは発見できない。

クエスチョンを浮かべる十代に名前はもう一つ今日最大の爆弾を落とした。



「後で猫みたいなえっちしようね」

そう伝え名前はその言葉に固まる名前を放置して一人走り去っていった。

そして授業開始を知らせるチャイムが鳴る中十代はその場で頭を抱えしゃがみ込んだ。

「……あのあほっ…」

うつむいてそう呟いた十代の頬は赤く染まっていた。


やはり自分なんかより気紛れで自由な名前の方がよっぽど猫らしい、改めてそう認識した名前は力なく腰を下ろした。
もうすっかり授業を受ける気など消え去ってしまった。



そっちがその気ならこっちもやってやろうと十代は静かに決心した。