悪趣味な恋人

(ああ、まただ)

心を不穏な影に支配されていく。
日に日に黒く染まっていく自分が大嫌いだ。
なぜこんな風になってしまったのか、それを知っているのに私は心を支配するそれを切り捨てる事が出来ない。

私の目の前で十代は笑っている。
その笑顔は私に向けられているものではない。

十代はいつだって誰かに囲まれている。

(あんなに馬鹿にしていた癖に)

レッドである彼を最初皆が見下していたのに。
私はずっと前から彼の輝きに気付いて惹かれていたのに。
後になってあっさりと寝返った彼らが今当然のように十代の隣に立ち笑いあっていることが気に入らない。

「顔に出ているわよ」

苛立ちを隠す様子もない私に呆れて明日香が忠告した。
そんなことは百も承知している。
分かった上で私はこんな顔をしている。
それでも私だって

「好きでこんな顔をしているわけじゃない」

そう返事をすれば明日香はやれやれとでも言わん顔だ。
そしてそのまま私の隣に腰を掛けた。

「適当に割り切れないと十代みたいな人とはやっていけないんじゃない?」

明日香の言っている事は腹が立つ程正論だった。
十代は何もしなくたってそこに存在しているだけで人を惹き付ける不思議な魅力を持っている。
言うなれば所詮私だってその甘い誘惑に吸い寄せられた人間の一人に過ぎない。

「それを十代自身が分かってる事が腹が立つの!」

十代は自身の魅力を理解している。
それをコントロールしている程に。
だから十代は過度にお節介を焼いたかと思えば時に冷たいと言われる程に他人を突き放す。

でもそれは最終的には十代が自分を信頼してくれているのだという安心感に変わるのだ。

普段は明るくノリもよく困った時は頼りになっていつでも自分を信じてくれている。
そんな人を心の底から嫌う人間なんてそういないだろう。

だからどんどん十代の周りには人が増えていく。

それでもどんなに人に囲まれていても十代は一瞬で私を見つけるのだ。
まるで私が特別だと言わんばかりに。
私が教室に入った瞬間談笑していた十代はちらりと私を見て笑う。

そんなちょっとした事に単純な私は一喜一憂してしまう。

「そんなに腹が立っているなら私にしてみる?」

「え?」

十代を求めてしまう自分が苦しいと硬く握りしめていた手を明日香の美しい手が包み込んだ。
そしてその手で指をほどかれ今度は明日香の指が私の指先に絡めとられる。

「私なら貴方にそんな顔させないけれど?」

何を言っているのだろうか。
そもそも明日香だってこの学園で大人気な女王様の癖に。

私は親友の明日香にすら嫉妬している。
いつか十代を取られてしまうのではないか、と。

「明日香が私のものになったら明日香に十代を取られる心配がなくなるね」

「折角口説いているのにつれない言葉ね」

明日香はクスクスと笑う。
本当に言動仕草全てが一々綺麗でそれと比較した自分が実に平凡で嫌になる。

「飽きられるくらいならいっそ十代と明日香と3人で付き合ってみるのもいいかもね」


「「それは無理」」


我ながら酔狂な事を口にすれば明日香の声にもう1つの声が重なった。

「あら十代、別に来なくて良かったのに」

明日香は十代を見て眉間にシワを寄せた。
十代はいつもと変わらず笑っている。

「名前に悪い虫が付きそうになってたからなぁ。そりゃあ助けに来るさ」

明日香とは逆隣に腰を掛け明日香を挑発した。

「たちが悪い虫は貴方でしょう、失礼ね。
私は寂しい思いをしていた貴方の恋人を慰めていただけよ」

明日香の手は依然私と繋がっている。
それを見て十代の眉間がピクリと動いた。

「名前はここでも感じるんだ」

十代はそう言って明日香に握られていない方の手を取り指先を口に含んで甘噛みした。

「っ!」

まさか今そんな事をされるだなんて思っていなかった私はそれを制止出来ずに小さな反応を見せてしまった。

十代は喉を鳴らして笑っているし明日香は私をじっと見ている。

「俺は名前自身が知らない事まで全部知ってる。
だから明日香にはやれねぇよ」

見せつけるように私を抱き締める十代に明日香は大きくため息を吐いて絡めていた指先をほどいた。

「ならもっと名前を愛してあげなさい。
そうしないのであればいつでも私が貴方から名前をさらってあげる」

「残念だなぁ、名前は俺じゃなきゃ無理だからお前には手に終えねぇよ」

十代はそう言って私を抱き締める腕に力を入れる。
正直苦しいくらいだ。
でもそれが私には嬉しかった。

これ以上は付き合いきれないと明日香が席を立った。

十代はそれでも私から離れようとしない。

「名前は俺のものなんだから他の奴に口説かれてんじゃねぇよ」

耳元で囁かれた苛立ちを含んだ低音に身体がぞくりと収縮した。
十代は今私にしか見せない冷たい表情をしている。

「寮でもどこでもいい、今すぐ抱きたい」

続けて耳元で囁かれる声に身体の震えが止まらない。
これは寒いわけでも怯えているわけでもない、歓喜の震えだ。

「十代の部屋が良い」

十代の香りに包まれたい、そう耳元で囁けば十代は満足げに笑って私を解放した。

「んじゃあ行くか!」

まるで購買にドローパンでも買いに行くかのような無邪気な顔をして十代は立ち上がる。
私も同じように立ち上がる。

先程十代と話していた人達が相変わらず元気だなと言わんばかりに十代を見て笑っている。

(残念でした、十代はこれから私とセックスするのよ)

私は貴方達の知らない十代を知っている、そう心の中でほくそ笑めば先程まで彼らに抱いていた嫉妬の感情は消えていた。
そしてなんだかおかしくなって私も十代につられて笑ってしまった。

十代が私を嫉妬させたくてわざと目の前で他の人と親しくしていることは知っている。
それに気付いているのにそれを割り切れない私。
そんな私が大好きな十代も。

私たちは毎日このくだらない遊びを繰り返し愛を育んでいる。