そんな未来も

「なんかね、私達が付き合ってるって噂があるらしいよ」

今日私が明日香から聞かされた噂話を当事者でもある十代に伝えれば十代も前ほどそれを聞かされた私と同じ顔をした。

「なんでそんな事になるんだ?」

十代は頭に疑問符を沢山浮かべている。
十代には理解出来ないその理由を私はなんとなく理解している。

「男と女が二人でいればそういう噂が立つものなのよ」

「····なんかつまんねぇ話だな」

私だって十代のその考えと同意見だ。
生物学上男と女しかいいない世界で全てが恋愛に結びつくだなんて実に暴力的な話だと思う。
同性同士のカップルだって少なくないこの世界で何が普通で何が異端だと言うのだろうか。
ずっと一緒にいるからということが理由だというのであれば私と明日香が付き合っているという噂の方がよっぽど自然だ。

「娯楽が少ないからね、皆そういう話が好きなんだよ」

「俺はデュエルが出来ればそれで良いんだけどな」

十代はいつだってマイペースだ。
他人に流されない、だからこそ一緒にいて楽しいし居心地が良い。
だからこそ恋愛対象に見てしまっては疲れることになるのが容易に想像できる。

「十代はデュエルが恋人みたいなもんだもんね」

私がそう言えば十代は否定することなく自慢気な顔をする。

「名前だって同じようなもんだろ?」

明日香の言葉を借りるならばきっと私も十代とデュエルに恋をしているのだ。
デュエルを学ぶ為の学校とはいえただ趣味の延長のような気持ちでこの学園にいる生徒も少なくないだろう。
だからこそこういった噂話が持ち上がるのだ。

「私はデュエルに愛されているから」

「ずりー!俺だって愛されてるに決まってんだろ!」

子供も私達が愛だの恋だの軽々しく口にするのは実に滑稽だろう。
ここに明日香や万丈目君達がいれば呆れた顔をされることが想像できる。

「そもそも付き合うって何するんだよ?」

「んー、そうだね。ご飯一緒に食べたりデートしたりキスとかハグするんじゃない?」

まぁ十代に伝えたものの中で私達はキス以外なら何度もしているが。

「そんなの殆どの事ダチとなら出来んじゃん」

十代はますます訳が分からないという顔をする。

「殆どの事に含まれない事出来る相手ならそれは恋愛に繋がるのかもよ?」

まぁ世の中には恋人でなくてもそんなこと出来てしまう人は沢山いるのだけれど。
それを十代に伝えるのもなんだかアレなので言葉は引っ込めた。
下手をすれば十代もそうなりそうな気がする。

そうなったからと言って私達の友人関係がおかしくなることはないと思うのだけれど自らそちらに背中を押すのは躊躇われる。

「考えてみたんだけどさぁ、俺名前とだったら多分キスくらい出来る」

十代はいつもと変わらない表情で私を見てあっけらかんと言った。

本来であれば驚くようやその言葉に動揺はなかった。
十代らしいと思ってしまったのだ。

「多分私もキスくらい出来ると思う」

そしてその十代の意見に私も同意した。
これに関しては本当にそうなのだ。
決して十代と親友でいたいから恋心を隠していたなどという理由ではなく、本当に十代とキスくらいならなんとも思わないだろうなという気持ちがあるのだ。

もっともなんとも思わないからこそ私達は恋人ではなく親友なのだが。

「なぁなぁ、名前」

名前を呼ばれた後なんの断りも入れずに十代は私の唇にキスをした。

少し触れるだけの軽いキスを。

それは凄く短いキスだったというのに私の唇には十代の柔らかい感触がやたらと残った。

何よりもおかしいのはこのいたずらのようなキスをした当事者の十代が固まっている事だ。

「なんでだろ、なんか、思ったより悪くなかった」

十代が一人言のようにそう呟いた。
十代は依然頭上にクエスチョンマークを出している。

「私も」

十代と同意見だった。
いや、寧ろ思っていたよりずっと良かったと思ってしまったのだ。

「ていうか寧ろ良かった」

十代は私が思っていても口にしなかった事をあっさりと言ってしまった。
彼はその意味を理解しているのだろうか?

「まぁでももうしちゃダメだよ。
これは恋人とする事だからね」

このままでは下手をすれば私と十代が都合の良い関係になってしまう未来が来るかもしれない事を危惧してそう釘を刺せば十代は無邪気に笑って言葉を紡ぐ。

「俺名前となら恋人になれる気がした!」

そのあまりにも単純な思考回路に呆れるも十代らしいと笑ってしまう。

「私達のデートってやっぱりデュエルなのかな?」

「それすっげーいいじゃん!」

もっともそれをデートと言っていいのかは謎だが。
やはり十代にも私にも恋愛というのは早いのだと改めて実感した。
それと同時に安心もしてしまったのだが。

いつか十代に好きな人が出来、その人と恋人同士になれば今のように気軽にいつでもデュエルすることは出来なくなってしまうだろう。

そんな未来は少しだけ寂しい。

「名前と恋人になったらこれから先もずっと名前とデュエル出来るんだよな。
俺名前とのデュエル好きなんだよな!」

「十代は誰とするデュエルだって大好きでしょ」

私がではなく私のデュエルが好きだと言う十代にまだ恋は早い。
いつかデュエルを取り払っても好きだと言える相手が彼に出来るのだろうか。
無理だろうなぁ。
彼は細胞レベルにデュエルを愛している気がするから。

「そりゃあデュエルはいつだって楽しいけど名前とするデュエルが一番って事だよ!」

私が十代に恋をしていたとしたらときめいたのだろうか?
その悪意のない無邪気さにやきもきしたかもしれない。
それが分からない私もやはり恋をするにはまだ早いのだろう。

「とりあえずデュエルしようよ、十代」

私がデュエルディスクをセットすれば十代も待ってましたと言わんばかりに嬉々としてデュエルディスクを装着した。

「これがデュエルデートってやつだな!」

「いつものデュエルと同じでしょう」


私達が親友でなくなる日が来るのか、それはまだ誰にも分からない