未来を願って

「IVって彼女いるの?」

「···おい、今デュエル中だぞ」

分かっているけど、そう言って名前はカードを1枚伏せてターンを終了した。

どうも今日は名前の様子がおかしい。
今俺とデュエルをしているというのに心ここにあらずと言ったところだ。

俺が攻撃宣言を行い名前のモンスターを破壊するもなんの反応も示さない。
名前のライフはそこで尽きた。

「一体どうしたんだよ」

らしくない、この場面においてそれが適切な言葉だろう。
名前は根っからのデュエル馬鹿でデュエルを始めればすぐ熱くなる奴だ。
負ければ本気で悔しがり何度も勝負を挑んでくる、そんな奴だ。
裏表のない屈託なく笑うそんな名前といるのはとても楽だった。
俺はそんな名前の事を親友だと思っていたし名前自身も俺を親友だと言っていた。


「私ね、告白されたの」

「は?」

名前がぽつりと溢した言葉に随分と間の抜けた反応をしてしまった。
別にそれがおかしいと思った訳ではない。
名前が良い奴なのは俺が一番よく知っている。
見た目だって悪くない、デュエルも強い。
今まで恋人がいない方が不思議だったのだ。
でもそんな気配は全くなくて名前は何よりデュエルを愛していた。
そんな名前だったからこそ恋愛とは疎遠だったのだろう。

「一人占めさせてほしい、····って言われたの」

名前の顔は無表情だった。

「IVとも会わないでって」

続いて出た言葉に俺は鈍器で頭を殴られたような気分になった。
同じプロ同士俺達が仲が良い事は有名だった、その男も当然知っていたのだろう。
だが俺と会うな?随分図々しい事を言ってくれるなと顔も知らないそいつに苛ついた。

「···何様のつもりだよ、そいつ」

それを口に出してしまえば名前が此方に視線を向けた。

「私IVと会えなくなるのは嫌だって言ったの。そしたら私は、···私はIVが好きなんだってその人に言われたの」

ようはフラれた事に対する子供染みた捨て台詞だ。
俺はそいつに心底イラついた。

「私確かにIVが好きだよ、親友だもん。
これからもずっと一緒にいたい。
それをその人に咎められたのがなんだか凄く嫌だった」

名前もそれは同じようだ。
俺だって今最悪の気分だ。
ただその苛つきの内訳は名前とは少し違うようだ。

「恋人が出来たらIVとはもう会えなくなっちゃうの?
なら私恋人なんて作れない。
でもね、いつかは結婚して家族を作りたいとも思ってる。
それってどちらかしか選べないの?」

俺がイラついたのはそんな男に気付かされた事だ。
名前を他人に取られたくない、そり理由を自覚した。

「···名前は俺と離れるのがそんなに嫌か?」

#bk_name_1は#俺の言葉に素直に頷いた。
そんな名前の手をとった。

「俺にこうされるのは嫌か?」

名前は首を横に振った。
次は肩を掴んで自身の胸の中に名前を押し込んだ。

「これは?」

そのまま背に腕を回し抱き締めた。
それにたいして名前はほんの少し静止した後首を横に振る。

「ならこれは?」

再び少し距離をとり名前の頬に唇を押し当てれば名前は驚きの表情のまま固まった。

拒絶するだろうか、怒るだろうかと反応を待つ。
すると名前は驚いた表情でこちらを見てほんのり頬を赤く染めた。

「····なんでだろう···全然嫌じゃなかった」

名前は俺が唇を付けた場所を手で押さえながら恥じらいを含んだ目でこちらを見つめる。
それを可愛いと思った。
本当にそれに気付くきっかけとなったのが俺と名前を切り離そうといた男だという事実に腹が立つ。

「なら一つ良い方法がある」

「え、なに?」

俺自身全くこんな展開になるとは思わなかった。
名前といると予想外の展開が起こり本当に毎日が楽しい。
そんな事はとっくに知っていた筈なのに。
取り上げられそうになって初めて気が付くだなんて俺はまだまだガキなのだと呆れた。

「俺とずっと一緒にいて、俺と家族になればいい。
だから名前、俺と付き合え」

俺の言葉に名前は目を見開いた。
その眼に動揺を見せるも何かを必死で頭の中で処理しているのが伺える。
俺は随分名前を理解しているようだ。

「ずっと友達だったのに、なんていうか混乱しちゃって····でも、全然嫌じゃないの。
その····寧ろ、それって楽しそうって····」

先程まで名前を親友としか見ていなかったのに想いを自覚した途端混乱している名前を畳み掛けるように自分のものにしようとしている。

狡いやり方だと自覚はしている。

だが今日の事で気が付いたのだ。
きっちりと捕まえておかなければいずれ誰かに名前を盗られてしまうと、そして俺はそれが許せない。
まるで名前が最初から俺のものだったかのように言う俺は傲慢な人間なのだろう。

「いいんじゃねぇか、楽しいなら。
違ってたならまたこれまで通りに戻ればいい。
ずっと一緒にいる」

まぁこうなった以上俺は名前を手放すことなどしないだろうが。
それは言葉には出さなかった。

「···えっと、じゃ、じゃあ····私、IVの、彼女?」

なぜだろうか、自覚した途端に様々な欲が湧いてくるのは。

「俺の名前、本名トーマスっていうだ。
IVは色々あって、仕事で使ってたって感じだ。
···だから、名前には本名で呼んでもらいたい」

細かな説明を出来ないのは俺の弱さに過ぎない。
なんとなく名前か受け入れてくれそうだと思うのは自惚れだろうか。
だが今はまだそれを名前に打ち明ける勇気はなかった。

「そうだったの?····うん、わかった、トーマス」

名前は俺が自分に偽名を騙っていたことに対して何も責めようとしなかった。
本当に、あ、そうなの?程度にしか思っていない顔をしている。

「えっと、じゃ、じゃあ宜しくね、トーマス」

だが俺の名前を呼ぶ瞬間ほんの少し照れくさそうに笑う名前を見て心が抉られそうになった。

「なぁ、···ちゃんとしたキスしてもいいか?」

頬に手を添えそう訊ねれば一瞬きょとんとしたすぐに意味を理解してこれ程かという程顔を赤く染めた名前を見て俺は我慢出来ず身体が動いてしまった。

「〜〜聞いた意味ある!?」

一瞬で終わったキスの後名前は俺の胸を叩いて不満を口にした。
確かにその通りだ。
だが顔を真っ赤に染めたまま怒っている名前が可愛くて仕方なくて頬は緩んでしまう。
そんな俺を見て名前は胸を叩くのをやめた。

「····い、嫌じゃなかったから、もう、今度から聞かなくて、いい····」

顔を背けてそう言った名前が可愛くて思わず抱き締めた。
名前の身体が大きく跳ねたが少しして恐る恐る俺の背中に腕が回された。  

「なんで気が付かなかっただろうな。
俺、凄くお前が好きだ」

そう口にすれば背に回された腕に力がこもった。
それは本当に心地よいものだった。