優しい時の中で

「2体のモンスターでダイレクトアタック」

トーマスのその宣言を持って私の敗北は決定した。

「·····うう····もういい····」

その日は沢山トーマスとデュエルをした。
そのデュエルを終え次で丁度10回目に差し掛かる時私は心は完全に折れた。
先程終えたデュエルではトーマスのライフを100ポイントも削る事は出来なかったのだ。

「もしかしたら一回くらいって期待した」

「こっちはこれで食ってんだぞ。
お前は俺を舐めすぎなんだよ」

トーマスは意地悪な笑顔を浮かべてカードを揃えデッキをデッキケースへとしまった。
言葉使いは少々荒くはあったがその声色はとても柔らかい。

「まぁお前ならいつでも相手になってやるよ」

上機嫌な表情でトーマスは私の頭をくしゃくしゃっと撫でながらそう言った。
私の方が年上な筈なのにトーマスはいつも私を子供扱いする。

「····次は勝つもん」

「はいはい、またな」

トーマスはやはり余裕の表情だ。
悔しいが私はトーマスに勝てたことはない。
プロとごく平凡な一般人の私では当たり前の結果なのかもしれないがやはり私もデュエリストである以上負ければ悔しかった。


「今からどうしよっか?」

「あー···そうだな···」

世界的に流行したウイルスの影響で可能な限り外出は控えるように、あくまでもそれを強制はしないという形での国からのお達しが出た。
その影響もありイベント事が次々と中止になった事があり私達は久しぶりにゆっくりと家で共に過ごす時間を設ける事が出来たのだった。

「映画でも見る?」

「もう3本見ただろ」

トーマスはそう言って両腕を上に伸ばし大きく背伸びをした。
出来るだけ外出を控える為に食料を買い溜めしたこともあり昨日も一昨日も籠りっぱなしなのだ。
そろそろ身体にもストレスがかかってきたのだろう。

「こうもじっとしていると逆に疲れてくるね」

「俺達がまだ若い証拠じゃねぇの?」

トーマスの言い様にそれじゃあ逆に年寄り臭いとからかえばトーマスはムスッとした顔をして私の髪をぐしゃぐしゃに乱した。
仕返しとばかりに私も同じようにやり返せばその下らないやり取りがおかしくて二人で顔を見合わせて笑った。

こんな平和な日常を過ごせるのは本当に久しぶりだった。

「でもさ、退屈なのって結構幸せなことなんだね」

「あ?いきなりだよ····まぁ分からなくもねぇ、か···」

トーマスはそう言って来いと言わんばかりに両手を広げたので少し躊躇しつつ側に近付けばトーマスに腕に引っ張られ私はトーマスの膝の上に乗る体勢となった。

「なんだよ、照れてんのか?」

そうされたことが妙に恥ずかしくなって視線を泳がせていた私をからかうようにトーマスはそう言って笑いながら私を抱きしめた。
首筋に笑うトーマスの息があたってそれがとてもくすぐったい。

「だって、···こういうの?その·····久しぶりだったから····」

「·····あー····今の、なんかキたな····」

トーマスはなんとも言えないような顔でそう言って頬に唇を押し当てた。
そして腰に回された手に力がこもったのを感じて身体が強ばってしまった。

「····今更だろ」

何を緊張しているのか、と言いながらトーマスは私の耳朶をかぷりと甘噛みした。
うっ、と小さく声を漏らせばトーマスは喉を鳴らして笑った。

耳にあたる息はやはりくすぐったくて身体が身動いでしまう。

「あー····なんだ、····そろそろ運動したいんだけど、お前はどうだ?」

運動だなんて表現されたそれが健全な行為を指していないこと等すぐに理解出来た。
トーマスとそういった行為をするのは初めてではないし今更、という話なのだが本当にご無沙汰していたのだ、そういった行為自体が。

「嫌なら無理にとは言わねぇけど」

口ではそんな風に言っているものの太ももにはトーマスの硬くなったものがあたっていてなんとも断りづらい雰囲気にはなっている。

「···嫌なわけじゃないけど···」

そう、拒みたいわけではない。
ただ先程までの日常から突然そういった空気にガラリと変わりかけている現状に心がついていかず動揺してしまっているだけなのだ。
それにひきかえトーマスは平然としているからこそそれが逆に私の羞恥心を煽った。

「····けど、なんだよ?」

トーマスの顔が意地悪なものに変化していくのに気が付いてなんとも複雑な気分になった。
別に嫌いなわけではない、ただなんとなく悔しいのだ。
自分ばかりが余裕が無くなってしまうことが。

「言葉で言えないってんなら行動で示してみろよ」

「····どういう意味?」

トーマスにニヤニヤと笑っている。
妙な展開になってしまったと聞き返した事に内心後悔した。
大人しくあのまま流されてしまった方が良かったのだ。

「オッケーなら名前からキスしろよ」

「え····」

それくらい簡単だろうと言わんばかりの表情でこちらを見て笑うトーマスの顔に少しイラついた。
嫌だとはね除けてしまいたい気持ちすら抱きつつもトーマスから離れたくないという気持ちも相まって心情は複雑だった。

「ほら、それとも本気で嫌か?」

悔しい、とても悔しい。
どうにか一泡吹かせられないだろうか、そう考えるもこんな状況では良い案はとても浮かびそうにはなかった。
それは私がトーマスに抱かれる事を望んでいるいい証拠だった。

もう諦めよう。

「···嫌じゃないよ、お願い、····トーマスにいっぱいキスしてほしいし触ってほしい」

意を決してトーマスにキスをしてそう伝えればトーマスは一瞬きょとんとした顔をした後徐々にその顔を赤く染めていった。

「····お前·····ああもう、ほんとに煽り上手というか····まぁいい、覚悟しろよ?」

「え、なに?」

なんでもない、と頭を振ってトーマスは私の口を塞いだ。
私は目を瞑り静かにそれを受け入れた。
リップ音を立て何度も何度もされるその行為は徐々に大人のそれに変わっていく。
やがて頭はボーッとし始めて何も考えられなくなっていった。

「ここでこのままするのとベッドに行くの、どっちがいい?」


「·········」

この時私がなんと答えたかは覚えていない。

それでも私達はとても充実した休日を過ごす事が出来た。

なんてことのない平凡な休日はとても幸福な時間をくれた。