天気が悪い休日

その日は起きた時から雨が降っていた。
既に太陽は登っている時刻だというのに閉めきったカーテンから洩れる光は普段程眩しくない。

ベッドから起き上がりカーテンを少しだけ開けてみるもやはりあまり変わりがなかった。
空は雲に覆われている。
今日は比較的暖かい、気温がもう少し寒ければ雪でも降りそうな程空は真っ白だった。

どちらの方が良いかと問われたら雨よりも雪が良いと思うのだろうか。

「····名前···」

「ごめん、起こした?」

振り返ると隣で眠っていたトーマスが私の名前を呼び自身の手を私の手に重ねてきた。
まだ意識は半分夢の中なのだろう。
目は開いているがみるからに眠そうな顔をしている。

「···普通に起きただけだ」

「そう?」

違うと否定したトーマスの頭を撫でてあげると再び目を閉じた。
普段であれば子供扱いするなと怒るところだが今日はその気配もない。
これは二度寝してしまうだろうな、と思った。

「今日は雨も上がりそうにないから洗濯物も干せそうにないよ。
外に出るのも疲れちゃうだろうからゆっくりしてていいよ」

トントン、とお腹を軽く叩いてそう伝えるとまだ微睡み状態のトーマスが再び目を開き此方をじっと見た。

トーマスは兄故の性質なのかなんやかんやと相手に気を使う。
私は彼の友人達とそこまで親しい間柄でないのでそれがどの範囲まで適応されるのかは分からないが少なくとも私は彼に気を使われている人間だ。

この機会に彼にゆっくり休んでもらってお昼はトーマスの好きな食事を用意して午後もまだ眠ければ昼寝をしてもいい、彼が望むのであればデッキ調整がてらデュエルをしてもいいしゆっくりと過ごしたければ二人で映画を見るもお互い読書をするも良い、そんな風に考えた。

「名前は?」

「私?私は私で何かしろしているから気にしないで」

トーマスの問いにそう言って再び頭を撫でれば今度は眉間にシワを寄せられてしまった。
話しかけすぎて目を覚まさせてしまったのかもしれない。

「ごめん、起こしちゃったね。本当にまだ早いし寝てて大丈夫だよ」

私はトーマスの頭を撫でることが好きなのだが彼ももういい大人の年齢だ。
子供扱いされているように感じてしまっているのかあまり良い顔はされない。
それをわかっているから私は彼の頭から手を退かし少しはだけていた掛け布団を彼の身体の上にかけ直しベッドを降りようとした。

「なんでお前は出て行くんだよ」

「え、まぁ···起きちゃったし、ゆっくりお昼の用意でもしながら過ごそうかなって」

トーマスは離れようとした私の手をしっかりと握って此方に不機嫌そうな視線を向ける。
本当に機嫌を損ねてしまったらしい。

「ゆっくりするんだろ、だったらお前もここにいろよ」

「え、うわっ」

トーマスにそのままぐいっと腕を引っ張られて私は再びベッドに逆戻りしてしまった。

「一人だと寒い」

先ほどかけ直した布団を今度は私ごと頭まですっぽりと布団で覆いぎゅっと私を抱きしめた。
寒いと言ってはいたがトーマスの身体は温かすぎるくらいだった。

「···ん、じゃあ一緒にいようか」

きっとトーマスが頭まで布団を被せてしまったのは顔を見られたくなかったのだろう。
それでも私の顔が押し付けられている胸からは普段より早い心臓の鼓動が聴こえる。
赤くなっているであろう顔など見ずとも今トーマスが何を考えているかなんて考えるまでもない。

「起きたら何食べたい?」

「ん···だらだらするんだろ?だったら何か頼んでもいいし最悪腹が膨れりゃいいから、お前もたまにはだらだらしてろ」

トーマスは私の頭を撫でた。
結局今日も私が気を使われてしまった。
なんだかそれが少しだけ悔しく思う。

「···今日、雨じゃなくて雪だったら良かったのになぁ」

「いきなりなんの話だ?」

「雪だったら、本当にトーマスを暖めてあげられたのになぁ、って」

そしてトーマスの心臓の音は先程よりも更に大きく鳴った。
それを聴いて思わず笑えばトーマスが布団を捲って私の顔をじろりと睨んだ。
トーマスの顔は真っ赤に染まっていた。

「今日はそんなに寒くなんてないでしょう?」

「····お、俺は寒いんだよ!!」

トーマスは私に寒いからと理由をつけて甘えた事が恥ずかしかったのだろう。
だから照れて赤くなった顔を私に見られないように布団で顔を覆っていたのだ。

トーマスは怒って私に背を向けて再び布団にくるまってしまった。
布団から少しだけはみ出した彼の頭を撫でた。
背を向けてはいるが振りはらうことはしなかったのでそのまま後ろから彼を抱き締める。

「ごめんね、トーマスは寒かったんだよね。
いっぱい暖めてあげるから、ね」

赤くなった耳にちゅ、っと小さく音を立ててキスをすればトーマスはぴくりと反応した。

「今日はずっとこうしていよう」

何度も何度も頭を撫でれば徐々にトーマスの身体から力が抜けていく。
顔なんて見ずともやはり私には彼が今どんな顔をしているかなんて考えるまでもなかった。

「おやすみなさい、トーマス」

子供を寝かしつけるように優しく、何度も何度も彼の頭を撫で続けると次第に彼の呼吸はゆったりと規則正しいリズムに変わった。
それを確認して私も目を閉じた。

彼の体温は覚めた筈の私の意識を再び眠りに誘う事など容易なことだった。

外は相変わらず薄暗くて雨のせいで少し湿気を感じる、部屋の中は暗いままだ。
けれどそれとはうらはらに私の心は雲ひとつない春の空のように明るく澄んでいた。