器から溢れる程

「可愛い」

「もう良いから、忘れて」

「忘れっかよ」

可愛くて仕方がない。
本当に閉じ込めてしまっておきたいくらいだ。
何度も何度もその言葉を口にしながら頬にキスをした。
名前は自分の言った言葉が恥ずかしくて仕方ないらしくて顔を赤くしたまま俺から視線を逸らしている。

「俺はお前がそういうこと言ってくれるの嬉しい」

してやれる事が限られているからこそ出来る事はなんだってしてやりたいし何より名前も俺と同じように思っていたことが嬉しい。

「自分がシたいだけのくせに」

「名前は俺とヤりたいだけで付き合ってんのか?違うだろ、俺も同じだ」

合わない視線に業を煮やした俺は名前の顎を掴んで此方を向かせた。
すると赤くなった頬を更に赤くして目を泳がせた。

「ちゃんとこっち見ろよ」

出来る限り優しくそう言うもなかなか目を合わせようとしない名前。
そんな事をしても俺を煽るだけだというのに。
もしかしてわざとやっているのだろうか。
いや、名前に限ってそれはないだろう。

名前は俺とは真逆の人種だ。
他人をからかうような事は絶対に出来ない、ましてや挑発なんてもってのほかだ。
それ故デュエルも弱い。
もしかしたら初心者の小学生相手にだって勝てないかもしれない。
遊馬の実直さとはまた違うだろう。
俺は名前のそんなところが好きで堪らない。


名前がなぜ今頑なに俺から視線を逸らしているのか。
簡単な話だ。
名前が風呂に入っているのを待っていた俺がベッドで半分寝かけていた、そんな時風呂から上がった名前が音を殺して俺に近付いてきた。
俺は目を閉じて眠ったふりをした。
名前がどんな反応をするか気になったのだ。

普段は奥手な名前がキスの一つでもしてきたらいいのに、そう願って目を閉じていた時名前の口から発せらた言葉に俺は驚いて目を見開いてしまった。

名前は驚いて俺から距離を取ろうとした。
そんな事を許す筈もない俺は名前の腕を掴んで強引にベッドに引き摺りこんだのだった。


「なぁ、もっかい言ってくれよ」

「···ちゃんと聞いてたじゃない」

一度言ったのなら尚更もう一度言うくらいいいじゃないかと思うのだが名前はその言葉を聞かせてくれない。
どうすれば名前の心を動かせるのだろうか?

「俺の目を見てちゃんと言ってほしいんだよ。
俺だっていつもそうしてるだろ?」

「そんなの····私が出来ないの知ってるくせに···」

恥ずかしがりやな名前を可愛く思えば思う程もっとイジメたくなる。
自分が子供じみた事をしていることを自覚していないわけではないがどうにもやめられない。
名前はどんなに恥ずかしい目にあっても俺を嫌わない。
そんな自惚れを持っているからこそもっともっとそれが見たくなる。

「セックスだけが目的じゃない。
でも俺はお前だからこそ抱きたいと思う、だから名前が俺と同じ気持ちなのが嬉しいんだよ」

「···本当に?···その···引いてない?」

名前は何を言っているのだろうか。
愛して止まない恋人にお誘いを受けて引く男がいると思っているのだろうか?
そりゃあ稀にそんな奴もいるかもしれない。
だが俺は圧倒的に嬉しく思うタイプの人間だ。

「引くわけねぇだろ。俺が喜んでるの、お前なら分かるだろ?」

そう言って唇を軽く吸い付くキスをすれば名前は目を潤ませた。
そんな名前の反応に俺の身体は昂るばかりだ。

「···なんで、私、こんなんじゃなかったのに」

名前にとって俺は初めての恋人だった。
俺はそういう訳ではないが正直今まであまり真剣に恋愛というものに向き合った事はなかった。

好きだと言われて許容範囲であればなんとなく交際を始めそれなりの事をして、そんな感覚だったからこそ連絡を取ることすら存在になれば女は直ぐに俺に愛想を尽かせて消えていった。

それが褒められた事ではないという事を理解していないわけではないが当時の俺は余裕がなくただ自分のストレス解消の為に自分に好意を向ける異性を利用していた。

「お前は何もおかしくない。
おかしくなったのだとしたらそれは全部俺のせいだからお前は何も気にしなくていいんだ」

名前は性的な事に関してはふわっとした知識しかなかった。
異性への耐性も殆ど持ち合わせていなかった。
時間をかけて半ば言いくるめる形で口説き落として交際に発展した後も手を繋ぐだけでも恥ずかしがって抱き締めると身体を硬直させていた。
そんな名前がついに口にしたのだ、その言葉を、その望みを。

「違う、トーマスを悪者にしたいわけじゃ······ごめん、なさい···」

俺は底意地が悪い事を自覚している。
なのに名前はどんなに俺にイジメられたとしても俺を傷付けたかもしれない、なんて考えて反論してしまったことに謝ってしまうのだ。
そんな名前を見ていればやり過ぎてはいけないという気持ちを抱きつつも逆にそれにつけ込んで更にイジメてしまいたくなる自分もいる。

「怒ってねぇから謝るな。言っただろ?俺は嬉しかったからもう一度聞きたい、ただそれだけなんだ」

自慰もしたことがなかった名前を初めて抱いた日、かなり負担をかけたと思う。
出来る限り優しくしたいと思っていたことは嘘偽りのない事実だ。
それでも俺はことを進めていくうちに余裕なんてすっかりなくしてしまっていた。

早く名前の中に入りたくて、一つになりたくて、丁寧に解してはいたつもりだ。
それでも中のあまりの狭さにその日は最後までする事は諦めていた。
何日かかけてしっかりと解してその行為が名前にとって恐ろしいものにならないようにしようと思っていた。

それでもその意思は簡単に打ち砕かれてしまったのだ、名前のたった一言で。


「····トーマスは、そんなに嬉しいの?」

「ああ、嬉しい。今もかなりヤバい」


硬く主張したソレを名前のソコの押し付けた。
お互い服を着てはいるが身に付けているものは薄手のパジャマだ。
ソレがどんな風になっているのか名前にもはっきり伝わっただろう。

名前と付き合い初めてから俺はとにかく言葉でも行動でも名前に対する好意をぶつけた。
過度な俺のスキンシップに照れながらも拒まずなんとか慣れようと必死な名前は健気で可愛いらしかった。

初めて名前の方から手を握ってきた時びっしょりとその手が汗で濡れていた事に思わず笑えばすぐに名前もそれに気が付いて慌てて離そうとした手を力強く握って離すことをさせなかった。
それに慌てふためいていた名前を俺はきっと一生忘れない。


「·······」

「····名前、俺は名前の全てを愛している」


初めて中を触られて思うように緊張が解けずに身体を硬直させていたあの時、それでも名前は俺を拒もうとしなかった。
その日はもうやめておこう、そう思って名前の中から指を引き抜こうとしたその時名前は俺の腕を掴んで止めないで、と首を横に振ったのだ。

焦らなくていい、と空いた方の手で名前の頭を撫でると名前は涙を浮かべて初めてそう口にしたのだ、ただ一言、好き、と。

俺はその言葉一つで理性が消し飛んでしまった。
挿れている俺ですら痛いくらいだった。
濡れてはいたものの名前は明らかに苦痛に顔を歪めていた。
それでも俺の身体に抱き付いて離れようとしない名前にどうしようもなく興奮したのだ。


「······えっ、ち、したい····」


それからやっとここまで来たのだ。
俺を拒むことはなかった。
それでも名前と重なるきっかけはいつも俺がその意思を伝えた時だった。
それが今日初めて破られたのだ。
名前の口から俺とシたいと思わせる、伝えられる所まで来たのだ。
最愛の恋人に初めて求められてそれに興奮しない男が世界に何人いるというのだろうか。


「ん···ありがとうな。俺も名前を抱きたくてしかたない」


俺の下にいた名前を思い切り抱き締めてそのまま横にぐるりと転がって名前を俺の上に乗せた。
名前は改めて口にした言葉と自分が俺の上に乗っかっているということが恥ずかしいようで耳まで赤くして身をよじろいだ。

勿論俺は逃がす気なんてない。
全身で名前を感じたかったからこそその体勢をとったのだ。


「好きだよ、お前が、名前。

愛している、ずっと、ずっと触れていたい、お前が同じでいてくれたならっていつだって願ってる」

「······私も、トーマスのこと、す、好き···だから······その、え、えっちも、したい···」


録音でもしておきたいくらいだ。
盗聴器でカメラでも、なんでもいいか仕掛けておけばよかった。
なんてことを本気で考えてしまう程俺は名前に狂っていた。
その狂気に俺自身が恐怖して背中に汗を伝わせた。


「ちゃんと言ってくれてありがとうな、今日はいつも以上に気持ちよくしてやれるように頑張るからな」


照れながらも期待を含んだ目を俺に向けながら名前は俺の言葉に首を縦に振った。
こんな可愛い恋人に狂わない男はいるのだろうか。

きっとそんな男は心底その女に惚れていないのだろう。
だから俺は至ってまともだ。

これからも何も気にせずに名前を愛でていけばいい。

取り敢えずは名前の事をもっと知る為にもいつでも名前の姿が見られるようにカメラを取り付けよう。
風呂にも使うから防水性のあるものを選らばなければならないだろう。