モテすぎる恋人

私は今選択を迫られている。
その日はこの時期とは思えない程暖かく天気も良かった。
デート日和だな、なんて気持ちも軽やかに身なりを整えて家を出た。
買ったばかりのヒールは値が張ったこともあり履き心地がとても良い。
今まで買ったものの中で一番かもしれない。

待ち合わせ場所はカフェだった。
それはトーマスが時間丁度に着けるかどうか分からないから、という理由からだ。
店内に足を踏み入れぐるりと見渡してみたがやはりまだ来ていないようだ。

カウンターで飲み物を注文して外からでも分かりやすい席に座った。
スマホを取り出し今日はどこで食事をとろうか、なんて考えながら近くの店を検索しながら先程注文した飲み物を一口飲んだ。
この時期限定の桜フレーバーのラテは私には甘すぎた。

トーマスは何が食べたいのだろうかと思案しながら複数候補のお店をお気に入りに入れていく。
お店なんて二人で相談して決めればいいのだがトーマスの意見を聞くとどうしても単価が高い店になってしまうのだ。
彼にとってはそうではないのだろう。
勿論そんな時トーマスは奢ってくれる。
というより出させてもらったことがない。
だからせめて少しでも負担がないお店を選びたいのだ。

「あ····」

どうしようかと一度スマホの画面から顔を上げたその時、外にトーマスの姿を捉えた。
数人の女の子に囲まれている彼の姿を。

トーマスの方はまだ私に気付いていない。
身に付けている黒のトレンチコートは彼のスタイルの良さを引き立てている。

「(ここで私が割り込んでいくってのも、余計拗れそうなんだよね)」

トーマスの腕に女の子は腕を絡ませた。
トーマスは笑顔を貼り付けてはいるがそれに嫌悪感を抱いていることは私にはわかった。

「(とは言ってもやっぱりトーマスってモテるんだなぁ)」

どこか他人事のように目の前の光景を見ている私は冷たいのだろうか?
これが逆だったなら、トーマスの方から女の子に触れてにやついていたとしたら今すぐ店を出て飲みかけのラテを彼にぶっかけてぶん殴っていたかもしれない。

今回はあきらかにトーマスの方が絡まれているだけだしトーマスも職業柄ぞんざいな態度を取れないのだということは理解している。
まぁ面白くないものではないと言えば嘘になるのだが。

何れにせよ今の状況でトーマスと合流することは難しいだろうと判断して私は先程注文したラテを飲み干した。
LINEを開いて彼にメッセージを送信した。

店を出てその場を後にして暫くしたところで私の腕が誰かに掴まれた。
相手は確認するまでもない。

「トーマス、早かったね」

「ったく、見てたの、かよっ」

走ってきたらしく呼吸が乱れている。
髪も軽くぼさついてしまっていたので手櫛で整えてあげた。

「やっぱりモテるんだね、トーマスって」

「···まぁ否定はしねぇが、さっきのは別にそういうんじゃねぇよ」

否定しないところがらしいだなんて言ったらトーマスは怒るだろうか。
彼もこういう仕事をしているのだ。
自身が人からどう見られているかなんて理解しているのだろう。

「ま、いっか。早く行こう」

「いや····なぁ、本当にいいのか?」

トーマスはなんとも言えない顔でこちらを見つめる。
私は笑って頷いた。

「取り敢えずお腹すいたから適当に買っておいたから、ね?」

トーマスの背中を軽くトンっと叩いてそれを促した。
トーマスはしぶしぶといった感じで歩き始めた。
今日の行き先は先程私が決めた。








「久しぶりだね、こういう所」

私達は最低限の家具が設置されているビジネスホテルの一室にいた。
電子レンジも設置されているので先程テイクアウトした食事を温める。
その間にケトルでお湯を沸かしお茶の用意を始めた。

「···悪かったな、折角の····だったのに」

「別に予定が決まっていたわけじゃないし別にいいじゃない」

温め終わった食事を机に運んでカップにお茶のパックを入れてお湯を注いだ。
今日はインスタントで堪えてもらう。

「なぁ、お前は、その···ああいう場面を見てもなんとも思わないのか?」

「嫉妬しないのかって話?」

トーマスは頷いた後居心地悪そうに私から目線を逸らした。
おそらく悪い事をしたという感情とヤキモチを妬いてほしいという感情で内心複雑なのだろう。

「まぁモテる事は知っているし、女の子の気持ちも分かるし。
でもトーマスにそんな気はないでしょう?」

「ま、まぁそれはそうなんだが···」

私の言葉に照れたようでトーマスの顔が少しだけ朱みを帯びた。

「でも逆だったら、トーマスが女の子を口説いてるところをみたら一生許さないよ。
二度と使えないようにトーマスの大切なところ再起不能にしてあげる」

トーマスは私の言葉に顔を青くしてそんなことは絶対にしないと首を横に振った。
少し脅かしすぎたようだ。

「信じてるから大丈夫だよ。
後で可愛がってあげるから、ね?」

トーマスは私の言葉を聞いて反射的にそこを守るように手で覆っていた。
その手に私の手を重ねれば面白い程彼の肩がびくついたのは面白かった。

「冷めちゃうから食べよう?」

「あ、ああ····」

別にあの後あの場を離れて何処かに出掛けても良かった。
だが遠出するというのであればもっと早くから出掛けたいと思ったのだ。
そもそも場所はそれほど重要ではない。
トーマスと二人になれることが重要なのだ。

「私ここのお弁当昼休みにたまに食べるんだ。
手作りのお弁当屋さんなんだけどね、副菜も全部手作りでお気に入りなの」

「そうだな···確かに美味い」

トーマスは普段からもっと美味しいものを食べているとは思う。
それでも私と同じ気持ちであると思っている。

「トーマスと食べているから普段よりずっと美味しく感じるよ」

「···でも俺は名前が作ってくれる飯が一番美味いと思う」

こういうことをさらっと言ってくれるところが好きだ。
その癖妙なところで照れるところも、全部可愛い。
トーマスに絡んでいた女の子達は王子様のようなトーマスしか知らないのだ。
それに少し優越感を感じてしまうのは私の性格が悪いのだろうか?

「ご飯食べたらどうしたい?」

「······あー····そりゃあ、まぁ····」

トーマスは言いづらそうに一瞬ちらりとベッドに視線を向けた。
今更照れる必要なんてないと思うのだが、まあそれも彼の可愛いところだ。

「うん、えっちしようね」

「ぶっ!?お、お前、なぁっ!」

トーマスは顔を真っ赤に染めて私にじとりとした視線を寄越した。
今はこんな反応をするくせにいざことが始まればあっという間に男になってしまうのだ。

「今日は私も頑張るからね」

「えっ···は、え?」

トーマスは今どんな事を想像したのだろうか。
折角だから後で聞いてみよう。
今日は思う存分トーマスを甘やかしたい気分になったのだ。

空になったプラスチックの容器を二人分まとめて袋に入れゴミ箱に放り込んだ。
お茶をゆっくりと飲んだ。
トーマスは何やら落ち着かないようでそわそわとしているように見える。

彼の手に再びそっと私の手を重ねると先程程ではないが再び肩がびくりと跳ねた。
私を見つめる目はもう熱を帯始めている。

お茶を飲み終えたらたっぷりと甘やかしてあげるからもう少しだけ待ってね、心の中でそう囁いて笑みを浮かべゆっくりと喉を潤した。