足を舐めさせて

「お前は本当に俺の事が好きなのか」

自宅に帰り既に私の部屋に来ていたトーマスが私に不満を抱いた視線を向ける。
久々に会った恋人が開口一番に口にしたなんの脈絡のない言葉に仕事で疲れてわりと余裕がなかった私は眉間にシワが寄せる。

「そういう所がだよ!」

トーマスは私をさらに恨めしそうに睨み付ける。
一体私が何をしたと言うのだろうか。
まぁ大方の予想はついている。
おそらくこれは彼が拗ねているのだ。
1ヶ月程彼を放置してしまったから。

だが会えなかった原因はお互い様だ。
お互いの仕事の休みが合わなくかった。
学生ならともかく社会人としてはよくある話だ。
だが彼が怒っている理由に一つ心当たりがある。
一度仕事だと聞いていた日に友人と食事に行った。
その時空き時間に外に出たトーマスとたまたま遭遇したのだ。


「俺がいながら俺以外の男と随分仲良くしてやがったな」

「貴方だって見たでしょう、もう一人友達がいたの」

因みにその友人は女の子だ。
更に言えばその子ともう一人の友人は付き合っている。
私達は所謂幼なじみというやつで二人が付き合いはじめてからも私とは良い友人でいてくれている。

「トーマスにも紹介したでしょう、それとも何。
貴方は私が親友の恋人に手を出す女とでも言うの?」

「俺はお前が俺以外の男に触られるのが気にいらねぇんだよ」

嫉妬深いとは思っていたが最近は少々度が過ぎる気がする。
以前トーマスといる時凌牙君を見つけ彼に挨拶をしただけで機嫌を悪くされた事がある。

「それにしたって私の親友であるカップルやトーマスにとって大切なお友達の凌牙君にまで嫉妬する必要がある?」

「俺はお前が凌牙の名前を呼ぶことすら気に入らねぇよ」

そろを聞いて正気なのかともろに顔がひきつってしまう。
そんな私を見てトーマスはさらに機嫌を悪くする。

「俺はこんなにお前が好きなのにいつも一方通行だ。
なぜ俺の言うことを理解してくれない」

「···理解って、つまりもう私とは別れたいってこと?」

トーマスは私の言葉に大きく目を見開いた。
そして迫力がありすぎる目で私を睨み付けたあとじわりと目を潤ませた。
また面倒なことになってしまったとため息をもらせば彼の目からぶわっと涙が溢れてしまう。

「なんでお前はそんなに簡単に!わ、っ····なんて言えるんだよ!?」

ただの単語に過ぎないのに。
彼は別れの言葉を口にすることは出来なかった。
面倒なことになったと思いながら靴を脱いで部屋に上がった。
私は帰って靴を脱ぐこともさせてもらえずに責めたてられていたのだ。

彼の横を素通りしてドカッとソファーに腰を降ろせば彼は私を見下ろした。
忌々しい目を向けられているのは分かっているのでもう私は彼の顔を見ようとはしなかった。

折角久しぶり会えた恋人に執拗に責められて、これでは仕事の疲れも癒されない。
イライラとした気持ちのまま肘おきに肘をついて顔を伏せて再びため息をつけばトーマスはドタバタと私の前に座り私の膝に顔を押し付けた。

「っ絶対に別れない!!俺は一生お前から離れないからな!!?」

トーマスはぎゅうぎゅうと脹ら脛に抱き付いた。
やはり彼はどうにもおかしい。
彼が何も出来ず誰にも見向きされない人だったのならまだ分かる。
だが彼はそれとは真逆の人間だ。

器用でなんでもやればそれなりにこなしてしまう、スターとしてファンも多い、そしてかなりの収入を得ている。
見た目もいいので異性に迫られたことも数えきれない。

「俺が悪かったからっ、嫌なところ全部直すから、嫌わないで···!」

それにも関わらず時々異常に自尊心が低い。
私相手に驚くほど卑屈になる時がある。

彼は必死の形相でそう言いながら私の靴下を脱がせた。
そして私の足を人より少し長い舌で舐めはじめてしまったのだ。
1日歩きまわった私の足はそれなりに嫌な匂いがするだろうに、彼は指の間まで丹念に舐めていく。

「なんでそうなるの」

言っておくが私にこんなことをさせる趣味はない。
寧ろ普通に引いている。
彼にとって許しを乞う行動の一番上がこれなのだろうか。

「名前が愛してくれないならもう生きてる意味がないから、俺を殺さないで」

今度はそう言って私の足首を持って自身の頭に押し付けた。
他人が見れば土下座したトーマスの頭を私が踏みつけているように見えるだろう。
彼の中で一体私はどんな風に見えているのだろうか。

「私は別れたいなんて言っていないでしょう。
ただ行き過ぎた嫉妬を向けられても私には私の生活があるから対応しきれないと言っているだけよ」

足を引っ込めようとするも強い力で掴まれていてそれが出来ない。
私にそんな趣味はない、だからこそこの行為に意味なんてないのに。

「俺だって苦しい、けど、自分でもわからねぇんだよ!
名前の事考えると、自分でも意味がわかんねぇくらいおかしくなっちまう···っ」

トーマスが足を離そうとしないので私はの私の足を掴んでいる彼の手を撫でた。
そうしてやれば彼の手の力が少し緩んだので手首を掴んで力ずくで引っ張り上げた。
トーマスは踏ん張る事が出来ずに倒れこみそになったのでその身体を抱き止めてあげた。
こんな時彼が華奢で良かったと心から思った。

「もう分かったから、あんなことしなくていいから」

落ち着かせようと彼の身体を抱きしめて背中をトントンと叩いた。
トーマスは私にぎゅーっと抱き付いている。
妊娠もしていないのにもう子供を育てている感覚だ。

「まぁ、出来るだけ譲歩はするけど。
完全には無理だけど私にとって特別な異性はトーマスだけだからね」

よしよしと頭も撫でてやればその分私を抱きしめる腕に力がこめられる。
いくら華奢とはいえ直接的な力でいえば勝ち目がない異性の彼のこうされるのはやっぱり厳しい。
それでももういい加減泣き止んでほしかったのでそれを言葉にはしなかった。

「名前···好き······」

ようやくぐずることをやめて顔をあげたトーマスの目に涙はなかった。
それでもその目は赤く充血してしまっているが。
それを慰めるように瞼に唇を寄せれば頬を赤く染めた。
少し迷ってトーマスは私にキスをしようと顔を近付けた。


「いや、一度うがいしてきてくれる?」


私の言葉にトーマスはあからさまにショックを受けた顔をした。
そしてまたじわりと目に涙を溜めるもよたよたと洗面所に向かった。

がらがらとうがいをしている音が聞こえる。
空気を読まないわけではないのだが何度も言うが私にそんな趣味はない。
自身の足を舐め回した後の彼と何も気にせずキスを出来ない程には冷静なのだ。

数分もしないうちにうがいのついでに顔も洗ったらしいトーマスが戻ってきた。
前髪が濡れている。

「おいで」

両手を広げてそう声をかけるとトーマスは再び私に抱き付いて勢いのままに唇を押し付けた。

今度は私も黙って受け止めた。

「名前···すき···」

角度を変えながら何度も何度も行われたそれが終わったのは一体どれくらい時間が経った頃だろうか。

それがキスだけで済まなくなった事は言うまでもないから分かる筈がないのだからそれを私がきちんと把握出来ている筈がないのだ。