世界の危機に興味はない

「この前読んだ漫画の話なんだけどな」

十代が唐突にそんな話を始めた。
その時頭の中に浮かんだのは十代がデュエル以外興味があったんだなという事だ。

「少年漫画なんだけど最終決戦の前に主人公がヒロインとセックスすんの」

十代もただのお年頃の少年だったという事が分かった。
いや、普通の男の子は性的な事に興味は示していてもそれを異性に堂々と話す事はしないだろうからやはり十代はちょっとおかしいのだと思う。

「なんかな、セックスすることで龍と契約をしてスゲー力を手に入れんだよ」

相槌も打たない私の事なんてお構い無しに十代は続ける。
一体何が言いたいのだろうか。

「名前ならどうする?」

十代が私に意見を求めた。
それが何を指しているのかはわからない。
黙ったままでいる私に言葉を補足した。

「俺が絶対負けられないデュエルに挑む時何かとんでもない力か手に入るとしたら俺とセックスする?」

なんともくだらない質問だろうか。
なんの意味も持たない薄っぺらな議論にため息を吐きそうになった。
それを我慢した所で顔には出ていたらしい、十代は肩をすくめた。

「名前は世界がどうなろうと関係ないよな」

確かに十代の言う通りだ。
この学園に入学してからと言うもの、おかしな現象、普通ではない事態に散々迷惑を被ってきた。
それでも私はそれに対してなんの抵抗も見せなかった。
友人がおかしな行動をとるようになってもとくに気にはならなかった。
命の危険を伴う訳でもなかったからだ。

十代の友人はそうでもなかったが。
何度も人質に取られ命の危機に陥ったようだ。
私もそれがなかった訳ではない。
それでもわたしは焦る事はなかった。
その理由は先程十代が私にしたくだらない問いの答えだと思う。

「セックスしなきゃ勝てないならデュエルなんてしなくていいじゃない」

十代は私の答えになんとも言えない顔をする。

「お前そんなに俺とすんの嫌なのかよ」

拗ねたような表情を見せる。
少ない言葉で十代が私の本心を察する事など出来る筈はないのだ。

「そんな事で負けてしまう遊城十代とセックスなんてする価値があるとでも?」

私は冷たい女だと思う。
それでも私はその時仮に世界が滅ぼうが自分が消え去ろうがそれはさして興味がないのだ。
私にとって重要な事は他人の力なんてあてにしない圧倒的な強さだ。

「敗北を恐れる貴方になんの価値もない。」

十代にとって重要な存在になどなりたくはない。
私の力が必要になんてなってほしくない。
私なんていてもいなくてもどちらでも構わない、十代にとってそう在りたいのだ。

「俺は負けたらなんの価値もないってことか?」

私を見る目がエドにだってカイザーにだって負けているのに、ならなぜ自分といる?と問いかけてくる。

やはりあの程度の言葉では十代は何も気付かない、当然だろう。

「敗北する未来を想定して私を抱こうとする貴方を受け入れられないのよ」

力を得たい、当然だろう。
だけれど私にそんなものをすがるなど論外だ。
常に相手を射殺す程の熱をもってそれに挑んでほしいのだ。
そこに私の入る余地など与えないでほしい。

「勝利を心に強く願い、結果負けた貴方に抱かれる事の方がよっぽど価値がある」

十代は考える仕草をした後こう続けた。

「負けた瞬間世界が滅ぶとしてもか?」

そう言った十代よ目が揺らいだ。
私はそれを見て口角が上がった。

「十代が抗う事が出来なかった世界なんて滅んでも構わないじゃない」

私の言葉に十代は驚いた表情を見せ、それはやがて呆れたような顔に変わった。

「お前ってほんと何考えてんのかわかんねぇよ」

十代はそう言ってもたれ掛かるように私の肩に頭を乗せた。
馬鹿な男だと思う。

「くだらない事言ってないでセックスしたいなら普通に誘えって事よ」

どうしてこんな回りくどい事を言ったのかはわからない。
多分まだまだこの学園にいる限りは妙な事件が起こるのだろうと予想は出来てしまう。
だから不安もあるのかもしれない。
でも私は漫画のヒロインのように十代の力になる事なんて出来ないのだ。
出来ないものに責任なんて持てない。
仮にセックスで力を与えたとしよう、しかしそこに保証は一つもない。

ならはそんか安心を与える事よりも一時的に快楽を与える者になる方がずっと良い。

「ねぇ、したいんでしょう?」

十代はこちらを見て目を泳がせる。
そうさせるのはほんの僅かな罪悪感だろう。
でも結局十代は私を抱いたのだ。

それはたどたどしくぎこちないものだったけれどきっと世界の危機なんてものがかかったくだらないセックスよりずっと価値があったと思う。

私にとって世界の滅亡を恐れて世界中の人間の為に利用され抱かれるよりもずっと、ただ欲に駆られて求められる事の方が嬉しかったのだ。