短い秋を慈しむ

ついこの間まで半袖に短パンで更にクーラーまで付けていたというのに。
1日予定のない休日、換気の為窓を開けゆっくりと自宅で寛いでいた。
夕方になる頃にはぶるりと寒気を感じ私は部屋の窓を閉めた。
カーテンを閉める前に見た空は夕焼けで赤く染まり始めていた。

「どうしようかな」

心地よい程度の空腹感にそろそろ夕食の準備を始めようと冷蔵庫を開けた。
あるのは常備野菜に今日が賞味期限の鶏肉、冷凍室にブロッコリー。
少し思案して今日の献立が決まった。

玉ねぎの皮を向きざっくりとくし切りに、にんじんとじゃがいもの皮を向きこちらは火が早く通るように小さめに、最後に鶏肉を一口サイズにカットして準備は完了。

鍋にバターをひとかけ、火を入れる。
溶けた頃玉ねぎを入れ焦げつかないように木べらでかけ混ぜながら火を通す。
透明になった頃白ワインを少々。
そこに鶏肉を加え焦げ目がつかない程度に火を通す。
表面がうっすらと色ついた頃じゃがいもとにんじん、小麦粉と塩胡椒を加え具材を大きくかき混ぜながら具材に小麦粉を馴染ませた。
そんな時。

[ピンポーン]

インターホンの音が鳴った。
今日届く荷物の予定などない筈だ。
この時間に友人が訪ねてくることはまずない。
そうなると大体訪問者の予想はついた。

「はい」

『名前、俺』

インターホンの受話器から聞こえた声はやはり予想通りの人物だった。
ちょっと待って、と断って受話器を置いてコンロの火を止めた。

玄関先に向い鍵を開け扉を開ける。
この前会ったのは冬の終わりだった気がする。
久しぶりだというのに彼は至って普段通り、まるで昨日も会っていたかのように。

「十代が来るのっていつもご飯時だよね」

「別に狙ってるわけじゃないんだけどな」

玄関先で話していても仕方ない、彼に早く部屋に上がるように促し自室に上げた。
お邪魔しまーすと一言、見慣れたブーツを脱ぎ勝手知ったる我が家に上がる。

私に言われるまでもなく洗面で手を洗い着ていた上着を洗濯機に入れた。
以前はこちらが言うまでそんな事をしなかったのに口うるさい私に慣れたのだろうか、いつからか私が言うまでもなくそのようにするようになった。

「もうご飯作り始めてるから全く違うものは無理だけどクリームシチューだから今ならカレーに変更も出来るけど?」

「いや、シチューの予定だったんだろ?俺多分卒業してから一回も食ってねぇから久々に食べたい」

男の子ならカレーの方が好ましいのではないかと思い一応確認を取ったその必要はないと言うので予定通りシチューを作ることに。
再び鍋を火にかけ先ほど加えた小麦粉の粉っぽさがなくなったところで水を加えた。

「へぇ〜、シチューってそうやって作るんだな」

「簡単なやり方だけどね。あとは野菜に火が通ったら牛乳とコンソメとブロッコリー入れて軽く煮込んだら完成」

火が通りにくい野菜も今日は小さめに切った。
10分も煮込めば十分に柔らかくなるだろう。

「取り敢えずもう少しかかるからどーぞ」

「お、サンキュー」

冷蔵庫に入れていた麦茶をコップにそそいで彼に差し出した。
彼が受け取ったあともう一つコップを取り出してお茶をそそぎ喉に流しこんだ。

「あ、ごめん、今日シチューだけどパンが無いからご飯なんだけど十代ってシチューとご飯って大丈夫な人?」

「そう言われてみれば食ったことないけど大丈夫だろ!」

こういう時好き嫌いのない人で助かったと思う。
私はシチューにはご飯でもパンでもいける口だが気持ち悪いと言う友人もいたし世間的にはおそらく否定派が多い。
下手をすればお好み焼きとご飯以上にいるかもしれない。

「わりと合うんだよ。牛乳粥とかもね、好きだから私は好き」

「へぇー、それも俺食ったことないな。でも美味いなら俺にも食わせてくれよ」

「次来る時にね」

そんな話をしている間に鍋で煮込まれた野菜は十分柔らかくなった。
それを確認して牛乳、コンソメ、ブロッコリーを入れぐるぐるとお玉でかき混ぜコトコトと数分。

スプーンで一口味見をして少し塩胡椒を追加してもう一度一口、こんなもんだろうと納得して火を止めた。

「シチューとご飯だけだけどまぁ食べて。
物足りなかったらあとで外行こ」

「十分だって!いつも悪いな」

まぁ本音を言えば事前に連絡をもらえればもっと色々と用意出来たのだけれど、という気持ちはある。
でも多分それを言ったところで連絡を寄越してくるのは今から行く、程度。
おそらくギリギリの連絡になるだろう。
そこはおそらくこれからも変わらない。

「じゃあいただきます」

「いただきます!」

器に大盛りに盛られたシチュー。
1人であればカレーのようにご飯と一皿に盛ってしまうのだが初めてこの食べ合わせをする彼に気を使って深さのある器にたっぷりとシチューを盛りご飯はお茶碗に入れた。
ブロッコリーの緑とにんじんのオレンジをのぞけば真っ白な献立、なんとも味気なく見える。

「へぇー、美味いじゃん!米だと腹も膨れるし有りだな!」

「良かった。万丈目君には気持ち悪いって言われたけどね」

そもそも彼はにんじんが嫌いなのでシチュー自体あまり好きではないかもしれないけれど。

「え、万丈目も名前のシチュー食ったことあるのか?」

「ううん、たまたまシチューの話になった時に話したらすっごい嫌な顔されただけ」

そっか、と納得した彼はほっとしたような顔をしてスプーンを口に運ぶ。
この反応らヤキモチを妬いてくれた、ということだろうなと気付いて心がじわじわと暖かくなった。
露骨に態度に出すような人ではない、それを物足りない、不安を抱くこともあるだろう。
だがそれを承知の上で付き合っている。
そうなのだがそれで十分だと常に思っていられるほど強くはない。
どんなにほったらかしにされていても合間に見せる私への好意が嬉しくて満足してしまう私はきっと都合の良い女なのだと思う。

「世話になりっぱなしも悪いから後名前の好きなアイス買いに行こうぜ、当然俺の奢り」

「ありがとう、楽しみにしてる」

もう寒くなったというのに、そんな気持ちはあった。
それでも先ほどまで感じていた寒気はもう感じなくなっていて。
これはシチューが温かかっただけではないと思う。
きっともっと、そう、きっと彼はそれよりずっと暖かい。

これからどんどん寒くなる。
でも今日の日の暖かさ、それを覚えていればきっと乗り切れる筈。

貴方と一緒にシチューを食べた秋。

そんな至って平凡な日を私はずっと忘れないのだろう。