「こんなのっていいんだろうか」
「...何の話だ?」
意図せず零れた言葉に彼はそう訊ねて指先で私の頬をむにっと摘んだ。
けして強くつねられたわけではないので勿論痛みなど感じていない。
ベッドで二人、下着一枚すら身に着けずに布団にくるまって戯れ合って。
「健全じゃないよね、って」
「健全?」
彼は何を言っているのか分からない、といった顔で私の頬を撫でている。
むにむにとまるで猫やハムスターにするように。
「この歳でお互い想いあってる男と女がいてなにもありませんって方が寧ろ不健全だと思うけどな」
「...まぁ世のカップルみんながそうじゃないんだろうけど」
彼の言い分も確かに間違ってはいない。
だがそれも状況によると思う。
私たちはいつもより遅い朝に目を覚ました。
昨晩はいわゆるお楽しみの夜を過ごした、それもあっての寝坊。
今日何か予定を立ていたわけではない。
お互い仕事もない。
2人揃って布団からなかなか出る気にならず自然とスキンシップをとっていた。
そんなことをしていたのだ。
彼の言う健全な男女がその後どうなったか、そんなこと言うまでもない。
「もう夕方だよ」
「ああ、そういやそろそろ腹が限界かもしれねぇなぁ」
彼がそう言ったすぐ後に彼ではなく私のお腹が鳴った。
それを聞いて彼は笑いながら私のお腹を撫でた。
「...そりゃ私だっていい加減限界だよ」
「分かってるって。取り敢えず一回シャワー浴びて飯食いに行くか」
なんでも奢ってやる、そう言って私の額にキスをして頭を撫でた。
「別にいいのに」
「なんだよ、こういうのって健全なデートってやつだろ?」
ベッドから起き上がった彼はぐぐぐっと伸びをした後首が凝ったのか数回頭を左右に揺らした。
昨日は私に腕枕をしていたのだ、きっと肩も凝っているのだろう。
「無理しなくていいんだよ」
私も起き上がり彼の肩をぐいぐいと揉んだ。
やはり凝っているようだ。
「した方が抱きやすいんだよ」
彼はいつも私を抱きしめて眠る。
普段はどちらかというと体温の低い彼も眠っている間は体温が少し上がる。
私はいつもそれを確認してから眠りについている。
自分を抱きしめて眠る彼が見たいからだ。
「名前だってその方が嬉しいんだろ?」
「...まぁそりゃあ、ね」
特別神経質で寝つきが悪かったり暑がりでもわけでもなければ好きな人に抱かれて眠る事が嫌いな人はそういないだろう。
確かに嬉しい、でもあまり無理をされても困るのも本音だ。
「たまには私がするからあまり無理はしないでね」
「へぇ、別に無理なんてしてるつもりはねぇがそれも悪くねぇな」
彼はそう言って私を抱きしめた。
私は彼の肩を労わるように撫でた。
すべすべの肌は手触りが良い。
「先にシャワー浴びろよ」
「珍しい、一緒にって言わないんだ」
普段は何も許可を取ることもなくお風呂にいけば着いてくるのに今日は珍しい言葉をかけられた。
不思議に思ってそれを訊ねれば彼は視線を逸らしてこう答えた。
「最近たかが外れてるから今一緒に入ったらまた手出しそうだから」
「...ごめん、さすがにお腹減り過ぎて血糖値下がってるからご飯行こ」
分かってる、そう答えたところで彼のお腹も先ほどの私と同じように悲鳴をあげた。
私より細いのではないかと思う程細い腰、私以上に早く何か食べないとまずい気がする。
「すぐ済ませるからちょっとだけ待っててね」
「別に急がなくていいから食べたいもん考えとけよ」
そう言われて浴室に向かい少し熱いくらいのシャワーを浴びる。
何が食べたいだろうかと考え最初に浮かんだものは有名だがデートと呼ぶにはどうなのかと物議を呼びそうなファミリー向け某中華チェーン店。
きっと私が行きたいと言えば彼はそんなものでいいのか?と呆れるだろう。
でも私の希望を尊重し付き合ってくれるだろう。
それでもあまり難色を示すようなら無理に付き合わせる必要もないから時点を考えよう。
だって2人で食べられるならきっと本当はなんでもいい筈だから。