「お待たせしました」
練習を終え約束通り図書室で時間を潰してした彼女迎えに向かう。
室内に入り本を読んでいた彼女に声をかければそれはもう嬉しそうな顔で振り返った。
すぐ支度するから、と言って彼女は鞄を肩にかけ図書室のカウンターに向かう。
読みかけの本を借りる手続きをしているようだ。
すぐにそれを終えそれじゃあ帰ろう、と僕の手を握った彼女は本当に幸せそうで。
「はい」
彼女にそんな顔をさせているのが僕なのだという事実に幸せを噛み締めていた。
人がいない廊下は静まり返っていて2人分の足音が妙に大きく響いて聞こえた。
今日の部活は正直集中力が少し足りていなかった。
目に見えてと言う程ではないけれどカントクにはそれがバレていて笑顔で練習量を倍にされてしまいました。
大好きなバスケに集中出来なかった理由はただ一つ。
昼休み彼女の放った刺激が強すぎる言葉のせい。
「何も考えずに誘っちゃったけどテツヤ君のおうちは遅くなるの大丈夫だった?」
「部活で、って言ってありますし彼女を送るので少し遅くなると言ってありますから」
正直気にするのであればそこではない、と言いたくなったがそれはやめておきました。
だって今更そこではい、じゃあやめます、と言われたところで。
僕はもう色々と限界でしたし。
「何もない家だけど上がって」
鍵を開ける彼女の後ろで隣の家をちらりと見た。
彼女の家は角にあったので隣は一軒のみ。
きっとここが彼女の幼馴染の家なのだろう。
正直嫉妬に狂いそうだった。
こんなにも近くに気の知れた同い年と男がいるだなんて。
「テツヤ君?」
僕がそんなことを考えているなんてきっと彼女は気付いていない。
どうしたの、という顔で僕の名前を呼んだ。
責めるつもりはないけれど正直そんな彼女の無頓着さに少しイラついてしまう。
でもそれは僕の勝手な嫉妬心のせいだと分かっていたので言葉にはしなかった。
「いえ、お邪魔します」
彼女の家に僕が入ると彼女は自宅の鍵をかけた。
防犯的なことを思えば当然の行為。
それでもすっかりのぼせてしまっている僕にとってはそんなことさえ興奮の材料になってしまっていた。
「っ、テ、」
いつもであれば絶対にこんな風にはしないのに。
外部と切り離された事で僕は我慢が限界を迎えまだ靴も脱いでいない状態で彼女にキスをした。
驚いてもぞもぞと動く彼女の背と腰を逃げられぬよう強く抱いて。
学校では出来ないような深いキスに彼女は驚きながらも強く拒む様子はない。
動揺しながらも僕を受け入れようとしてくれているのが分かる。
「好きです、本当に。名前さんが思っているよりずっと貴方のこと大好きなんです」
だから拒まないでください、そんな言葉を含ませて。
僕自身自分がこんな風になってしまうことを想像していなかった。
彼女を好きになって初めて自分がこんなに嫉妬深い人間なのだと言う事を知った。
「っテツ、ヤ君...私だって、テツや君が思ってるよりずっと...」
そんな彼女にもう僕のそれは完全に熱を持ってしまっていた。
それは密着している彼女にもきっとバレているだろう。
明らかに腰が引けているのを僕は強引に抱き寄せて逃げられぬようにしているのだから。
「あっ、あの、テツヤ君!...しゃ、シャワーだけ、あ、浴びたい、です」
「一緒に入ってもいいのなら」
普段からこんな事を言わないのに今日の僕はどうかしていた。
彼女は僕の言葉に顔を真っ赤に染めていたけれど少し迷って首を縦に振った。
正直今そんな余裕はなく今すぐここで彼女を押し倒して抱いてしまいたかった。
けれど僕は丁寧に汗をふきケアをしたとはいえ部活終わり。
彼女の為にも一度シャワーを浴びたかった。
下着も全て取り払ってきた彼女の肌にシャワーのお湯が跳ねるのを見た時堪らず僕は彼女の胸元に舌を這わせた。
驚いて声をあげた彼女の声が浴室に響いた。
それが楽しくてもっと、と思ったところで力強くそれを彼女に拒まれた。
「せ、背中洗ってあげるから!」
あっち向いて、とスポンジを手にこちらを睨む彼女。
そこに迫力はなくただただ可愛いものだったけれど僕は大人しく彼女の言う事を聞くことにした。
スポンジを持つ彼女の指先が時折触れて、ただ背を洗われているだけだというのに今の僕にとってそんなことすら欲情の材料となっていた。
「折角だからもっと洗ってください」
そう言って彼女腕を引っ張って自身の胸元に抱き付かせる形で引き寄せた。
背中には彼女の柔らかな身体が触れている。
小さな唸り声をあげながらも彼女は僕のお願いを聞いて身体を洗っていく。
ひと通り洗い終えた後で今度は僕が、と言ったところで浴室を追い出されてしまい鍵までかけられた。
「た、タオルそこにあるの使ってもらっていいから!ちょっとだけ待ってて!」
すりガラスの向こうで彼女はそう言った。
照れる彼女が可愛くて仕方ない。
今日はこれ以上はやめておこうと諦めつつも次は絶対にやめないと決心しながらバスタオルで身体を拭いていく。
ひとしきり拭き終えたところで浴室のドアが開いて彼女が恥ずかしそうに顔を出した。
「早く来ないと風邪ひいちゃいますよ」
僕はそう言って彼女の手を掴んで浴室から引っ張り出して彼女の身体をタオルで包んで出来る限り優しく拭いた。
自分でやると僕からタオルを奪おうとする彼女を無視して最後まできちんと拭いたのは先ほど鍵を閉められた仕返し。
彼女は恥ずかしがりながらも途中から諦めて僕のされるがままになっていた。
どうせ今から全部脱ぐことになるのだから、とシャワーを浴びる前に脱いだ2人分の服を手に持ってタオルだけを身に纏った状態で彼女の部屋に入った。
彼女の部屋に上がるのはこれが初めてだった。
そういうことになる時は僕の部屋だったから。
綺麗に整えられたシーツは洗ったばかりのように思えた。
柔軟剤だろうか、自身が使っている寝具とは違う匂いがした。
「すみません、分かってると思いますけど僕今日は全然余裕がないです」
彼女をベッド追いやってそこに彼女が腰を落としたところをそのまま押し倒し覆い被さった。
彼女は少し動揺しながらも僕から視線を逸さなかった。
「本当に大好きなんです。好きすぎてどうしようもないくらいおかしくなるくらい」
彼女の額に自身の額をぴたりとくっつけてそう言葉にすれば彼女は僕の首に腕を回した。
キスしてほしい、そうお願いされているようなそんな顔をして。
再び唇を合わせれば今度は彼女も自ら僕を求めた。
舌を絡ませれば彼女は僕の舌を吸った。
それが嬉しくて幸せでずっとこうしていたいと思った。
「テツヤ君、私の方が絶対テツヤ君のこと、好きだから...」
それは甘い甘い時間。
隙間なんてないってくらいぴったりとくっ付いて。
彼女と深く交わった。
「送らなくて大丈夫?」
互いを求め合って愛し合った時間にもタイムリミットがある。
さすがにこの状況で彼女の父親に合うのはあまりに心象が悪いであろうことは分かっている。
心残りはあるけど僕は身支度を整え彼女の家を出た。
「大丈夫です。外ももう暗いですしその後1人で帰らせることになったら僕が安心出来ませんし」
玄関の外で僕を心配する彼女にそう伝えれば彼女は分かった、と一言。
「それではお邪魔しました。名前さん、また明日」
「...うん、また明日、ね」
寂しそうな彼女を見て思わず僕は彼女を抱きしめてしまう。
ここは室内ではなく彼女の家の前だというのに。
身体が勝手に動いてしまった。
そんな時だった。
隣の家のドアが開く音がしたのは。
僕は動けぬまま視線だけをそちらに移した。
『お幸せそうで』
ドアを開けたのは彼女の幼馴染だった。
彼は面白いものを見たと言わんばかりの顔をしてこちらを見て笑って再びドアを閉じた。
自身の胸の中にいる彼女を見れば再び彼女は頬を赤く染めていた。
これが意識している男にではなく家族に見られた気恥ずかしさに近い物だということはなんとなくは分かっているが僕はやっぱりそれが面白くない。
「...おやすみなさい」
だから外でするつもりは無かったけれど僕はそんな嫉妬心を隠す為に彼女にもう一度キスをした。
そんな僕の行動に彼女は先ほどベッドで見せていた表情をするものだから僕はそうしたことを後悔した。
あんなに愛し合った後だとういうのにすぐにでもまた欲情しそうな事に気がついた僕は足早に彼女の家を後にした。
本当に僕は彼女の事を好きすぎると実感しながら夜の道をかけていく。
そして改めて実感する。
僕はきっと彼女の幼馴染の彼のことを好きにはなれないだろう、と。
end