11番

「本当にこんな事で良かったんですか?」

「十分です、ほんとにありがとう!」

少し前、彼女と約束していた当日ちょっとしたトラブルに見合われてしまったことで予定の取り止めをお願いすることになってしまった。
彼女は仕方ないとすんなり許してくれはしたけれど僕自身彼女との約束が中止になってしまった事は悲しかったし本当は彼女も、というのと分かっていたので後日何かお詫びを、という提案をした。
彼女はそんなこといいから、と言ってくれたけれど僕がそれでは気がすまなかったので少々強引に話を勧めればそれじゃあ、と彼女はしぶしぶお詫びにしてほしい事を教えてくれた。

そのお願いを聞いてから2週間以上経って僕はやっとそれに応える事が出来た。

正直彼女の望んだお詫びがお詫びになっているのかはわからない。
でも今目の前の彼女は目を輝かせてとても嬉しそうな顔をしている。
だからきっと僕に遠慮したわけでもなく本心からこれを望んでいたのだろうと思った。

「写真撮ってもいい?」

「まぁ、はい。別にいいですけど」

彼女のお願いとは僕に試合のユニフォームを着て欲しいということだった。
そんなの何度も見ているのになぜそんなことを?と疑問を抱きながらも彼女が望んでいるなら、とそれを実行した。

「試合の時は近くで見れないから。
うん、やっぱりユニフォームを着てる姿が1番好き。かっこいい」

彼女はそんな事を話しながら携帯のカメラでパシャパシャと数枚写真を撮った。

「あの、どうせなら一緒に撮りませんか。
僕だけ撮られるのってちょっと恥ずかしいです」

彼女にそう伝えれば慌てて鞄から鏡を取り出し前髪を手櫛で整え始めた。
顔を左右に振って確認したあと鏡を置いて僕の隣に並んで携帯のカメラをインカメラにして構えた。

「じゃあ撮るね」

「はい、お願いします」

そうして撮られた写真をすぐにチェックしている彼女は笑いそうになるのを我慢しているように見えた。
別に我慢なんてする必要はないのに、と思いながらも敢えてそれを指摘することはしなかった。

けれどそんな彼女が可愛くて僕も自身の携帯を取り出し彼女に向けてシャッターを押した。
そのシャッター音に彼女はびくりとして勢いよくこちらを向いた。

「すみません、可愛かったので」

何か言われる前にそう伝えれば彼女は顔を真っ赤に染めた。
それも可愛かったのでもう一度、とも思ったけれどやりすぎても良くないだろうと思い自重した。
今日はあくまで彼女へのお詫びの機会を設けた日、ということもある。

「さっきの写真僕にも送ってくださいね」

「う、うん、勿論!」

彼女は僕にそう言われるとすぐに携帯を操作して僕に2人で撮った写真を送ってくれた。
それを確認してお礼を伝え写真を保存した。

「他には何かしてほしいことってないですか?」

彼女が喜んでいるとはいえただユニフォームを着ただけだなんてなんだか申し訳なくて僕は再度彼女に訊ねた。
彼女は悩むそぶりをした後遠慮がちに口を開いた。

「ぎゅって、してもいい?今」

「え、はい。勿論構いませんけど」

今更どうしてそんな事に確認をとったのかは分からないけれど僕は大丈夫だと伝えれば彼女は遠慮がちに僕に抱きついた。
普段からこの程度のコミュニケーションはとっていたというのになぜ今更、と考えながらも僕も彼女を抱きしめた。
彼女は額を僕の肩に押し付けた。

「...ユニフォームを着たテツヤ君にね、こう、...なんていうか、その、...ずっとこうしたくて、気持ちが抑えられなくて、ね」

試合前に余計な気を散らすようなことがあっては駄目だって分かってたから勿論言うつもりなんてなかったけれど、と彼女は続けた。
大好きなバスケをバスケが大好きなチームメイトとする時に着るユニフォーム姿が1番好きだと言う彼女の言葉は嬉しかった。
どうして彼女はこんなに僕の事を好きでいてくれるんだろうという疑問も多少あった。
理由はともあれ僕としては嬉しい限りではあるのだけれど。

「テツヤ君...」

ユニフォームは胸元がわりと開いている。
彼女が愛しそうに僕の名を呼べば彼女の吐息が僕の鎖骨あたりにかかって胸がざわついた。
背中に回された手が僕のユニフォームをぎゅっと掴んで、なんだから妙な気分になってしまった。

「ごめん、ありがとう。嬉しかった」

そう言って彼女は僕から身体を離した。
僕から逸らされた目はいつもと違う、けれどもう何度も見たそれを含んでいて。

「待ってください。名前さん、本当はもっとあるんじゃないですか?」

逃げられないよう彼女の両頬を手のひらで包んでこちらをむかせれば彼女は目を泳がせた。
じっと視線を向ければ彼女の顔は再び朱みを帯びていく。

「僕は正直に言ってくれた方が嬉しいです。
別に怒ったりしないので言ってください」

怖がらせたりしないよう出来る限り柔らかい声色を出したつもりだ。
彼女は僕のその言葉に少しの間ぎゅっと目を瞑った後ゆっくりと瞼を開き僕を見た。

「...もっと、い、いちゃいちゃ...したいです...」

消えいりそうな程小さく囁かれた言葉、そう言って彼女は僕の肩に顔を埋めてしまった。
髪の間から覗く耳は赤くなっていて、彼女が今どんな顔をしているかなんて容易に想像出来た。

別にそんな癖があるわけではないけれどこういう反応をみてしまえば少々加虐心に近い気持ちが湧いてくるのをぐっと堪えた。

「はい、勿論いいんですよ」

そう言って額に唇を押し当てれば彼女はゆっくりと顔を上げた。
可愛いと、ただそう思って今度は彼女唇にキスをした。

もうその頃には僕もすっかりスイッチが入ってしまっていて今更やめろと言われたところできっとやめられないんだろうな、と。

それはきっとお互いに言えることだろう。
















「名前さんはさっきどうしてあんなに言葉を詰まらせていたんですか?」

僕は疑問に思っていた事を訊ねベッドでぐったりとしている彼女の頭を撫でた。
彼女は少し躊躇しながらも遠慮がちに教えてくれた。

「テツヤ君にとってバスケがどれほど特別なものだって、私なりに一応分かってるつもりだったから。それを汚すようで、...ごめんなさい」

「ああ、なるほど。確かに僕はバスケが大好きです。当たり前に僕を認めてくれてチームメイトとして一緒に頑張れる仲間がいることを本当に感謝しています。
でもそれに負けないくらい僕は名前さんにも感謝しているんですよ」

彼女の言いたいことはよく分かった。
そしてそれを嬉しくも思う。
確かに不謹慎と言えば不謹慎だろう。
みんなが必死で努力してそれを発揮する舞台で着るユニフォーム、それは神聖なものと言えるだろう。

けれどそれを分かっている彼女だ。
言ってしまえば事が始まればすぐに脱いでしまったのだから、なんて言うのは野暮かもしれないけれど。
それとも彼女はずっと着たままの方が良かったのだろうか。
僕としては何より彼女の肌に沢山触れていたいからこそ早々に脱いでしまったのだけれど。

「こんなことで嫌いになったりなんてしませんから。
大丈夫です。大好きですよ、名前さんのこと」

「テツヤ君...」

彼女をしっかりと抱きしめれば同じように彼女も僕に抱きついた。
可愛いなと思いながら彼女の背をトントンと優しく叩いた。

「私も、私はテツヤ君よりテツヤ君のこともっと好き...」

「...分かってます。嬉しいです...」

互いが互いを想って伝えて、きっととても良い雰囲気なのだらうということは分かっている。

けれど悲しいことに僕は健全な男子高校生で、大好きな人と肌をぴったりと合わせて抱き合ってこんな事を言われてしまえば再び熱を篭らせてしまう。

「...すみま、せん」

隠しようがない欲に僕は彼女に謝った。
だがその謝罪は見苦しいことに対しての謝罪ではない。
我慢がきかないということに対する謝罪だ。
でもそれに対して彼女は何も言わず僕の唇に自身の唇を寄せた。

これが彼女の答えだ。

今日は彼女に対してお詫びの為に設けた場だった。
けれどそれは結局のところ僕にとってただご褒美のようになってしまった。


end