独占欲

「あの、テ、テツヤ、君?」

彼の貴重な部活休みの日、私たちはプールに遊びにきた。
更衣室で水着に着替えて外に出たところで彼に遭遇した。
彼は一度私の事を上から下まで見た後すぐに手を取り私の腕を掴んで早口で歩き出した。
私は転びそうにながらも彼に着いていく。
人影がない場所まで連れていかれたところで立ち止まり壁に私を追いやり彼は自身が着ていたパーカーを脱いでそれを私に押し付けた。

「着てください」

「え」

「早く着てください!」

強引に押し付けられたパーカーを取り敢えず受け取った。
それは水着のような素材ではない、薄手のパーカー。

「いや、でも今からプール入るし。後で借りるよ」

「駄目です、着てください」

彼は頑なに私にそれを着せようとする。
私は自分の身体に視線を落とす。
それ程見苦しく見えたのだろうか、と考えて少し落ち込んだ。

でもプールに入ってしまえばそれ程目立つものではないしせっかくだから遊びたいというのが本音。

「...着なくちゃ駄目?」

「はい、着てください」

有無を言わさない、そんな態度で彼はこちらを睨んでいる。
なぜここまで頑なな態度なのか、それを少し理不尽に思ってもう一度口を開く。

「暑いしプール入りたいんだけど」

「...そうですか、わかりました。
分かっていただけないのでしたらこちらも手段を選びません」

両手を掴まられたのことでびっくりしてぱさりと音を立てて地面にパーカーが落ちた。
そして掴まれた手を壁に押し付けられる。
顔を近づけられた、まさかここでキスをされるのかと驚いて顔を逸らせば想定外の事が起こった。

「っいっっ!?」

彼が私の肩に噛み付いたのだ。
血が出たのではないかと思うほど強く。
ぎりぎりと歯が食い込んだ後今度は胸元に唇が移動して今度はそこを強く吸った。

「っ、テツヤ君っ!、こ、こんなところでっ!」

その後も彼は場所を変え、痛いくらいの強さで吸い付いた。
抵抗しようにも全力で押さえつけられているのか動か事ができず、私はただただ人が来ないことを祈るしかなかった。

彼はゆっくりと顔を上げて私の手を解放した。
そして落ちたパーカーを私に羽織らせてこう言った。

「ちゃんと着ないと跡、見えちゃいますよ」

いくつも付けられた赤い跡、肩に付いた歯形。
普段の優しい彼とはまるで別人のように笑う彼に私は腰が抜けそうになった。
そしてふらついたところを彼に支えられた。

「最初から素直に着てくれていたら僕だってこんなことしなかったんですよ」

顎をくいっと上げられ視線を合わせたところで唇を塞がれた。
ゆっくりと離れる唇。

再び繋がる視線。

「良い子にしてくれますか?」

「......はい」

反抗する気力もなくなった私は力無く頷いてパーカーに袖を通した。
そして彼にファスナーをしっかりと上まで上げられる。

「まぁこれはこれで、って思うところもあるんですけど取り敢えずこれで良しとします。
帰るまで脱いじゃ駄目ですからね」

「......」

彼は声にもならず頷いた私に満足そうな表情を浮かべた。
いつもの優しい優しい彼の顔。
こんな場所でなんてことをするのだと不満な気持ちもあるというのに、惚れた弱みと言うのはタチが悪い。

彼がパーカーを着せた理由も理解した。
だからこそ許してしまう、こんなに乱暴な手を取った彼を。

「良い子にしてしたら後でアイス買ってあげますから」

アイス一つで私の機嫌が取れると思っているのか?と少々不満な気持ちを抱いてしまうけれどそれもあながち間違っていないのだろうなと分かっている。

「...ハーゲンでいいなら」

「はい、いいですよ」

私の言った可愛げのない台詞を彼は笑顔で受け止める。
私はきっとこの人には絶対に勝てないのだろうと予感した。

「ああ、大事なこと伝え忘れてました。
その水着とてもよく似合ってるいます。
だから2人きりの時にしっかりと見せてくださいね」

「...なんかえっちな言い方」

「何を言っているんですか、だからそんな貴方を他人に見せたくなくてそれを着せたんです。
貴方の格好が、ですよ」

だとしたらここにいる女の子の大半の人はえっちな姿を晒していることになってしまうのではないかと思ったけれどそれを彼に伝えることはしなかった。
多分彼に言葉で勝てないということは分かっている。

きっと今日は満足がいくまで遊ぶことは出来ないだろう。
それでも彼にとても大事にされている、それに気付けただけで良しとしよう、そう自分に言い聞かせた。


end