妬かれる

それは穏やかな午後のことだった。
お昼ご飯を食べながら楽しく談笑していた、そんな時。
原因となったのな私の失言だった。

「黄瀬君ってあのめちゃくちゃかっこいい人だっけ?」

彼との会話の中で出てきた中学時代の仲間の話。
私は彼らと直接会話をしたことがない。
だからうろ覚え、大した意味はない。
ただ特徴として覚えていた外見だけの情報をそのまま口にした事で先ほどまで穏やかな顔をしていた彼の顔から表情が消えた。

「あ、あの...テツヤ君?」

「なんですか」

私から基本的に私と話をしている時視線を逸らすことはない。
無表情であるからこそ今はそれが少し怖い。

「...私、な、なにか不手際を...?」

「...分かりませんか?」

私の言葉に彼は眉間に皺を寄せる。
何も答えない私に彼はため息をついた。

「正直おもしろくないです。
...黄瀬君は確かに男の僕からみても整った顔をしていると思います。モデルをやっているくらいですし、女性にも凄くモテます。
でもだからと言って彼をかっこいい、なんて。
名前さんの口から聞きたくなかったです」

じとりとこちらを責めるような視線に私は言葉を詰まらせる。
彼はそんな私の額に手を近づけそこにデコピンをしした。

「心が狭いということは分かっていますよ。
一般的に考えて僕より彼の方が整った顔をしていると思います。
でも貴方いつも僕のこと世界一かっこいいとか、そういうことしょっちゅう言ってるじゃないですか」

「あ、いや、あの、それは本心でして...」

額をさすりながら彼にそう言えばまたため息をつかれた。

「貴方がそういうことを言うのは僕だけでいいんです。
そうでないとなんだか貴方の言葉が軽く聞こえます。」

彼は席を立ちレシートを手に取った。

「出ますよ。この後の予定は中止です」

すたすたとレジに向かう彼を慌てて追いかけた。
こちらが財布を出す隙も与えずに彼はお会計を済ませ外に出た。

折角のデートだというのに彼を怒らせてしまったことで今日は解散になってしまうのは悲しすぎると思って引き止める為に彼の背中に抱きついた。

「ご、ごめんなさい!本当にその、特別な意味はなくて!ほんと、ましてや比べてるわけではなかったの...!
...我儘かもしれないけれど折角久しぶりに会えたし、私まだテツヤ君と一緒にいたいよ...」

外だというのに力いっぱい抱き付いて彼にそう伝えれば彼は本日3度目のため息をついて私を引き剥がしてそのまま手を握った。

「...予定を中止とは言いましたが解散するとは言っていません」

「え...」

彼はにこりと、普段であれば優しい、可愛らしい筈の顔をした。
でも今はその顔を見て背中に嫌な汗がつたう。

「僕の家に行きます。分かっているとは思いますが名前さんに拒否権はありませんから」

逃がさないとがっちりと絡められた指。
有無を言わさず彼は歩き始めた。

「あ、あの...ほんとすみませんでした...」

「もういいです。今から責任とってもらいますから」

彼が家で何をしようとしているかなんて容易に想像が出来た。
顔を青くする私を見て彼は笑う。

「名前さんにとってイイことでもあるんですから。
それで僕の機嫌がとれるんですから良かったですね、僕が貴方のこと大好きで」

「...は、はい...」

彼の言葉に明日の私はまともに動くことが出来るのだろうかと不安を抱いた。
でも確かに彼が嫉妬深いということを知っていたというのにデリカシーがない事を言ってしまったという罪悪感もある。
彼の事を1番かっこいいと思っている事は事実、でもテレビや映画に出ている俳優さんを見てもかっこいいと思う事は当然ある。
だからそんな感覚だった。
でも私にとってはそうであっても彼にとっては黄瀬君はモデルではなくとても近い位置にいた仲間だったのだ。
だからこんなに妬かせてしまったのだろう。

「名前さんは僕の事だけ見てればいいんです」

照れる様子もなくそんな言葉を口にする彼に顔が熱くなる。
本当に敵わない、改めてそれを思い知らされた。

「家に帰るまでそんな顔しないでください。
僕は我慢強い方ではありませんので」

それならばもうそういう事をやめてほしい、そう思ったけれどそれを口にすることはしなかった。
もう今は多分何をしても逆効果だと分かっていたから。

今後は言葉には最新の注意を払おう、そう強く決意した。


end