止められない

「大丈夫ですか?」

「うん…ありがとう」

ベッドの上、乱れた身なりを整え一息。
彼女を気遣うように優しく頭を撫でれば彼女は心地良さそうに目を瞑った。

「すみません...結局いつも...」

恋人同士になり初めて身体を重ねた日。
あれから数ヶ月、部活の休みが殆どない僕のせいで彼女とゆっくり時間が取れる日は殆どない。
寂しい思いをさせてしまっている自覚はある。
だからこそ彼女と過ごせる時間は大切に、そうしたいと思っているのに。

「我慢がきかなくて...」

彼女を抱きしめた。大切に大切に。
会える日は毎回彼女と身体を重ねてしまう。
こういうことがしたいだけで付き合っているわけではない筈なのに。
2人きりになって彼女を抱きしめたらもう我慢が出来なくて。

「こんなつもりじゃなかったんです」

そうならないようにどこかに出掛けても結局は彼女を独り占めしたくなって、2人きりになりたくて。
そしていつもこうなってしまう。

「...嫌いにならないでください」

このままでは愛想を尽かされてしまうのではないかと不安になって彼女を抱きしめる腕に力が入る。
彼女は僕の手に自身の手をそっと重ねた。

「嫌いになんてなるわけないよ」

だから安心して、と彼女は今度は僕の頭を撫でた。
先程の僕と同じように。

「...ただこういうことがしたいだけ、なんて思ってないよ」

まるで子供をあやすように僕の背に腕を回してよしよしと背中をさすられた。
周りに規格外に大きい人が多い僕は時折子供扱いするを受けて不快に思う時がある。
それでも今彼女にそうされることに腹は立たない。
寧ろ嬉しいくらいだ。

「テツヤ君が私のこと好きって気持ち、その、いつもね、凄く伝わってきてるから」

だから別にいやじゃないですよ、と。
そう言って僕の頬にキスをした。

「...どうせならこっちがいいです」

物足りないと言わんばかりに今度は僕が彼女にキスをした。
勿論唇に。
先程まであんなことを言っておいて、本当に反省しているのかと自身を恥じた。
けれどつい、つい口から出てしまったのだ。

「...そういうところ大好きだよ」

彼女は僕の肩に顔を埋めてそう言った。
彼女の挙動一つ一つが全て愛しくて。
本当におかしくなりそうだと思った。

「あの、...実は来週練習試合があるんです」

「そうなんだね。頑張って、応援してるからね」

僕の背中を撫でながらそう言ってくれた彼女。
こういうやりとりは何度かある。
練習試合でも、公式試合でも。
彼女はいつもこうだ。
なんというか、普通恋人であれば応援に行くね、とか。
そういう流れになるものではないのだろうかと疑問に思う。
もしかしたら彼女はバスケをしている僕に興味がないのかもしれない、と考えて少し寂しく感じた。

それは僕からバスケを取ったら何も残らない、そう自負していたからこそだ。

唯一自分なりに自信を持ってやっているバスケ。
取り除いてしまえば何も残らない、ただ影が薄いだけの、そんな僕を彼女は一体なぜ好きでいてくれるのだろうか。

「あの、...良かったら応援に来てもらえませんか?」

僕の方からそれをお願いしたのは初めてだった。
彼女は顔を上げ僕を見て困ったような表情をした。
僕の予想が当たっていたのだろうか、あるいは彼女と会う時間が取れない原因のバスケが嫌いになってしまったのだろうかと考えて胸がズキンと痛んだ。

「...嫌ですか?」

「...嫌っていうのとはちょっと違うんだけど、ね...?」

彼女は再び僕の肩に顔を伏せてぎゅっと僕に抱きついた。
僕は少し落ち込みながらも静かに彼女の言葉を待った。

「...実はね、一度観たことあるの。テツヤ君と付き合う前に」

「え、そうだったんですか?」

彼女から聞いた初めての事実に驚いた。
彼女は顔を伏せたまま話を続ける。

「びっくりしたの。...びっくりするくらいかっこよくて、...その時テツヤ君のこと好きになったの」

最後は消え入りそうな声で彼女はそう言った。
彼女の告白は僕にとって嬉しいもので、けれどそれならどうして試合に来たくないのだろうか。
疑問はすぐに解決した、彼女の言葉によって。

「その、元々、こんな言い方なんだけどそもそも顔が凄く好みで...同じクラスになってからずっと気にはなってたの。だからこっそり観に行ったんだけど、ね?」

「...はい」

「そしたらもうなんか色々駄目で...だからまたそんなの観たら今よりずっと好きになっちゃいそうで、ほんとおかしくなりそうだから...」

想定外の彼女の告白。
僕の心臓の鼓動が大きくなった。

「...名前さん、顔、上げてください」

「...」

彼女は少し躊躇しながらも素直に顔を上げた。
顔を耳まで、朱く染めて。

「お願いします、応援に来てください。
もっと僕のこと好きになってください」

彼女を再びベッドに押し倒して顔を両手で包んでキスをした。
彼女はびくりと一度身体を跳ねさせたが抵抗することなくそれを受け入れた。

「可愛すぎです。ずるいです、そんな...」

たまらなくなって何度も何度もキスをすれば先ほど落ち着いた筈の熱が再び燃え上がる。

「すみません、文句は後で聞きます。
してほしいことがあったらなんでもします」

僕を見上げる彼女。
見下ろす僕。

「だからもう一度だけ、お願いします」

整えたその服の中に再び手を忍び込ませながらそう言った。
そんな僕を彼女は拒むことなく静かに受け入れた。

「こんな僕を嫌わないでください」

彼女は優しく微笑んで僕の背に腕を回した。


end