覚悟しておいて

部員のみんなが筋トレに励む中雑務をこなしていた時足にふわふわとしたなにかが触れた。
予測はついている。
そちらに視線を向ければこちらを見つめる可愛い子。

「わー2号もユニフォームもらってるの?」

誠凛高校バスケ部のユニフォームを着た2号は自慢げな顔でこちらに向かって元気よくワンと鳴いた。
抱き上げれば身体をすりすりと擦り付けた。

「かっこいいね2号」

そんな2号を抱きしめてよしよしと撫でると尻尾を振って喜んだ。
犬という生き物は本当にこういうところが可愛い。

「ユニフォーム姿のみんなって普段よりかっこよく見えるのよね」

ね?と2号に話しかければこちらにむかって首を傾げる。
まっすぐこちらを見つめる2号、表情こそ違えど彼にそっくりだ。
そんなことを考えていたその時。

「それって僕も含まれますか?」

「うわっ!!?」

肩をトン、と叩かれ声をかけられた。
後ろを振り向けばそこには黒子君、1号がいた。

「あ、び、びっくりした、ごめん黒子君」

「いえ、驚かせてしまってすみません」

部内でもそこまで彼の気配に気付かない方ではない。
けれど今日は完全に死角から現れた、そんな彼に気付かず大きな声を出してしまった。
驚かれることに慣れている彼はそれに傷付くような態度を見せる事はなかったけれど以前『名字さんは僕のことよく見えているんですね』と彼に言われた時彼がほんの少し嬉しそうな顔をしていたように見えたので少し申し訳なくなった。
もっともそれも私の勘違いなのかもしれないけれど。

「黒子くん、おはよう」

「はい、おはようございます。2号もおはようございます」

黒子君は私と2号に挨拶をして2号の頭を撫でた。
2号は再び尻尾を振りもぞもぞと身じろいだので彼の元へ行きたいのかと思い2号に訊ねた。

「黒子君がいい?」

2号は元気よく鳴いたので彼に2号を差し出した。
黒子君は2号を抱き頭を撫でる。
するとやはり2号は嬉しそうにパタパタと尾を振った。

「やっぱり黒子君といるのが1番嬉しいんだろね」

「そうですかね、でも名字さんの事も大好きだと思いますよ」

あくまでも2号が、ということは重々承知している。
でも黒子君からの大好きに少しどきりとして気恥ずかしい気持ちになった。
私はそれを誤魔化す為に2号をわしゃわしゃと撫でた。

「そ、そうかな?私も大好きだよ2号ー!」

2号は先程と同様尾を振りながらこちらを見て目を細めたあとまた身体をバタバタと身じろいだ。

「だっこ飽きましたか?」

黒子君はそう訊ねて2号を地面に降ろせば2号は元気よく周囲を駆け回ったあと背伸びをしてごろんと寝転がった。
そんな2号を見て目を細めた黒子を見てつくづく2号は良い人に拾われたんだなと思った。

「それでさっきの話ですが」

「え?なんだっけ?」

黒子君はこちらをじっと見た。
なんの話だったっけ、と首を傾げた私に一瞬むくれたような顔をした。

「かっこいいに僕も含まれますかって話です」

「あ、ああ、その話か」

気付かなくてごめんと謝れば彼は大丈夫です、と言ってすぐに許してくれた。

「勿論黒子君の事も含まれてるよ」

寧ろユニフォームを着て1番変わるのは黒子君だと思う、と心の中で呟いて彼の言葉に同意すれば彼はなぜか少し不満げな表情を見せた。

「だったら2号みたいにちゃんと僕にも言ってくれませんか?」

「え、あ、はい?...黒子君かっこいい、ね?」

「あと2号にしたように僕の事も撫でてください」

「…こ、こう?」

彼に言われるがままに下げられた頭を優しく撫でれば彼は嬉しそうな顔をした。
本当に2号のように、彼に尻尾が生えていたら同じように尻尾を振っていたのだろうかと考えた。

「2号が羨ましいです」

「...どうして?」

彼の頭を撫でていた私の手をとって彼は自身の頬に引き寄せた。
初めて触れた彼の母は肌荒れなんて少しもないすべすべとした肌をしていた。

「...こうして名字さんに可愛がってもらえるんですから」

「っ、く、くろ、こ...君...!?」

黒子君は私に抱きついた。
そしてそのまますりすりと肩に顔を擦り付けた。
まるで先程の2号のように。
当然そんなことを黒子君に、男の子にされたのは初めてだったので私は驚いて身じらいだけれど黒子君は私の腰にぎゅうっと抱きついたまま離れようとしない。

「く、黒子君ど、どうしたの?あ、甘えたくなっちゃった?」

予想外の彼の行動に心臓の鼓動が早く大きくなっていく。
ぴったりとくっついている彼にそれが伝わりそうで気恥ずかしさが増してますますそれを増幅させる。

「はい、1号のことも甘やかしてほしいです」

照れる様子もなくそう言った彼は相変わらず離れようとする気配がない。
おそるおそる彼の頭を撫でれば黒子君は大きく鼻で息を吸った。
あきらかに私の匂いを嗅いでいる、まるで犬のように。
さすがに羞恥心が限界を迎え彼をぐいぐいと押せばようやく黒子君は私を解放した。

「...く、黒子君、...一体どうしたの?」

「だから言ってるじゃないですか。2号が羨ましいって。
僕も名字さんのこと大好きなのに」

黒子君は表情ひとつ変えずにそんなことを口にした。
恋愛経験なんてないに等しい私は男の子にそんな事を言われたことなんて初めての事で再び動揺した私の顔は一気に熱を持った。

「...本当に気付いてなかったんですか?
僕結構あからさまにアピールしてたつもりだったんですけど」

「え、し、知らないよ!」

「火神君や他のみんなには気付かれてましたよ」

そう言ってむくれる黒子君。
やはりとても可愛く見えて胸がきゅんとした。
これは所謂母性本能というものなのだろうか、と考えた。

「...まぁいいですけど、そういうことなんで」

黒子君は私の手を取ってそのまま手の甲を自身の口元へと近づけた。

「こんなもんじゃ駄目だって分かりましたのでこれからはもっと全力でいきますから、覚悟してくださいね」

そのまま手にキスをした。
まるで少女漫画に出てくる男の子のような事をする黒子君に頭が真っ白になった。

集合の声がかかりその場を後にした黒子くん。
残された私と2号。
2号はその場でしゃがみ込んでしまった私の側に嬉しそうに駆け寄ってきて先程彼にキスをされた手の甲に頭を押し付けた。
そんな2号をもう一度抱いて顔を埋めた。

これからどんな顔をして彼と話せばいいのか、そんなことを考えながら。


end