オオカミ

「...さん...名前さん起きてください」

ぬくぬくと眠るなか優しく声をかけられる。
私を起こそうとしているはずなのにその声のあまりの心地良さが逆に子守唄でも聴かされているかのように錯覚してしまいなかなか目が開けられない。

「時間ですよ、起きてください」

彼はそう言って私にぎゅっと抱きついた。
暖かい体温、その温もりは逆効果でますます眠気を誘う。
いっそずっとこうしていてほしいと思いながら目を開けられずにいたその時。

「起きないなら襲っちゃいますよ」

彼のその言葉で反射的に目が開いた。
そしてこちらをじっと見る彼と目が合った。

「...僕に襲われるのそんなに嫌ですか?
なんだか複雑なんですけど」

彼は不服そうな顔でそう言った。

「い、いやそういうわけじゃなくて...こう、なんか条件反射的な...?」

私の回答に彼は納得出来ない、という顔でこちらを見つめる。
私は気まずくなって視線を逸らした。
彼は力いっぱいぎゅうっと私に抱きついて胸に顔を埋めた。

「そもそもいつも名前さんなんやかんや言いながらいざ始めたら僕の事求めまくるくせにどうしてそうやって嫌なフリなんてするんですか」

「ちょっ、あ、あの、...勘弁してください」

彼のあまりにも露骨な言い分が恥ずかしくて機嫌を取る、というよりその場を誤魔化すように彼の頭をくしゃくしゃと撫でればこちらをじろりと睨んだ。
上目遣いになっている彼のむくれた顔は正直可愛かった。

「あと前から思っていたんですけどそういうときいつも僕からばかりで一度も名前さんから誘ってもらったことないんですけど」

「え、いや、その...」

続いて出てきた彼の不満にそもそもこちらがそういう気分になる前にいつも彼の方から、と言いかけてそれを我慢した。
それを正直に伝えてしまえばきっと彼はもっとむくれてしまうことがわかっているからだ。
彼が言いたいことはそういう事じゃない。

「本当は僕とえっちするの嫌ですか?」

「えっ...いや、そんなことは全然、ないけど...」

普段はえっちなんて、そんな事言わないのに。
どうしてここまで彼のスイッチが入ってしまったのだろうか。
どうしたものかと思いながら額にキスをすれば彼は更にムッとした顔をした。

「そんなんじゃ今日は誤魔化されてあげませんよ」

彼はそう言って私の服の胸元を引っ張り胸元を強く吸った。
何度も何度も場所を変えて、ちくちくと小さな痛みが走る。

「誤魔化そうとなんてしてないよ!」

痛みなんてたいしたものではないけれどそれ以上に彼の髪がくすぐったくてやめさせようと肩を押すがびくともしなかった。

「〜ごめん!本当にそんなんじゃないからっ!あ!ちょっ、」

彼の手がするりと服の中に入ってそのまま下着のホックを外した。
背中を一撫でしたあとその手は脇腹を通って胸まで辿りついた。

「凄くドキドキしてますけどこれってどっちの意味ですか?」

胸をむにむにと揉みながら彼はそう訊ねた。
彼にされるのであればこのくらい別に構わないのだけれど今の彼は意地悪なスイッチが入っている。
このまま流されてしまえば今日は沢山恥ずかしいことをさせられてしまうだろう。

「テツヤ君にこんなことされたらそりゃあドキドキしちゃうよ!」

「つまりもっとしてほしいって事ですか?」

自分に都合のいい解釈をした彼は私の服を捲り上げられてぱくりと先端を口に含んだ。
舌でちろちろと撫でるように刺激して吸って。
完全にそういうことが始まろうとしていた。

「っ...テツヤ、くん!私今日は帰らないといけないからっ!」

「まだもう少し大丈夫ですよね」

彼は先端を強く吸ってちゅぱっと音を立てて顔を上げた。
もう既に彼の硬くなったものが身体に触れている。

「僕名前さんに誘ってほしいです。
僕とえっちしたいです、くらいでいいので」

くらいで、なんて。
彼は一体他にどんな文言を想像しているのだろうか。
こちらを期待して見る目はギラギラとしていて、今の彼はすごく男の顔をしていた。

早くしろと言わんばかりにねちっこいキスをしながら腰を撫でる。

もう今日は逃げられないのだと悟った。

「…テツヤ君とえっち、したい、です...」

「もう一度僕の目を見て言ってください」

彼の希望通りちゃんと言ったにも関わらずおかわりを要求されてしまった。
これでも羞恥心を押し隠して言ったというのに、彼はとても楽しそうな顔でこちらを見ている。
このままでは何度もこういったことを要求されかねないと悟った私は覚悟を決めた。
もうこうなればヤケだ。

「テツヤ君とえっちしたいです。いっぱい触っていっぱい気持ちよくしてください!」

彼は私の口にした言葉に目を見開いた。
けれどそれはすぐに笑みへと変わる。

「はい、いっぱいします。
あの、今の台詞もう一回言ってもらえませんか?
録音したいです」

そう言って携帯に手を伸ばそうとした彼の手を掴んで止めた。
そんなものを録音されるなんて絶対に嫌だしそれを許してしまったら写真や動画撮影まで始めてしまいそうだったから。

「言わないし録音もいやだしそんなことするならしない!」

そう言って布団を引き寄せ頭までくるまった。

「え、あの、じょ、冗談ですから!だから続きしましょう、ね!?」

彼は慌てて否定しだがどう考えてもさっきのは本気だった。
そんな目をしていた。
私をゆすって布団を引き剥がそうとする彼に必死に抵抗してみたけれど力で敵う筈もなく布団は剥ぎ取られてしまった。

「...変なこともうしませんから、続きしたいです」

しゅんとした顔で私にそう言う彼を見てため息をついた。
先ほどまで獣のような顔をしていたというのに。
今はまるで悪い事をして叱られた子犬のような顔をしている。
本当にこういうところは狡いと思う。

「...約束してね、意地悪するのも言うのも禁止だからね」

「!はい...!」

私がそう言うや否や彼は私を思い切り抱きしめた。
そんな彼の頭を撫でた。
2号を撫でるように。

そしてこの日の彼ははほんとうにしつこいくらい丁寧に大切に私を抱いた。


end