「2号はいいなぁ」
どこか彼に似ている、けれど感情豊な2号を抱き上げてそう呟けば2号は小首を傾げる。
「私もずっと一緒にいたい」
そんな2号を抱きしめれば2号はぺろぺろと頬を舐めた。
「黒子君にもそうやって甘えてるの?」
2号はまるでそれに肯定するかのように元気よくワン、と一回鳴いて尻尾を振った。
私も犬に生まれたらこんな風に可愛がってもらえたんだらうか、なんて考えてしまった。
「逆でもいいよね」
黒子君がわんこだったら毎日お散歩してお世話して、一緒に寝たりして。
でもやっぱり。
「私も黒子君のお家でお世話されたいなー」
そんな馬鹿みたいな話を2号に向かってしていたその時。
「いいですよ、うちに来ますか?」
背後からかけられた声に背筋が凍る。
振り向かずともその声が誰かなんて、分かりきっている。
「どうしました?名字さん」
黒子君は私の隣にしゃがんで顔を覗き込んできた。
私は大袈裟なくらい大きく顔を横に振って視線を逸らした。
「ご機嫌ななめですか?」
彼はそう言って私の頭を優しく撫でた。
この年齢になってそんなことをされたのは、ましてや好意を持っている男の子からそんなことをされたのは初めてだったので恥ずかしくてどんどん顔に熱が集まってきた。
「か、勘弁してください...!」
「いやですか?じゃあこっちがいいですか?」
彼はそう言って私に向かって腕を広げた。
「な、な、なななに」
「おいでってしてます」
彼は私に胸に飛び込んでおいで、と。
確かに2号はよく彼に抱かれているけれど。
2号になりたい、なんて言ったけれど私はあくまでも人間で。
黒子君は男の子で私の好きな人で。
「っ、揶揄わないでよ!」
「揶揄ってませんよ」
彼はそう言って先ほど私にしたのと同じように2号を撫でた。
「2号と一緒に僕のベッドで寝ますか?」
彼私に視線を合わせて笑う。
「その前にお風呂で綺麗に洗ってあげなきゃいけませんね」
「お、っ、そ、それ2号の話なんだよね!?」
「どう思います?」
彼は楽しそうに笑う。
明らかに揶揄われていると分かった。
「さっき名字さんが言っていたように別に逆でもいいですよ。」
「な、なんのこと?」
顔は熱をもって熱いというのに背中をいやな冷や汗が伝う。
「名字さんの家でお世話してくれますか?」
「い、いつから聞いてたの!?」
わりと最初からだと思います、と彼は平然と言った。
彼に向けられた視線が痛くて穴があったら入りたい、なんて事を人生で初めて本気で考えた。
「僕の為にご飯作ってお風呂で綺麗にして一緒のベッドで抱いて寝てくれますか?」
なんて口にした黒子君は小悪魔と評するのが適切なのではないだろうか。
火神君とのやりとりを見ていたら彼が少し意地悪な部分があることは分かっていたけれど。
こんな風に揶揄われたことは勿論初めてだ。
「でもまぁ、それも嬉しいですけど僕どちらかと言うと可愛がる方が好きなんですよね」
黒子君はそう言って私の手から2号を抱き上げた。
2号はやっぱり嬉しそうに尻尾を振って彼の頬をぺろぺろと舐めた。
「名字さんだったらいいですよ」
彼はそう言って自身の頬を人差し指でとんとんと叩いた。
「...し、失礼な妄想を口にしてすみませんでした。
お願いだから今日の事忘れて...!」
「別に怒っていませんよ。
むしろ可愛いなって思ってます」
彼は私の頬に手を添える。
「僕のこと大好きなんだなって」
彼はそう言ってくしゃりと笑う。
もう倒れてしまうのではないかというくらい顔に、頭に熱がこもる。
まだ告白なんてしていないのに、私の好意が彼にバレバレで。
「僕も名字さんのこと好きですから」
だから嬉しいです、そう言って頬にキスを一つ。
一瞬何が起こったのか分からなくて固まる私の頬を彼はむにっと親指と人差し指でつまんだ。
「僕の恋人になってくれますか?」
本当にうっすらだけれど彼の頬が朱くなっている気がする。
反応が出来ない私の硬直を解くかのように2号が再び一鳴き。
「...よ、よろしく...お願い、します...!」
私の返事に彼は満足そうに微笑んで2号を地面に下ろして今度は私を抱きしめた。
他人に聞かれてた恥ずかしいような妄想をよりによって好きな人に聞かれてしまった。
でもそのおかげで今日好きな人と結ばれた。
結果オーライと考えればいいのだろうか。
私を抱きしめる彼の身体は想像よりもずっと硬くて逞しくて、ああ、この人は私とは違う男の人なのだなとぼんやりと考えた。
(で、うちに来ますか?)
(え、じょ、冗談じゃなかったの?)
(週末両親がいないので、いくらでもお世話してあげられますよ。
まぁ2号にするだけのお世話じゃ終わらないと思いますけど)
(つ、慎んで遠慮させていただきます!)
end