「すっかりテツヤ君になついちゃったね」
「そうですか?」
私の家で飼っている猫は臆病で人見知りで。
自宅に来客があった時などはすぐに身を隠してしまうし偶然居合わせてしまった時は毛を逆立てて威嚇する。
初めて彼が私の家を訪れた際も警戒して隠れていた筈なのに。
いつの間にか彼の膝の上に自ら乗っていくようになっていた。
今も撫でてと甘えて彼の手に頭を擦り付けている。
これまで私にしかそんなことはしなかったのに少し妬いてしまう。
「やっぱり好みが似てるのかな?」
「好みですか?」
彼の膝の上でくつろぐその子の喉を撫でればごろごろと喉を鳴らして目を閉じた。
「私がテツヤ君の事大好きだからこの子も同じなのかなって」
「嬉しいこと言ってくれますね。
...まぁ、確かに似ていると思いますよ、貴方に」
彼はそう言って私の猫にしたのと同じように頭を撫でた。
「名前さんも結構人見知りで警戒心が強い方ですよね。
最初は僕の事も警戒していましたし、でも今はこんなに...」
腕を引かれ塞がれた唇。
でもそれはすぐに解放されて。
「もっとしてほしかったのに、って顔していますよ」
そして全て見透かしたように笑う。
なんというか、そう、小悪魔。
そんなところがあるのだ、彼は。
「テツヤ君の方が猫っぽいけどね」
「そうですか?では僕のことも可愛がってください」
彼はそう言って頭を下げた。
撫でろということだろう。
いつも彼が私にしてくれるのと同じように優しく撫でた。
目を閉じてじっとしている彼は本当に猫のような愛らしさがある。
「テツヤ君が本当に猫だったらきっと綺麗な子なんだろうなぁ。まぁ今のままでも猫耳とか鈴付きの首輪とか凄く似合いそうだけど」
「別に着けてもいいですよ。でも貴方にも着けてもらいますけど」
彼がそんなことを言うもんだから私は真剣に悩み始めた。
自分がそんなものを着けるなんて恥ずかしいことだけれど一時の恥を我慢すれば彼のそんな姿が見られてなんて。
私は携帯で彼の髪色の付け耳がないか検索することにした。
「...そんなに見たいですか?僕の猫耳」
「当然!絶対可愛いもん!」
まるでそれに同意するかのように彼の膝の上の猫が鳴いた。
そして猫はじっとしているのに飽きたのか彼の膝から降りて窓際に行って日向ぼっこを初めた。
「やっぱり人間の僕なんかよりよっぽどあの子の方が可愛いです」
「可愛さの種類が違うからいいの」
携帯を操作する私の背に回り彼は後ろから私に抱きついた。
そして彼も同じように自身の携帯を操作し始める。
そうしていること数分が経った頃彼が携帯の画面を私に見せてきた。
「これなんかどうですか?」
「...いや、別にいいけどこの服は着ないよ」
「これ含めて似合うと思ったのですが」
彼が見つけたものは付け耳と尻尾に加え服もセット販売されているものだった。
その服はどちらかと言うと下着に近い露出度のもので、更に鈴付きのリボンまで付いていた。
胸元は猫型に切り取られていてがっつりと谷間が見える、そんなもの。
「テツヤ君って意外とえっちだよね」
「まぁ僕も普通の男なので」
なにも悪びれる様子もなく彼はあっさりとそれを認めた。
「仮にそれ着るならテツヤ間も同じの着るんだからね。
ちゃんと男性サイズもあるみたいだし」
「え、なんでこれの男サイズなんてあるんですか?」
まぁ確かに彼の言う通りだ。
でも詳しく知っているわけではないけれど心が女の子、というわけではなくとも女の子の服を着たい男の人もいるとも聞いたことがあるしきっとそういうことなんだろう。
「困りましたね。これを着た名前さんは是非とも見たいんですけど僕が着るのは嫌です」
「じゃあダメだね」
そうきっぱりと切り捨てれば彼は悲しそうな顔をした。
こちらが彼のそういう顔に罪悪感を覚えてしまうことをきっと彼は分かってやっている。
「私だけ恥ずかしい思いするの嫌だもん」
「恥ずかしくなんてないです。絶対可愛いと思います」
「恥ずかしくないならテツヤ君も着ればいいじゃん」
私の言い分に彼は言葉を詰まらせてしまう。
何も理不尽な事は言っていないと思う。
けれどあまりにも落ち込んだ顔でこちらをじっと見てみるものだから、まるでこちらが悪い事をしているように思えてくる。
何かもう少し露出度がなくて可愛い代替案がないかと再び携帯で検索しようとしたその時彼が再び口を開いた。
「じゃあ僕も同じもの着たらこれ着てえっちしてくれますか?」
「なっ、えっ、な、何言ってんの?!」
彼の言葉に驚いて思わずむせてしまえば彼は大丈夫ですか?と言って私の背中をさすった。
誰のせいだと思いながらも呼吸を整えた。
「してくれるなら僕も着ます」
「...テツヤ君ってそんな人だったっけ?」
「本当は嫌ですけど目的の為には時には犠牲も付きものですから」
彼は馬鹿げたことを真剣な顔で語っている。
頑固だと思う時はある。
でもまさかこんなことで真剣になるなんて、と少し呆れてしまった。
「いや、うん、ごめん。
やっぱなかったことにしていいよ。猫耳諦める」
「なんでそうなるんですか!?嫌です、僕は貴方のこれを着た姿が見たいんです!」
本当に彼はどうしてしまったのだろうか。
こんなことに必死な顔をして。
「...そんなに見たいの?」
「はい」
なんて綺麗な目をしてこんな事を言うんだろうかと呆れてしまった。
でもそんな彼さえも可愛く見えてしまうのだから恋というものは本当に恐ろしい。
少し悩んで覚悟を決める。
別にそのくらいいいかと思えてきたのだ。
「分かった。じゃあこれ買おっか。
私の分とテツヤ君の分」
「!それってつまり僕のお願い聞いてくれるって事ですか!?」
今まで見た事がないような顔で彼は私にそう訊ねた。
内心軽く引きながらも首を縦に振れば彼は力いっぱい私に抱きついた。
「く、苦しいよ...」
「名前さん、ありがとうございます。
大好きです!」
「...うん、ありがとう」
嬉しそうにすりすりと顔を擦り寄せた彼を見て思った。
彼は猫や小悪魔というよりも犬っぽいな、と。
きっと彼に尻尾が生えていたならば今の彼は尻尾を盛大に振り回しているに違いない、と思った。
end