弱かった自分

20数年という人生全体から見ればまだそう長くはない、そんな時の中でさえ人に言えないような恥や失敗、過ちを犯してきた。
寧ろ何も後悔のない人生を送ってきた人間など殆どいないはずだ。
私も当然その大勢の内の1人で。
いや、寧ろ人より多いくらいかもしれない。
それでも周りの友人達と同じように勉強をして程々の人付き合いをして、大学に入りアルバイトやサークル活動をしながら勉強をし卒業して。
就職をして、親元を離れ自分1人を面倒見られる程度には自立して生きられるようになった。
まだ頼りなくともなんやかんや他人から見れば大人になれたのだと思っていた。

では大人とはなんだろうか。
きっと明確な正解はないのだろう。
それでも分からないなりに考えて出た答えの一つ。
それは自分の行動や発言から発生した結果に責任を持てること、それが最低限のラインではないだろうかと、そう考えた。
人のせいにしてはいけない、全て自己責任。
そう、だからこれはきっと私自身の責任、そう思う。

だがそれが分かっていたとしてもその全てを簡単に受け入れられるものばかりではないというのもまた...





「最悪だ...」

自宅のベッドの上で、目を覚まし1番に見たもの。
私を抱きしめて眠る男。
私には現在ベッドを共にする相手などいない。
顔を見なくとも分かる。
昔とは体格も髪型も変わってしまっている。
それでも脳裏にへばりついた懐かしい香り。
幼いなりに本気で恋をして、勝手に傷付いて、苦しんで自ら手離した人生で1番大好きだった人。

「...そんな風に言われてしまっては僕も傷付きます」

私の思わず溢してしまった一人言に彼はゆっくり口を開き閉じていた瞼を開きこちらを見た。
記憶とは違う、もうすっかり大人の男の人になった彼。
けれど私を見つめるその瞳は昔と何も変わっていない。

「......覚えてない、とか言うつもりはないけど」

「僕は言われる覚悟はしていましたよ。
だからといってはいそうですか、で終わらせるつもりもありませんでしたけれど」

彼から距離をとろうとしたけれど胸を押してみたものの背に回された彼の腕に力が入りそれは許してもらえなかった。
お互い服を着ていない状態で、ぴったりと肌と肌とがくっついて。
懐かしい彼の体温にこのままではいけないと思う心とは裏腹に身体は妙に安心してしまっていた。
どこまでも私の身体に染み付いた彼の記憶を忘れられない自分が憎い。

「...こんな、こと...」

「...僕は昨日の夜のことに何も後悔していません」

ぐい、と手で頭を引き寄せられ合わせられた唇。
いけないとこだと顔を逸らそうとしたところで男の人の彼の力に敵うこともなく、数分間彼に与えられるそれから逃れることを許されなかった。
以前の彼であればここまで強引なことはしなかっただろう。
私を想って、ひたすらに優しい、優しすぎた彼。
別れを切り出したあの日の彼の顔が昨日のことのように思える程、今でも彼は私の心に棲みついている。

「でもあの日、まだ子供だった僕が貴方を手離してしまったこと、それは後悔しています」

首筋に顔を埋めた彼、そこをちくりと小さな痛みが走る。
肩から鎖骨、胸元に、それは何度も何度も。

この痛みすら全て、全て覚えている。

「...や、だ...」

「...貴方のそれだって、本心ではないことを知っています」

まさに今目の前にいる彼が昔の彼とは違うことを証明するような言葉。
あの頃の彼は私が嫌だといえばすぐに手を止めてすみませんと、謝っていた。

「分かりますか?昨日僕を受け入れた身体が、まだ僕を迎えられる程柔らかく弛んでいるということを」

「っ、...ぁっ...!」

彼の指が私のソコに触れる。
そしてその指を私の身体は簡単に受け入れてしまった。

「昨日は沢山しましたから...まだ中は潤ったままです。
僕に抱かれて悦んだことを貴方をちゃんと覚えていますか?」

「んんっ...!あっ...そ、こ、ばっかり...!んんっ...!」

ピンポイントで気持ちいいところばかりを責められ簡単に感じてしまう自分が情けなくて泣きたくなった。
彼は再び私と唇を合わせひたすらソコだけを刺激して。
結局私はあっさりと彼の手によって達してしまう。

「昨日、泣きながら僕の事が好きだと何度も何度もキスを求めた事を覚えていますか?」

それは認めたくない事実だった。
はいもいいえも答えられない私を真っ直ぐに見つめる彼。
目を逸らしたくとも身体はいう事聞かない。

「お酒が入っていたとはいえ、あれは貴方の本心だと思いました。
だから貴方を抱いたんです」

彼と別れた後別の人とも何度か付き合った。
勿論身体を重ねたことも。
けれどその度に頭の中で彼が蘇り、そんな事を続けていたのだ、当然長続きはしなかった。

「僕は貴方を手離した後も何度も頭の中で貴方を抱きましたよ」

まっすぐに向けられた視線が熱くて溶けてしまうのではないかと、そんな馬鹿げた不安を抱いた。




大学を卒業し仕事を始め少額ながら初めて出たボーナスに浮かれて、友達とお酒を飲んで。
平凡な幸せに浸っていた帰り道、ばったり再開した彼を見て思わず涙が溢れてしまった。
彼は驚いた顔をしたあと同じように泣きそうな顔をして、何も言わずに私を抱きしめた。

『僕はまだあの頃と同じ、それ以上に貴方の事を愛しています』

気付けば私もそんな彼を拒むこともせず彼を受け入れ自宅に招き入れてしまっていた。

自宅へ入るなり再び唇を求める彼をベッドへと誘ってまるで動物のように互いを求め合って。

ぼろぼろと涙を流す私を見下ろす彼はとても苦しそうで。

『貴方を泣かせたいわけではないんです』

彼にそんな顔をさせてしまっているのは私だという事実に胸が苦しくなった。
だけど彼はただただ優しい。
荒々しい行為にすら私を想う気持ちが伝わってきた。

『もう後悔したくありません。これから先一生貴方を手離したくないんです』

こんなに心も身体も満たされたのはいつぶりだろうか。
元々彼はそうだった。
それでもあの頃の私はまだまだ子供で、手離しで信じる事ができなかった。
些細なことで嫉妬して、それを全部人のせいにして。
彼はいつだって私を見ていてくれたのに。




「僕が諦めが悪いことは知っているでしょう?」

ずぶりと再び押し込められた。
身体も心も彼を求めて離そうとしない、そんな錯覚を覚える程繋がっているこの瞬間にしっくりときた。
まるで元々一つだったかのように。

「...気付いていますか?今、どうなっているか」

熱くて堪らない

「昨日も同じです。何も僕と名前さんを隔てるものはないんです。」

私は一体なぜそれを受け入れたのだろうか

「もう時間の猶予なんて必要ないです。
僕達が離れた事が間違いだったんです」

どくんどくんと脈を打って

「結婚しましょう。
毎日おはようと言って、食事を共に摂り、夜は抱き合って眠りましょう」

なんの躊躇もなく注がれたものは愛情と呼ぶには少し歪なもので

「...愛しています。僕以上に貴方を好きな人なんていないしいたとしても負ける気もないです」

最後の一滴まで

「貴方だって、きっとこれから先僕以上に好きになる人なんて現れませんよ、絶対」

無責任だと呆れられるだろうか

「貴方はただ頷くだけで、それでいいんです」

間違っているのなら、過ちだというのならそれで構わない


「ずっと...一緒です」


貴方と一緒になら、罪を重ねることを厭わない


子供だった頃の私
抗う事ができなかった私

私は今日やっと覚悟が出来た

人を愛し、自分信じるという、その覚悟が


end