プール開き

「はぁ」

やけにわざとらしくため息をついた彼はぐったりと私の肩に頭を乗せた。

「...どうしたの?」

基本的に本当に悩みがある時は彼は隠す傾向がある。
だからこれまでの経験上きっと変な事を考えているのだろうと思いながらも一応訊ねることにした。

「もうすぐ体育が水泳になるじゃないですか」

「それがどうかしたの?泳ぐの苦手だっけ?」

「そういうわけじゃないんですけど」

彼は私の肩に顎を乗せてこちらをじっと見た。
あまりに至近距離で見つめられたことが気恥ずかしくて距離を取ろうとしたけれどそれを察した彼に抱きしめられてしまいそれは叶わなかった。

「...近い」

「いいじゃないですか。僕達恋人同士なんですから」

彼は甘えた声色でそう言って頬にむちゅっと唇を押し付けた。
少し前喧嘩のようなこと、いや、私が一方的に彼を避けていただけなのだけど。
まぁとにかくそんな事があった後なせいか今日の彼は異様に甘ったれだ。
こんな彼を彼の友人達が見たらどんな顔をするのだろうかと少し考えた。

「今僕以外の事考えていませんか?」

「...別に考えてないよ」

彼は妙にするどいところがあるから困る。
否定したものの彼は私に疑いの視線を向けていた。
私はそれが気まずくて無理やり話を戻した。

「それで?なんで水泳嫌なの?」

「...だって、水泳って男女別々だから名前さんとは別じゃないですか。
折角水着を着たって僕が見られないんじゃなんの意味も無いので同じ体育館やグランドで通常の体育をやってる方が全然良いです」

彼の悩みはやはりどうでもいいものとしか言えないものだった。
正直学校の授業で入るプールなんて私だって嫌だ。
きっちりと帽子を被らなければいけないのも嫌だしクラスメイトの前で水着を着ることも、授業の後まともに身体も洗えずにまた制服に着替えて授業を受けなければいけないことも全部。

「僕はいつだって貴方のこと見ていたいし触れていたいんです」

「...私全然気抜けなくなっちゃうじゃない」

彼はいつもこちらが返答に困るようなことを平然と言うのだから困ったものだ。

「別にきっちりしていなくてもそれはそれで可愛いのでいいです」

そう言って再び頬に押しつけられた唇。
過去の事を彼は積極的に語るようなことはないからこそよく分からないのだが彼は私以外の女の子とも付き合いこういうことをしていたのだろうかと少し気になった。
初めて彼に抱かれた時も私には随分余裕があるように見えたのだ。
と言っても私は彼が初めてだったので比較なんて出来ないのだけれど、それでも多分上手だったのではないかなと思っていたのだ。

「...また何か別のこと考えてます?」

「いや、その...でも考えてたのはテツヤ君のことだよ...」

再び向けられた疑いの視線。
鋭すぎるというのも考えものだと思いながら彼の頭を撫でた。

「僕の何について考えていたんですか?」

「......あんまりこういうこと聞くのアレかなって聞かなかったんだけど...わたし以外と経験あったのかな、って」

私の返事を聞いてきょとんとした顔を見せた。
この顔は可愛いと思いながらも一体どう返事をするのだろうかと内心ドキドキしながら待った。
もしかしたら誤魔化されてしまうだろうかと考えたけれど彼はあっさりと答えた。

「僕は名前さん以外経験なんてありませんよ。
恋人だって名前さんが初めてです。
なんでそんな事考えたんですか?」

「...いや、その...な、なんとなく?」

本当の事を話すことなど恥ずかしくて出来る気がしなかった私は彼から顔を背けた。
でも彼がそれを見逃してくれる筈もなく。

「ダメです。ちゃんと聞かせてください」

「ひゃっ!?」

べろりと耳を舐められた。

「い、いきなりそういうのっ!ほんとやめて!!」

耳を手で抑えて彼に向かって抗議すれば彼は嫌な笑みを浮かべ、その表情に嫌な予感を覚え逃げようとした私にそんな隙を与える暇もなく彼は私を床に押し倒してしまった。

「教えてくれたらやめてあげます。
どうして僕に女性経験があると思ったのか、早く答えてください」

逃げられないよう体重をかけ押さえつけられ再び耳を舌で弄られて、抵抗しようにも身体から力が抜けてしまう。

「っ、て、っテツヤ君、初めてした時から、その...上手な気がしたからっ...経験あったのかな、って...!だから、むぐっ...!」

このままではこれではすまなくなると察した私は正直に考えていた事を彼に話した。
一瞬彼の舌が止まったけれど私の言葉を聞いた彼は私の頬を掴んで唇にキスをした。

最初から口内に舌をねじ込んで激しいキスを浴びせる彼の顔を引き剥がそうとしたけれどその手首を掴まれあっさりと片手で床に抑えつけられてしまった。

「...それって最初から貴方を満足させてあげられてたってことですよね?
そんな嬉しいこと知ったらもう我慢出来ないです。」

もう一度、今度は触れるだけのキスを一回して嬉しそうな顔で彼は私を見下ろした。

「もっと満足していただけるように今日はいつもより頑張りますから」

開いた方の手で労わるように私の頬を撫でる。

「可愛い貴方を僕に沢山見せてください」

女の私よりよっぽど色気を含んだ目で見つめられた私にもうそれを拒む力は残っていなかった。












(あの、良い案が浮かんだんですけど)

(...なに?)

(名前さんに学校用の水着を着ていただいて今からもう一回戦、ってしたら不公平じゃないと思うんですよ。僕が貴方の水着姿を見せてもらえないことにたいして)

(...何を言っているのかちょっと分からない)



end