品定め

「名前っちこれ仕事で一緒になった女の子から貰ったんだけどどうっスか?」

「私が貰ってもいいの?ありがとう」

いつの頃からか妙に気さくに話しかけてくれるようになった黒子君の元チームメイトの黄瀬君。
彼の第一印象は正直怖かった。





『へぇ〜君が黒子っちの彼女?』

部活がオフの日、午前中から一年生で集まってストバスをすることになった日私も彼のプレイを見学していた。
午後からは私と2人で過ごすことになっていたからだ。
そんな時偶然通りかかった黄瀬君がテツヤ君に声を掛け次のプレイから混ざることになった。
そしてそれを待つ間彼は私に興味を持って話しかけたのだ。
品定めするような視線が少し怖くて挨拶をした後は彼を見ないようにしていた。

『黒子っちは真面目だからデートの時間なんて殆どなくて寂しいんじゃないっスか?』

けれど彼は私に話しかけてきた。
人見知りとまではいかずとも既に苦手意識が芽生えかけている人からのなんだか含みを感じる物言いに心は少しもやもやした。
だからと言って無視をするわけにもいかず返事をした。

『確かに殆ど毎日部活だけどちゃんと時間も作ってもらえてるしそもそも同じクラスで部活一緒だから大丈夫だよ』

それは強がりなどではない本音だ。
こちらが困ってしまう程全力で愛情表現をくれる彼に寂しいという感情を抱いたことはない。
けれどちらりと見た彼の顔はあまり私の言っていることを信じている様子はない。

私が気に入らないのかテツヤ君に近づく女に警戒しているのか、その理由は定かではないけれど。

『へぇ、女の子なのに珍しいっスね。
じゃあもし黒子っちにバスケに集中したいから別れたいって言われたらどうするんっスか?』

なぜこんな事を今日始めて会った人に言われなきゃいけないのだろうと少しイラついた。
でも多分この人に悪気はないのはなんとなく分かる。
多分この人はテツヤ君の事が好きなのだろう。
勿論私とは違う意味合いだと思うけれど。

もしも、なんて話あまり好きではない。
そんなこと言い出したらキリがないしわざわざ不幸な未来を想定して日々を過ごしたくない。

でもここでこの意地悪なテツヤ君の友人から逃げたところで多分同じような事が何度かおきるかもしれない。
だから私は正直に自分の気持ちを言葉にした。
それはテツヤ君の友人という立場の彼だからこそ見せた私の誠意だ。

『テツヤ君がそれを本気で言っているのだとしたら別れるよ』

『...へぇ、なんか、その程度...なんっスね』

彼はそう言って首をすくめた。
一体彼は私になんと答えさせたかったのだろうか。
そこで別れないと言ったところで今度は逆に邪魔になっているのが気にならないのか、なんて言っていたと思う。

『別れて私がテツヤ君を嫌いになるわけじゃないしテツヤ君だって同じだよ。
私を好きじゃなくなったのならちゃんとそれを伝えてくれる、そんな嘘に大好きなバスケを言い訳に使う筈がない。
だからいつかまた、何年後になってもいい。
改めて私から告白して、それでもフラれちゃったら諦める』

私にとっての精一杯の誠意を彼に曝け出した。
今度は彼の目を事真っ直ぐに見て。
彼は数秒間きょとんとした顔を見せた後先程まで見せていた警戒心たっぷりの姿勢をあっさりと解いた。

『そうっスか!...見かけより強いんすね。
さすが黒子っちの選んだ女の子っス!』

からりと気持ちのいい笑顔。
急激な彼の変化に多少困惑するものの取り敢えず先程彼から感じた恐怖が和らいだことに安堵した。

『さっきから名前さんになんなんですか、貴方は』

『テツヤ君』

テツヤ君は私と黄瀬君の間に強引に入って黄瀬君をじろりと睨みつけた。
黄瀬君は少し焦りながらもそんなつもりはなかったと言い訳している。
私としては少し良い気味だと思ってしまった。

『というか名前さん、貴方もです。
なんで仮定だとしても僕と別れるなんて簡単に言うんですか!
でもまぁそもそもバスケと恋人を同じ天秤にかけるなんておかしな質問をした黄瀬君が悪いんですけど』

テツヤ君は私を抱きしめて黄瀬君を睨みつけた。
人前に抱きしめられるなんて最初は恥ずかしかったけれど彼と付き合い始めてからは結構慣れてしまった自分もいる。
私達を遠めで見ている降旗君達も「またか」と言った表情だ。

『あと黄瀬君は間違ってます。
僕が名前さんを選んだわけじゃないです。
名前さんが僕を選んでくれたんです。
だから僕から別れるなんてありえないので余計な事言わないでください』

テツヤ君は黄瀬君にそう啖呵をきった。
黄瀬君には申し訳ないけれど私にとってそれは嬉しくて仕方なかった。
私も彼に抱き付きたくなったけれどさすがに今は、とぐっと堪えた。

『...そんな顔をされたら今すぐ押し倒したくなるのでやめてください!』

いつも通りの彼の言葉、私も現チームメイトももう彼のこんな姿には慣れている。
今この場で黄瀬君だけがそれに驚いて顔を引き攣らせた。
きっと彼がそんな事を言う人間だと知らなかったのだろう。
私だって付き合い始まるまで知らなかった。

『さっさとコートに入ってください。
ボコボコに負かしますから。
この後2人っきりでいちゃいちゃする予定なので時間がないんです。
なんせデートの時間なんて殆どないんですから』

嫌味をたっぷりと含んだ彼の言葉に黄瀬君の顔色が悪くなった。
ゲームが終わった後黄瀬君は土下座する勢いで私に謝ってくれた。
そんな彼を見てテツヤ君は怒らせてはいけない、と再認識した。





「美味しいね、どこのお店だろ?」

「なんかその子の地元の店らしいっスから簡単には行けない場所っぽいっスね」

彼に貰ったおやつを食べた。
あれから会う度にそういう事が増えた気がする。
認められたというより餌付けされるようになった、という気がする。
でもあの時の嫌な視線を向けられることは無くなったのでまぁいいかと思うようにした。

「いつも貰ってばっかりだから何かお返ししたいんだけど黄瀬君は何か好きなお菓子とかあるの?」

「別に気にしなくていいっスよ。
俺も貰い物あげただけっスから。」

ニカッと気持ちのいい笑顔を見せる彼はモデルをやっているだけあってやっぱりすごくかっこよかった。
彼に聞いたところではぐらかされてしまうので今度また何か奢ることにした。
あまり高いものを贈ればきっと更に倍以上のものが返ってきそうだから何を贈るか、はまだ悩みどころだけれど。

「黄瀬君、貴方最近名前さんに近付きすぎです」

「テツヤ君、お疲れ様」

彼は背中からぎゅーっと私に抱き付いた。
黄瀬君はもう見慣れたものといった様子でこちらを見ている。

「黒子っち俺に対するあたり強すぎないっスか?
別に取ったりしないから大丈夫っスよ!」

「まさか心当たりがないとでも言うんですか?
僕は名前さんに失礼な態度とったことまだ許していませんから。
貴方もモテるんだからさっさと彼女でも作っていちゃこらやっててください」

私に同意を求めるようにこちらを見たテツヤ君にさすがにどう反応していいか分からず黄瀬君に視線を向ければ彼も同じような顔をしていた。

「僕がいるのに僕以外の男を見つめないでください」

そう言ってテツヤ君は強引に自身の方を向かせ私にキスをした。
いくら彼のストレートな愛情表現に慣れたとは言えさすがに彼の友人の前でのキスは恥ずかしすぎた。

「...凄い人を好きになっちゃったっスね、名前っち...」

半ば同情のような視線を向けられた私に返せる言葉はない。
でも私自身、既にそんな彼が好きで堪らないのだから。

そんな彼を好きな私は幸せなのだと思う。


end