独占欲

とあるオフの日曜日、テツヤ君が黄瀬君達にストバスに誘われた。
それを聞きなら日曜は何をして過ごそうかなと考えていた所で携帯のメールの着信が鳴る。
送り主は黄瀬君だった。
それは日曜のストバスに私も来ないかというお誘いのメールだった。
有難い気遣いだったけれどそれでもテツヤ君にはテツヤ君の世界があり付き合いがあるだろうと思い断りのメールを入れようとしたところをテツヤ君に制止された。

「僕も名前さんを誘おうと思っていましたし都合が悪くないのでしたら来ていただけませんか。
...というかそんなことよりもなんで黄瀬君が名前さんの連絡先を知っているんですか!」

彼は私の携帯を取り上げて画面を睨みつけている。
アドレス交換をしたのは黄瀬君に言われたからだった。
多分黄瀬君もそう深い意味もなくテツヤ君の彼女だからという理由で聞いただけだろうと思いとくに何も考えることもせず彼と連絡先を交換した。
なんならテツヤ君の誕生日など悩んだ時相談出来れば、なんて考えた私の方が黄瀬君に対して下心があったかもしれない。

「黄瀬君とメールのやり取りなんて今日初めてだよ。
向こうも理由もなく私に連絡なんてしてこないと思うし」

そう言って彼の手から私の携帯を取り上げた。
彼は納得出来ないという顔で私をじっと見ていたけれど私は先に黄瀬君に了承したとうメールを返した。

「...私がテツヤ君しか見てないのまだ分からない?」

「...知ってますけどそれはそれとして嫉妬はします」

横からぎゅっと私を抱きしめて肩に顔を擦り寄せた彼に胸がきゅんとしてしまった。
彼は可愛いと言われるのはあまり好きではないので口にはしなかったが本当は抱きしめて撫で回したいくらい可愛いと思った。


それから約束の日が来て待ち合わせ場所のストバス場に着くと既に黄瀬君と火神君は到着していた。
中学のチームメイトといっても2人は県外の学校に通っている為そう簡単に参加は難しい。
だから今日は黄瀬君の他に青峰君と緑間君、そしてテツヤ君と火神君と同じく誘いを受けた高尾君というメンバーになったのだ。

黄瀬君と火神君は既に1on1を始めていた。
テツヤ君が軽く柔軟をしている所へ緑間くんと高尾君がやってきた。
マネージャーをしていたとはいえこの2人や青峰君と直接話をした事がなかったので改めて挨拶をすれば高尾君は明るく挨拶を返してくれ、緑間君も簡潔に返事をしてくれた。

テツヤ君と同じように2人も柔軟をし始めた。

「テツヤ君、私お茶持ってくるの忘れちゃったから先にちょっと自販機行ってくるね」

喉の渇きを感じ鞄からお茶を取り出そうとしたところでそれに気付いて彼に声をかけた。
着いて行きましょうかと提案した彼に1人で大丈夫と断ってベンチを立った。
確か階段を降りた場所に自販機があった筈だと階段を小走りで降りていたその時、目の前から眠そうに欠伸をしながら階段を登ってくる青峰君が視界に入った。
それに気を取られて階段を一段降りたところで床がずるりと動いてバランスを崩した。
どうやら表面のコンクリートが一部剥がれていたらしい。
落ちてしまうと気付いてぎゅっと目を閉じだ。
でもいつまで経っても落下することもなく衝撃もやってくる気配はない。

「...おい、大丈夫か?」

「あ、あ、ありがとう、ございま、す...」

それは青峰君がころげ落ちそうになっていた私を間一髪というところで支えてくれていたからだった。

私がしっかりと地に足が着いたところで彼の腕が私から離れた。

2人の間に気まずい空気が流れた。

「...悪いな」

「えっ!?い、いやいやそんな!!寧ろ助けてもらったのに!」

私が転びかけた時咄嗟に手を差し出してくれた彼が触れたのは私の胸だった。
私の体重を大きくかけてしまったのだ、あたってしまったというよりもがっちりと掴まれてしまったと言う方が正しい。
わざとではないことなんて当然分かっている。
ただ偶然手を伸ばした場所がそこだった。
そして彼が受け止めてくれなければ私は今頃大怪我をしていたかもしれないのだ。
感謝はしても怒る理由はない。

「...わ、私そこの自販機に行く、ので」

「...またなんかあっても困るから俺も着いててやっから早く...いや、ゆっくり行けよ」

青峰君はそう言って先ほど登っていた階段を私に続いて降った。
申し訳ないことになってしまったと思いながらも彼に続いて階段を降りて自販機でお茶を買った。
小銭を再び投入して先程のお礼に、と彼に好きなものを選ぶように言った。
彼は少し悩むもサンキューと一言、スポドリを購入した。

初めて彼と話をしたのがこんな形になってしまったことが気まずくて仕方ない。
でもそれ以上に今は彼に話さなければいけないことがあった。
階段を再び登りながら彼に話しかける。

「...さっきの...テツヤ君には言わないで...」

「...分かった」

青峰君は私のお願いに深く追及することもなく頷いてくれた。
別になにもやましいことなんてなかったけれどテツヤ君にとってはそういう話ではないということは彼と付き合っていく上で既に分かったことだ。


「おかえりなさい、名前さん。
...青峰君も一緒だったんですね。おはようございます」

「ただいま。う、うん、さっきそこで会って」

青峰君は適当におーと返事をしてバッグを下ろしジャージを脱ぎコートに入った。

「青峰っちちゃんと柔軟はした方がいいっスよ」

「黄瀬の言う通りだ」

「バァーカ、いいんだよ俺は。とっととやんぞ」

心配の声をあげる黄瀬君と緑間君の言葉を軽く流して青峰君は黄瀬君の持っていたボールを奪い取った。

そんな彼らのことをぼーっと見ていた私に視線が突き刺さる。
それが誰に向けられているかなんて確認せずももわかりきっている。

「...名前さん、もしかして何かありました?」

「...な、にかって?」

動揺して声が上擦ってしまった。
彼は私の頬に両手を添えて自身の方を向かせた。
じっと私の目を見る彼に気まずくなって思わず視線を逸らしてしまえば彼は小さくため息をついた。

「名前さんって嘘が下手ですよね」

頬をむにっと摘まんで彼はそう言った。
私はなんと答えていいか分からずに下を向いた。

「...僕には言えないことですか?」

「...その、そ、そういうこじゃない、っていうか...」

「僕が貴方に嘘や隠し事をされるのが嫌いって知ってますよね?」

言い淀んでいる私に彼がそう続けた。
どうにか誤魔化せないかと思って再び彼を見たけれどそれは間違いだった。
彼の強い視線に捕まってしまった私はもう彼から目を背けることは出来なくなってしまったのだ。

「そいつが階段で落ちかけてたの俺が受け止めた、そんだけだよ」

そんな時助け舟を出してくれたのは青峰君だった。
青峰君はそう言ってTシャツで汗を拭うとまたプレイに戻ってしまった。
テツヤ君はちらりと青峰君の方を見たあと私に視線を戻し再びじっと見た。

「本当にそれだけですか?...いえ、それより怪我はありませんでしたか?」

彼は心配そうな表情で私を見つめる。
こんなに優しい彼にこんな顔をさせてしまったことに胸が痛んだ。

「...うん、大丈夫」

「...やっぱり僕が着いていけばよかったですね。
でも貴方に何もなくて良かったです」

そう言って彼はようやく私の頬から手を離した。

私は内心それにほっとため息をついた。
誤魔化せたと安心して既にプレイしている彼らに混ざるよう促した。
彼の背中を見送った後先程買ったお茶を一口飲んで一息ついた。

みんなと混ざって楽しそうにバスケをする彼を見て罪悪感に胸が痛んだ。
あんなに私の身を案じてくれていたというのに。
そもそも青峰君に言われずとも私が早くそう伝えていれば済んでいた話なのに。

そう反省していた所で青峰君が1人分の距離を開けて隣にどかっと座った。

「...青峰君、さっきはありがとう」

「別に。...ま、俺は得しかしてねぇしもう気にすんな」

彼はそう言って私があげたスポドリを飲んだ。
多分気を使わないようにわざと茶化してそんな言い方をしたのだとは思うけれど私は先程のことを思い出して顔が熱くなってしまった。
もしかしたら赤くなっているかもと考え下を向くと隣で青峰君がカラカラと笑った。

そんな時だった。

「得ってどういう意味ですか」

みんなとプレイしていた筈のテツヤ君がいつの間にか青峰君の前に立っていた。
青峰君は悲鳴のような声を上げ身体を強張らせた。

「おっまえ!プレイ中でもねぇのにほんとその気配消して近付くのやめろ!」

「いいから僕の質問に答えてください」

詰め寄るテツヤ君に明らかに青峰君は困った様子で。
もう迷っている場合ではないと思って私はテツヤ君の手を取りコートの外へと連れ出した。

テツヤ君は戸惑いながらも私に着いてきてくれた。
ストバス場の管理棟の影まで移動して周りに人がいない事を確認した後私は一度深呼吸をして口を開いた。

「...さっき青峰君が助けてくれた時ね、...その、勿論わざとじゃないんだけどその時...青峰君の手が...私の、む、胸に、...ね?」

「......どっちの胸ですか?寧ろ両方ですか?」

彼はこちらをジロリと睨んだ。
怒っているというよりこれは...

「っ、ちょ、っと!だ、駄目だよこんなっ!」

彼は私を壁に追いやり両手で私の胸を鷲掴みにした。

「上書きです、当然でしょう。
貴方の胸に触れていいのは僕だけなんですから」

服の上からとはいえこんな場所で荒々しく胸を揉まれ恥ずかしくて心拍数が上がっていく。

「や、やだっ...!」

彼の顔を思い切り押し退けようとしたけれどそれは叶わなかった。
両手を取られ彼に片手で押さえつけられたのだ。

彼は苛立ちと熱を含んだ目でで私をじっと見て再び胸に手をあてゆっくりと顔を近付けようとしたその時。

「...黒子、テメェこんなとこで何やってやがる!」

そこに現れた火神君がそう声を荒げた。
その声に一瞬彼の力が弱まった隙をついて彼から逃げだして火神君の後ろに隠れた。

「っ、名前さん!?貴方が抱きついていい背中は僕の背中だけですよ!!」

「べ、別に抱きついてないよ!」

ただ盾にしただけ、そう言おうとしたところでその言い様はあまりにも火神君に失礼だと思って言葉を引っ込めた。

「ったくどーせ黒子がまた勝手に暴走しただけだろ、お前も大変だな...」

火神君は私に同情するような目を向けた。
チームメイトということもあり私と彼のいざこざに巻き込んでしまったことは多々ある。
本当に申し訳ないと彼の背に謝った。

「...名前さんが悪いんです」

テツヤ君は拗ねたように顔を背けてそう言った。
火神君は大きくため息をついてさっさと戻るぞと言ってテツヤ君の頭を軽くはたいたあと首根っこを掴まれた。
痛いですと文句を言いながらも彼は火神君に連れられていく。

少し間を空けて私も2人の後ろを着いていく。

2人の背中を見ながら火神君が来なければ今頃どうなってしまっていたのだろうかと想像して更に顔が熱くなった。

テツヤ君は歩きながらこちらを振り返りぱくぱくと口を動かした。


(後で覚悟しておいてください)


きっとそう言ったのだと思う。

それに気付いた後私はその場から動く事が出来なくなってしまいその場にしゃがみ込んでしまった。

早くこの熱が引いてくれることを祈りながら膝に顔を埋めた。





(もうやっぱりテツヤ君のストバスは観に行かない)

(僕だけ見て僕から離れなければいいだけの話です)

(も、もう触らないで!)

彼の気が済むまで胸をまさぐられた


end