「一晩なんてあっという間ですね」
「...そうだね...テツヤ君今日ストバスなんて大丈夫なの?」
昨日はかなり夜更かしをしてしまい起きたのは予定よりも2時間近く遅い時間になってしまった。
家を出なければいけない時間まで1時間と少し。
早くベッドから出なければと思っているのに中々身体が動かない。
それは彼も同じなようで私に抱きついたまま動こうとしない。
「それは全然大丈夫です」
「...それは...まぁ、うん...良かった...」
彼はもぞもぞと動いて私の胸に顔を埋める。
「でもまぁ、勿論みんなとバスケが出来るのは嬉しいんですけど貴方とずっとこうしていられないのも残念です」
すーはーと隠そうともせず私の匂いを嗅ぐ彼。
もう私から何を言う気にもなれなかった。
本当に慣れてしまったのだと思う。
「昨日ちゃんと髪乾かさなかったから...もう一回シャワー借りてもいい?」
「はい、一緒に浴びましょうか」
変に時間がかかってしまいそうだと感じながらも今日は彼の誕生日だということもあり私はそれに了承した。
やっぱり想像通り少し時間はかかってしまったけれど私が彼の髪を洗ってあげる間はおとなしくしていた。
時間がないことくらいは彼も把握しているのだろう。
シャワーを終えると今度は彼が私の髪と身体を拭いてくれた。
恥ずかしいので自分でやると伝えてはみたけれど昨日のお返しです、と丁寧に拭かれた。
「そ、それは自分でやるからっ!」
「僕がやりたいんです」
子供のように下着を履かされブラまで着けられて、それは脱がされることよりも恥ずかしく感じた。
「...大きくなりましたよね、前より、明らかに...」
下着に包まれた胸を人差し指で押しながら彼はそう言った。
「まぁ...そういう年頃なんじゃない、かな...」
「...もう僕以外に触らせちゃ駄目ですからね」
彼はまだ青峰君との事を根に持っているらしい。
あんなのただの事故のようなものだしそもそも私だって恥ずかしくて忘れたい事なのに。
「...青峰君はもっとおっきい方が好きだから大丈夫だよ...」
「...なんで貴方がそんなこと知っているんですか?」
不満げな顔でこちらを見る彼を見てしまったと後悔した。
適当に誤魔化そうとしたけれど今までそう考えてそれが成功した試しはない。
「...黄瀬君が、青峰君は巨乳の女の子がすきだって...」
「また黄瀬君ですか」
むぅ、っと頬を膨らませた彼は恨めしそうな顔をした。
「別に貴方と黄瀬君がどうにかなる、なんて思っていませんけど黄瀬君だって僕と同じ男なんです。
もし何か起こった時僕にすら力で勝てない貴方じゃ黄瀬君になんて絶対に勝てないんですからきちんと距離は保ってくださいね」
「さすがにそれ黄瀬君に失礼なんじゃない?
...というかそもそも黄瀬君だって私よりよっぽどテツヤ君の事の方が好きだよ...」
そう伝えると彼はうへぇっと顔を歪ませた。
なんというか時々黄瀬君が不憫に思える。
そもそも私相手に万が一になんて考える事自体あんなに完璧な男の子の黄瀬君には申し訳が立たない。
でもそれをそのまま言葉にすればそれはそれでテツヤ君は機嫌を損ねると分かっているので口にはしなかった。
「彼、顔だけはいいですから。
貴方の事を信用していないわけではありませんがもしそんな気が起きたら、と思うと気が気じゃ無いんです」
「...顔だけ...
なんていうか...でもまぁ私黄瀬君の顔よりテツヤ君の顔の方が好きだし、かっこいいと思ってるよ」
テツヤ君も黄瀬君の良いところなんて他にも沢山知っているだろうに、テツヤ君は黄瀬君に対しては少し素直じゃないところがあると常々思う。
「本当ですか?...別に僕は人の記憶に残るような顔してないと思いますけど」
「うん。...ほら、テツヤ君だって私より可愛い人なんていくらでもいるのに私の事可愛い可愛いって沢山言ってくれるでしょ。
それと同じで私がテツヤ君の好きだからこそかっこよく見えるんじゃないかな」
とは言いながらも贔屓目なしに見ても彼の顔は十分整っていると思うのだけれどと考えながら彼の頬を撫でた。
彼は珍しく照れたようで頬をほんのり赤く染めた。
「貴方より可愛い人なんていませんよ」
「...ほら、髪乾かさなきゃ」
平然とそんなことを言ってのける彼だから本当に困る。
お互い服を着てドライヤーを手に持って手招きすれば彼は素直に首を下げたので彼の髪にドライヤーの熱をあてた。
徐々にふわふわとしていく彼の髪に手櫛を通しながら丁寧に乾かしていく。
彼も大人しくさせるがままで、気持ちよさそうに目を閉じていた。
「...ずるいです、そんなの」
出来心で彼にキスをすれば驚いて目を開けた。
ごめんなさいと謝って最後にブラシで髪を整えればいつもの見慣れた彼。
「...貴方の分は僕がやりますので」
「うん、ありがとう」
「でもその前に...」
今度は彼の方からキスをして。
幸せそうに笑って私の髪にドライヤーをかけた。
私よりずっと丁寧に。
時折頭に触れる彼の指がとても心地よかった。
「やっぱり一緒に行きませんか?」
「駄目だよ、火神君ちで準備して待ってるから」
テツヤ君は最初中学時代のチームメイトとのストバスに私も誘ってくれていた。
彼だけではなくそれこと黄瀬君からも、最近連絡先を交換したさつきちゃんからも。
ありがたい話だとは思ったけれど私は誠凛高校に入って彼と出会って誠凛バスケ部の彼を好きになった。
誰かと彼の誕生日をお祝いするのだとしたら私は誠凛のみんなと彼の誕生日を祝いたい。
だから私は彼らと準備をする方を選んだ。
「楽しんできて?みんなと美味しいもの作って待ってるからね。
沢山動いてお腹空かせてきてね」
「...わかりました。あんまり僕のいない間に火神君達と仲良くしすぎないでくださいね」
シャワーを浴びる前に炊いておいたご飯でおにぎりを作って2人で食べた。
私は彼が握ってくれた三角とも丸とも言えない少し歪なおにぎりを、彼は私の握ったおにぎりを。
具なんてはいっていない塩で味付けして海苔を巻いただけのおにぎり。
でもそれは今まで食べたおにぎりの中で1番美味しかった。
「じゃあそろそろ出よっか」
「はい、でもその前にもう一度...」
歯を磨き軽く身だしなみを整えて荷物を手に持ち立ち上がったところでかれは私を抱きしめた。
手に持った鞄を一旦置いて私も彼の背中に手を回す。
「またあとでね、みんなで待ってるから」
「はい。本当に最高な誕生日をありがとうございました」
「まだテツヤ君の誕生日は終わってないからね」
プレゼントは何もいらないと前から言われていたけれどそれも寂しいと思ってこっそりと用意しておした。
実はみんなで割り勘で買ったプレゼントもあるのであまりお金はかけられなく、プレゼントは高価でもない、ただの自分で縫って刺繍を入れたブックカバーになってしまったけれど。
既製品ではなく特別なものを贈りたくてよく本を読んでいる彼にと選んだものだった。
部屋を出る前こっこりと置いてきたので彼がそれを見つけるのはストバスを終え誠凛の皆とパーティを終えた後だから夜になるだろう。
今日、彼が特別幸せな一日をすごせますようにと願って。
「いってらっしゃい、テツヤ君」
「はい、いってきます、名前さん。また後で...」
まだまだ、彼の誕生日は始まったばかり
end