今日は朝から1日コンビニでアルバイトに励んでいた。
シフトは夕方には終える筈だったけれど急遽出られなくなってしまったスタッフが出てしまい代理の人がすぐに見つかることもなく店長が困っていた。
普段からよくしてくれている店長だったので私が残れますと名乗り出て結局夜勤のバイトが来るまで残業をすることになった。
結果20時まで働くことになってしまった。
終わった頃にはへとへとになっていたのにバイト終わり同じ時間に上がった人とバックヤードで雑談していると思いの外盛り上がってしまい店を出たのは22時近くになってしまった。
もう人通りも少なくなった夜道を1人で歩くのは少し心細いなと感じ早歩きで帰っていた、その時だった。
同じクラスの黒子君の背中が見えたのは。
「黒子君?」
「名字さん?...こんな時間にお一人ですか?」
振り返った彼を見て安堵した。
声をかけてしまった瞬間これで人違いだったら、と内心焦ってしまったからだ。
「うん、バイトの帰り」
「お疲れ様です。でもこんなに遅くまで、あまり感心は出来ません。
もし何かあったら...名字さんは女性なんですから」
黒子君はクラスでは隣の席というのもあり顔を合わせれば自然と挨拶をするしなんてことのない雑談もする。
教科書を忘れたことにぎりぎりに気付いて友人から借りることが出来なかった際は彼の方から一緒に見ますかと声をかけてくれる。
優しい人、というイメージだ。
「実はバイトはもうちょっと前に終わってたんだけどその後バイト先の人と話し込んじゃって」
「そうですか...あの、名字さんって家こっちですか?
よかったらお送りしますよ」
黒子君は柔らかい表情でそう言った。
彼氏などまだ出来たことがない私は男の子に送ってもらうだなんて当然初めての事で内心動揺してしまう。
「え、でも...いいの?」
「はい、というかそうしないと僕が気になって安心出来ませんから。
名字さんのお宅はこちらで大丈夫ですか?」
「あ、うん...」
行きましょうと言って歩き出した彼に小走りで追いついて隣を歩く。
隣の彼をちらりと盗み見た。
今日は休日なこともあり彼は私服だ。
淡い優しい色合いのジャケットは彼によく似合っていた。
「どうかしましたか?」
「あ、ご、ごめん!...その、私服姿初めて見たから...黒子君に似合ってて素敵だなぁって...」
向けた視線はすぐ彼にバレてしまったようで、誤魔化す程のことでもないと思い正直に思ったことを話せば彼は一瞬きょとんとした顔をしたけれどすぐに柔らかく笑ってありがとうございますとお礼を言った。
なんというか同い年な筈なのにどうしてこんなに落ち着きがあるのかと不思議に思った。
「黒子君って大人っぽいよね。
凄く落ち着いてるし、今だってただのクラスメイトの私を家まで送ってくれたりなんかして...」
「そうでしょうか?
...でもなんていうか...少し複雑です」
黒子君はその場で足を止めた。
それに合わせて私も立ち止まり彼の方を見た。
「複雑って何が?」
彼は無言のまま私をじっと見つめる。
元々話す時はしっかり目を合わせて話してくれる人ではあったから慣れていた筈なのに暗闇の中で月に照らされた中彼の瞳は妙に煌めいて見えその瞳の美しさにどきりとした。
「僕と名字さんってただのクラスメイトですか?」
「...え...?」
彼から返ってきた予想外の言葉に上手く返事を返すことが出来ずにいると彼は眉尻を下げ少し寂しそうな顔をした。
「すみません、僕は勝手に友達くらいにはなれたと思っていました」
「え、あっ、うん!ごめん!!クラスの友達って意味だよ!」
そう返しはしたものの彼に友人の1人としてカウントされているなんて思っていなかったので驚いた。
でもそう思っていてくれたと知ってしまえば気まずくて仕方ない。
彼を傷付けてしまっただろうかと内心焦っていた私を見て彼は小さく笑った。
「大丈夫です。...それに、別にいいんですよ。
僕は別に名字さんと友達になりたかったというわけではありませんから」
「え、...も、もしかして怒ってる?...それはそれで傷付くんだけど...」
友達だと言ってくれたのは黒子君の方なのに。
わざわざ上げて直後急に落とされたような、そんな気分だ。
クラスメイトと私に言われて拗ねて意地悪を言われたのだろうかと彼を見たところで真意はわからない。
「怒っていませんよ。ちょっと寂しかっただけです」
彼はそう言うと私の手を取った。
彼の突然の行動にびくりと身体が跳ねた。
彼はちらりとこちらを見た後掴んだ私の手をじっと見つめる。
「く、黒子、君?」
「でも友達になりたかったわけではないというのも本音です」
黒子君はそう言って私の手を自身に引き寄せそのまま顔を近付けた。
「...僕の気持ちです」
そしてそのまま私の手の甲にそっと唇を押し付けた。
何が起こっているのか分からなくて私は硬直してしまう。
「僕、今日誕生日だったんです」
「え...」
黒子君は私の手を握ったまま話を続ける。
「中学時代の友達や、今のチームメイトに、試合で知り合った人達にお祝いして貰いました。
こんなに幸せな誕生日は初めてです...だから...」
黒子君は再び私の手に唇を寄せる。
私に向けられた目は本当に愛しい人を見る、そんな優しい眼差しをしていて。
「だから少し欲張ってしまいました。
こんな幸せな日に偶然貴方と会えたから。
...僕の好きな人に...」
彼はそう言って私の手を離した。
その直後、申し訳なさそうに笑う空を見て胸がざわついたのはなぜだろうか。
「まだ告白と思っていただかなくて結構です。
僕はまだ勝負の場に立てていないのだと分かりましたから。
...でも...」
美しい瞳に力強さが宿る。
その瞳は真っ直ぐに私を見る。
「今後はクラスメイトとしてでもなく友人としてでもなく、1人の男として貴方に接することにしました」
こんな彼を私は知らない。
隣の席に座る大人しく優しい男の子、ただそれだけだった筈なのに。
「僕って諦めが悪いんですよね。
...だから...覚悟しておいてくださいね?」
心臓の音がうるさい。
それは初めて告白のようなことをされたからだろうか。
「取り敢えず今は友人として責任を持ってきちんと貴方をお家までお送りしますので、帰りましょうか」
困惑する私なんてお構いなしの彼はいつのまにか普段と変わらない表情になっていた。
歩き始めた彼の3歩後ろを着いて歩く。
「僕名字さんのお家を知らないので後ろを歩かれては困ります。
それにちゃんと僕の見える場所にいてくれないとお送りする意味がありませんから」
ね?と子供に言い聞かせるように言った彼。
私は再び彼の隣に並ぶ。
心臓の鼓動は依然騒がしいままだ。
彼の横顔に視線を向ければすぐに彼もこちらを見て笑みを浮かべる。
そんな彼にぎこちなく笑顔を返せば彼はまた前を向いた。
私も前を向いて歩を進める。
「(今が夜でよかった...)」
外はこんなに寒いというのに、私の顔は熱でもあるのかというくらい熱くなっていた。
きっと頬は子供のように赤くなっているのだろう。
いっぱいいっぱいになっている中でふと気が付いた。
彼の告白があまりにも衝撃的だったせいでスルーしてしまっていた事実に。
「...黒子君」
再びその場に立ち止まって彼の名を呼んだ。
彼はびっくりするくらい優しい声ではい、と返事をした。
「...さっき言いそびれちゃった。
...誕生日、おめでとう...」
彼は一瞬驚いた顔をしたあとすぐに目を細めて笑う。
見たことがないくらい、本当に嬉しそうな笑顔。
「ありがとうございます!」
そんな彼を見て予感してしまう。
きっと私が彼を好きになる日はそう遠くないのだろう、と。
end