週間天気予報を見て思わずため息をついてしまった。
今週は雪が降るほど冷え込むらしい。
最近異様に寒かったり暑かったりすることが増えた気がする。
それでも平日は毎日学校があるものだから毎日足を晒して登校しなければならないのだからたまったもんじゃない。
そんな鬱憤を抱えた私にテツヤ君はどうかしましたか?と声をかけた。
「...今度の祝日テツヤ君ちじゃなくてうちじゃだめ?」
「え...あ...はい、別にいいですけど」
その日は彼のオフで久しぶりにお家にお邪魔することになっていた。
でも天気予報を見た私は外に出る事が嫌になってしまいそんな我儘を平然と彼に提案したのだ、最低な話だと思う。
優しい彼はあっさりとそれを承諾してくれたのだから尚更だ。
すぐに罪悪感におそわれた。
「ごめん、今のやっぱなし。ちゃんとテツヤ君のお家にお邪魔させてもらいます」
「...僕は別にどちらでも構いませんが...ああ、成程、そういう事ですか」
私の持っていた携帯のディスプレイに表示されていた天気予報を見た彼は私の考えていたことにすぐに察したらしい。
「いいですよ、僕が名前さんのお家にお邪魔させていただきますから」
「うっ...いや、その...ごめんなさい」
理由を知ってもなおそう言ってくれる彼にますます良心が痛みはじめた。
元は自分が言い出したことだというのにそれもおかしな話なのだけれど。
「寒いの苦手ですもんね、普段であれば学校でこんなことさせてくれないのに今日は何も言われませんでしたし」
こんな、とは今私は彼の足の間に座って後ろから抱きしめられている状況のことだ。
祝日はともかく今日もおそろしく寒いのだ。
教室はエアコンが付いているけれどそれは非常にエコな温度に設定されており元来寒がりの私には正直厳しかった。
だから寒がる私においでと言った彼の誘いに素直に応じたのだ。
ただ暖を取るために。
「...テツヤ君って人の目とか気にしないよね」
「まぁそうですね。基本的に自分がやりたいことをやってる上でそういうことはあまり気にならない方だと思います」
彼はそう言うと私の肩に顎を乗せた。
ここは教室で今は昼休み、教室に人は疎らではあるが誰もいないわけではない。
でも不思議と私たちを認識して視線を向ける人は殆どいない。
それは彼の影の薄さというもののおかげなのだろうか。
真偽は分からないけれど寒がりの私にとってはありがたい話だとポジティブに考えることにしている。
「テツヤ君って意外と体温高いよね。やっぱ運動部だからかな」
「多分火神君はもっと高いですけどね。でもまぁ良かったです。それで貴方がこうしていてくれるのですから」
お腹に回された腕に力が入ってよりぴったりと体が密着した。
人から見れば私たちって相当バカップルに見えてるんだろうなぁとか考えていると前に座って眠っていた火神君が目を覚まし大きな欠伸をした後こちらを振り返った。
「おはよう、火神君」
「...お前ら教室でいちゃつきすぎだろ」
火神君は若干引き気味でそう言った。
全くもってごもっともなご意見だと思う。
教室には午後の授業の為に戻ってきた人も増えてきた。
そろそろ自分の席に戻ろうかと立ち上がろうとしたけれど私のお腹に回された腕がそれを拒む。
「...テツヤ君?」
「......ぐー」
それはそれは明確な狸寝入りである。
眠っている人間がこんなに力強く私を抱きしめるなんてあり得ない。
「火神君、どうしよう。離してくれる気がないんだけど」
「...んなのぶん殴って引き剥がせばいいじゃねぇか。おい、黒子!」
テツヤ君は完全無視を決め込んで狸寝入りを続けている。
まぁ彼のこんなところは可愛くもあるのだけれど少し困ったことになった。
火神君が大きな声でテツヤ君の名を呼んだ事でクラスメイトの視線がこちらに向いてしまっているのだ。
あの2人って付き合ってたんだ、とか黒子君って意外にああいうことするんだとか小声で話される声が私の耳に入ってくる。
私に聞こえているということは彼の耳にも当然届いている筈である。
「...テツヤ君、起きて」
眠ってなどいないとわかっているのだけれど今はそうしておいた方が得策だと思い彼の狸寝入りを信じた体で彼の手をぺちぺちと叩いた。
「...まだ、予鈴鳴っていませんから」
小声で私にだけ聞こえるボリュームでそう返された。
時計を確認する、予鈴までの時間はあと3分程。
「...火神君、テツヤ君は予鈴が鳴るまで絶対に起きられないみたい」
「...こいつほんとに...」
火神君はうわぁという顔で彼を見た後もう関わりたくないと思ったのかそれ以上何も言わずに私達から顔を背けた。
いくら寒かったからとはいえやはり教室でこんなことをするものではないなと後悔しつつどうしようもなく私は携帯を開きインターネットで防寒グッズを検索した。
充電式のカイロや発熱効果があるとされるタイツを買ってみようかなと思っていたところでようやく予鈴が鳴った。
「テツヤ君、予鈴鳴ったよ」
「...はい」
彼はしぶしぶといった形で私のお腹に回した手の力を緩めた。
私は立ち上がりこちらを見上げる彼を見下ろした。
先程まで温かかった背中がまた少し寒さを感じた。
「あの、さっきの話だけどちゃんと私が行くから」
「いえ、それは本当に大丈夫なので、僕が行きますからお家であたたかくしておいてください。でも...」
彼は私の手首を掴んで自身の顔に私を引き寄せた。
私はバランスを崩しそうになったところを彼の肩を掴んでなんとか持ち堪えた。
そして耳元で彼は私に囁くように言葉を紡ぐ。
「だから今度は名前さんが僕のことを沢山暖めてくださいね」
そう言って彼は頬に唇を押しつけてすぐに私を解放した。
慌てて周りを見渡してみたけれど誰にも見られた様子はない。
もう一度見た彼の顔は普段と何も変わらない、涼しい顔をしていた。
本当に肝が座った人だと改めて思った。
「...私の部屋こたつ出してるから多分あったまれるよ」
「いえ、僕名前さんでしか暖を取れない体質でして」
そんな体質あってたまるかと内心ツッコミを入れながらも授業の為に自分の席に着いた。
やはり楽をしようとして他人に甘えすぎてはいけないのだと身をもって知った日になった。
もっともそれが本気で嫌なわけではないのだから、多分今後も同じように彼に甘えてしまうことは沢山あるのだろうという予感はしているのだけれど。
ちらりと彼に視線を向ければこちらを見てにっこりと笑って小さく手を振った。
まぁ彼が楽しそうだからいいか、とそれ以上考えることはやめた。
(火神君はテツヤ君より体温高いって聞いたけどほんと?)
(いや、知らねぇけどまぁこんだけ体格差あれば普通そうなんじゃねぇ?)
(じゃあもう火神君はストーブみたいなもんだね)
(火神君じゃ熱すぎて火傷しちゃうから名前さんには僕で丁度いいんです!)
(...火神君にあんなことしてもらおうなんて言ってないのに)
end